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バタフライエフェクトギルド〜異世界のギルド、書類が山積みだったので全部やっておきました〜  作者: くろかっぱ
三章

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第四十話:橋を、落とすな

夜が深かった。

地図を広げたまま、動けなかった。

橋だ、とガドが言った。

レイモンドが落とします、と言った。

それだけだった。

ケンジにはわからなかった。

わからないまま、執務室を出た。わからないまま、食堂に戻った。わからないまま、地図を見ていた。

アンばあさんが隣に来た。

何も聞かなかった。

お茶を置いた。


「寝て、ケンジさん」


それだけ言って、去った。

地図から目が離せなかった。



橋。

ベルタの南。ランバルトとの間にある橋。

なぜ今回、使わなかったのか。

ラルタ側の浅瀬から渡った。百人以上が、冬の川を渡った。橋を使えば楽だったはずだ。


なぜ。


帳面を開いた。

書いた。


橋を使えばベルタ狙いがバレる。


止まった。

だから使わなかった。

もう一行書いた。


本攻めで使う気だ。


帳面を閉じた。

窓の外が、少し白んでいた。

寝ていなかった。



朝、ガドの執務室に向かった。

ノックして入った。

ガドがすでに地図を見ていた。


「橋を落とさないでください」


ガドが顔を上げた。

目が細くなった。


「理由を言え」


「今回、橋を使わなかった理由を考えました」


「言え」


「橋を使えばベルタを狙っているとわかる。だから浅瀬から渡った。ベルタの戦力を測りながら、狙いを隠した」


ガドが黙っていた。


「本攻めなら、橋を使う可能性があります」


「それがわかっていて、なぜ落とさない」


少し間があった。


「罠にします」


部屋が静かになった。

ガドがしばらくケンジを見ていた。


「続けろ」



帳面を開いた。

「橋を使わせます」


帳面に一本線を引いた。

「渡り切る前に切ります」


ガドが言った。

「橋の上と、川の中か」


ケンジが頷いた。

ガドが腕を組んだ。


「その先は」


「身動きが取れなくなったところを三方向から」


ガドが続けた。

「橋を切るタイミングを誰が決める」


少し止まった。

「ゴルドさんです」


ガドが少し目を細めた。


「魔石通信で合図を送ってもらいます。川の両岸に人を置いて、渡り切った瞬間に落とす」


「橋を落とせるか」


「ゲオルクさんに聞きます」


ガドが地図を見た。

しばらく黙っていた。

「レイモンドを呼べ」



三人が集まった。

レイモンドが地図を見た。

ケンジが説明した。

レイモンドがしばらく黙っていた。


「……橋を落とすのは同じですが」

少し間があった。


「渡らせてから落とす、ということですね」


「そうです」


レイモンドが地図の橋の印を指でなぞった。


「渡り切った兵が川に落ちる」


「はい」


「戻れない」


「戻れません」


レイモンドがしばらく天井を見ていた。

「……冬の川ですねえ」


静かな声だった。

ガドが「やれるか」と言った。


レイモンドが地図を見た。

「やりますよ」



ゲオルクの鍛冶場に向かった。

扉を開けると、金属を叩く音がした。


「ゲオルクさん、少しいいですか」


「なんだ」


「橋を落としたいんですが」

少し考えた。

「落とせなくても、使えなくできれば十分です」


ゲオルクが手を止めた。

振り返った。

「橋を」


「渡り切ったところで、一瞬で」


ゲオルクがしばらくケンジを見ていた。

腕を組んだ。

「……面白いな」


少し間があった。

「見に行く」



橋を見に行った。

ゲオルクが橋の下を確認した。柱を叩いた。石組みを見た。

しばらく黙っていた。


「できる」


「どれくらいかかりますか」


「三日あればいい」


「急いでもらえますか」


ゲオルクが「まあ、うまくやれ」と言った。

いつもの言葉だった。

でも今日は少し違って聞こえた。



ギルドに戻る道で、カーラが来た。

「川向こう、また動いています」


止まった。


「増援ですか」

「まだわかりません。ただ」


カーラが少し間を置いた。


「人が増えています」


帳面を開いた。

三日。

ゲオルクに三日もらった。


「カーラさん、監視を続けてください」


「わかりました」


カーラが踵を返した。

レイクロークの黒が、朝の光の中に消えた。



ギルドに戻った。

カウンターにジンがいた。

魔石を並べていた。


「増やしています」


「ペアは何組になりましたか」


「四組です。ゲオルクさんが割り方を教えてくれました」


「橋にも置きます。ゴルドさんに頼めますか」


ジンが少し止まった。

「……橋に」


少し考えた。

「帰ってくる合図ですよね」


ケンジを見る。

「そうです」


ジンが頷いた。

「わかった」


帳面に書き込んだ。

魔石四組。橋の細工三日。川向こうの動き、増援の可能性。

時間が足りないかもしれない。

でも、動ける。



夜、アンばあさんの食堂だった。

全員が揃っていた。

誰も多くを語らなかった。

マレクが串を焼いていた。

炭火が静かに燃えていた。


トールが「ケンジさん、昨日寝ましたか」と聞いた。


「少し」


「少しってどれくらいですか」


「少しです」


ゴルドが「余計なことを聞くな」と言った。

トールが「すみません」と言った。


アンばあさんが隣に来た。

お茶を置いた。

何も言わなかった。


炭火が揺れた。

三日後が来る。


間に合うかどうか、まだわからない。

でも今夜は、ここにいる。


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