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バタフライエフェクトギルド〜異世界のギルド、書類が山積みだったので全部やっておきました〜  作者: くろかっぱ
三章

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第三十九話:戦えない男の、作戦

夜が明ける前だった。

ギルドの執務室に、四人が集まっていた。

ガド、レイモンド、カーラ、ケンジ。

帳面を開いた。


「作戦を話します」

全員が黙った。


「正面はわざと引きます」

ガドが目を細めた。


「引く理由は」


「川に部隊を集めるためです。渡河ポイントは一箇所。そこに集中させれば、後方の警戒が手薄になります」

レイモンドが「なるほど」と言った。ペコペコが止まっていた。


「手順です。最初に火喰鳥と漁師衆で正面を受ける。一度引く。川に部隊が集まったところで新人二十人を弓と石投げで封鎖してもらう」


カーラが「川を押さえる」と言った。


「そうです。動けなくなったところで」


帳面を閉じた。


「ガドさん、カーラさん、フィンさんに補給部隊を叩いてもらいます」


部屋が静かになった。


ガドが腕を組んだ。

しばらく黙っていた。

「それだけでいいのか」


「軽装で荷も少ない。長く留まる軍じゃないと思いました」


少し間を置く。


「だから補給を切れば止まると思います」

また沈黙があった。


ガドがカーラを見た。

カーラが頷いた。

「道はわかっています」


ガドが立ち上がった。


「動くぞ」


それだけだった。



夜明けと同時に、川が騒がしくなった。

ランバルト軍が動いていた。

浅瀬に向かって、部隊が進んでいる。旗がある。声がある。隠す気がない動きだった。


火喰鳥と漁師衆が川岸に出た。

マルコが漁師仲間の先頭に立っていた。


網を持っていた。

武器じゃなかった。

でも目が違った。


ブロンが斧を肩に担いだ。

「来るぞ!!」


ゴルドが「声を落とせ」と言った。

ブロンが「すまん!!」と言った。


川向こうから矢が来た。

リアが双剣で二本弾いた。


トールが魔力を張った。

「押さえます!」


漁師たちが動いた。

川を知っている動きだった。石を知っている。流れを知っている。足元が揺れない。

ランバルト兵が川に入ってきた。

足を取られていた。

流れが読めていない。

マルコが網を投げた。


「引け!!」


漁師たちが一斉に引いた。

川に入っていた三人が転んだ。

ブロンが「おおっ!!」と言った。

ゴルドが「まだだ」と言った。



十分後、火喰鳥が引き始めた。


ゆっくりだった。

崩れたわけじゃなかった。

整然と、後ろへ下がった。


ランバルト軍が川を渡ってきた。

追ってきた。

川に、部隊が増えた。


渡り終えた者、まだ川の中にいる者、後ろから押してくる者。

浅瀬が、人で埋まった。



川岸の高台に、ゲッツがいた。


新人二十人が横一列に並んでいた。

弓を持つ者、石を持つ者。


ゲッツが川を見ていた。

数を数えていた。


「……今だ」


静かな声だった。


「放て」

矢が飛んだ。石が飛んだ。

川の中に、雨のように降った。

ランバルト兵が止まった。

渡れない。引けない。川の中で動けなくなっていた。

川から上がった者が膝をついていた。冬の川だった。


ゲッツが「次」と言った。

また飛んだ。


「次」

また飛んだ。


新人たちの手が震えていた。息が白かった。でも誰も止まらなかった。



同じ頃、川から離れた森の中だった。

三頭の馬が止まっていた。


ガドが川の方角を見ていた。

カーラが魔石を握っていた。

フィンが無言で補給部隊の方角を見ていた。木々の向こうに、荷車が見えていた。警戒が薄かった。


石が震えた。

ゴルドの声だった。


『今だ』


二文字だった。

ガドが馬を動かした。

カーラとフィンがついた。


音がなかった。



補給部隊が気づいた時には、遅かった。

ガドが先頭だった。

魔力が漏れていた。

怒っているわけじゃなかった。叫んでいるわけじゃなかった。

ただ、目が違った。

何かを決めた人間の目だった。


補給部隊が散った。

荷車が止まった。


カーラが動いた。レイクロークの黒が木々の間を抜けた。輪郭がなかった。気づいた時には、もう別の場所にいた。


フィンが動いた。

音がしなかった。

いるとわかっているから、いる。それだけだった。


三人で、荷車を潰した。

馬を逃がした。

火をつけた。

全部は止められなかった。

でも運ぶ速度は落ちた。



川の音が戻ったのは、昼前だった。

ランバルト軍は引いていなかった。

止まっていた。

川岸に兵が集まっていた。

渡る者もいない。

戻る者もいない。

動きが止まっていた。


マルコが言った。

「……終わりましたか」


ゴルドが首を振った。

「違う」


川を見る。

向こう岸で、人が動いていた。

荷をまとめていた。

陣を組み直していた。


ゴルドが言った。

「考え直してる」


トールが聞いた。

「勝ってないんですか」


少し間があった。

「今日はな」



夕方、執務室だった。


ガドが椅子に座った。

少し黙っていた。

「止めきれなかった」


誰も喋らなかった。

「荷車は落とした。馬も散らした」


短かった。

「だが少ない」


レイモンドが聞いた。

「少ない、とは」


ガドがカーラを見た。

カーラが答えた。

「保存食が少ないです」


少し考えた。

「百人を十日食わせる量じゃない。三日分もなかったと思います」


部屋が静かになった。

ガドが続けた。

「補給を切れば止まると思った」

短かった。


「止まらないかもしれん」


カーラが懐から紙を出した。

「これもありました」


広げた。

地図だった。

ラルタ村。

ベルタ。

印が二つ。


ケンジが見た。

止まった。

少しして言った。

「……最初から長居する気がない」


誰も喋らなかった。


レイモンドが静かに言った。

「偵察か、陽動ですねえ」


ガドが地図を見た。

川沿いの印を、指でなぞった。

しばらく黙っていた。

レイモンドを見た。


レイモンドが地図を見た。

二人の間で、何かが通じた。

ケンジにはわからなかった。


「橋だ」

ガドが言った。


ケンジが止まった。


レイモンドが静かに言った。


「落とします」


ガドが頷いた。

それだけだった。


川向こうは、静かだった。

静かすぎた。


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