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バタフライエフェクトギルド〜異世界のギルド、書類が山積みだったので全部やっておきました〜  作者: くろかっぱ
三章

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第三十八話:繋がった夜

夜だった。

川の音だけがしていた。

カーラは葦の陰に伏せていた。レイクロークの黒が、夜に溶けている。輪郭が、ない。


隣にフィンがいた。

気配がなかった。いるとわかっているから、いる。それだけだった。


川向こうに、火があった。

多かった。

隠す気がない火だった。


カーラは数えた。

焚き火、十七。人影、数えきれない。前より増えていた。装備が軽い。荷が少ない。長く留まる気がない連中の顔だった。


川岸に、三人出てきた。

水面を見ていた。川幅を測るような目だった。


カーラの腹の底で、何かが冷えた。

怒りではなかった。

恐怖でもなかった。

ただ、冷えた。


フィンが指を動かした。

川下を指していた。

浅瀬だった。石が見えている。人が渡れる。荷車も、おそらく。


カーラは頷いた。

帳面を出した。暗闇の中で、手探りで書いた。

渡河ポイント、川下の浅瀬。今夜は動かない。明日以降。

書き終えて、川岸の三人をもう一度見た。

笑っていた。

略奪に来る人間の顔だった。



同じ頃、ラルタ村は静かだった。

静かすぎた。

ゴルドが村の入り口に立って、川の方角を見ていた。

「……来るな」

誰にも聞こえない声で言った。


ブロンが後ろから来た。声を落としていた。それだけで、いつもと違った。

「ベルナーさんに話した。避難路、三本確認した」


「マルコは」


「今夜は漁師仲間を集めている。戦える人間の数を出すって」

ゴルドが「止めろ」と言った。

「止めた。でも」


ブロンが川の方を見た。

「ここの人間は、逃げたくないんだ」


ゴルドが黙った。

しばらくして、言った。

「わかる」

それだけだった。


リアが走ってきた。

「繋がりそうです」



村の外れに、トールが座っていた。

膝の上に魔石を二つ乗せていた。

「……またノイズが」


「魔力の込め方が均一じゃない」

リアが言った。


ゴルドが横を見た。

「魔力が揺れている」


「わかってます」


「わかっているなら」


「わかってるのとできるのは別で——」


「黙って試せ」


トールが口を閉じた。

石に手を置いた。

息を整えた。

魔力を、細く、均一に、込めた。


石が、震えた。


ベルタから、声が来た。

『こちらケンジ。聞こえますか』


全員が止まった。


リアが小さく息を吐いた。

ゴルドが「繋がった」と言った。

ブロンが何か言いかけて、黙った。

トールが石を両手で包んだ。


「……聞こえます」

声が、少し震えていた。



ベルタのギルドだった。

カウンターの上に石が並んでいた。

ジンが石を見ていた。ゲッツが腕を組んでいた。ティナが両手を口に当てていた。ミーデルが帳面を持ったまま固まっていた。マーサが「聞こえた……」と呟いた。

ケンジが石に向かって言った。


「状況を報告してください」


『ラルタ村、避難路三本確認。村長了承。マルコさん、漁師仲間を集めています』

ゴルドの声だった。


「マルコさんに戦闘は止めてもらってください」

『止めました』


ジンが「繋がってる」と言った。当たり前のことを言っていた。でも誰も笑わなかった。


次の石に魔力を込めた。

「カーラさん、聞こえますか」


少し間があった。

川の音が、かすかに聞こえた。


『聞こえます』

カーラだった。

声が静かだった。川の向こうにいる声だった。


「状況を」


『渡河ポイント確認。川下の浅瀬。今夜は動かない。明日以降です』


「わかりました。戻ってきてください」


少し間があった。


『カーラ、フィン、帰還了解』


それだけだった。

ティナが泣いていた。声を出さずに泣いていた。



川岸に、また風が来た。

カーラは葦の中で、石が震えるのを感じていた。


ケンジの声が届いた。

『戻ってきてください』


フィンが動いた。

無言だった。「行くぞ」とも「今だ」とも言わなかった。ただ、一歩、後ろに下がった。それだけだった。

カーラは川向こうの火を、最後にもう一度見た。

笑っていた三人は、まだそこにいた。

見た。

覚えた。

それだけでいい。


レイクロークの黒が、夜に溶けた。

二つの影が、音もなく消えた。



ベルタのギルドに、もう一つ石が震えた。


カーラだった。

『ベルタに向かっています。異常なし』

次にフィンだった。

『同じく』


短かった。

それだけで十分だった。


ゲッツが「全員繋がったな」と言った。

ジンが「……多分、まだ一人いますよ」と言った。


全員が石を見た。

しばらく、何もなかった。

それからざ、という音がした。


『——け゛んじ゛さ゛ん゛!!き゛こ゛え゛ま゛す゛か゛!!』


全員が固まった。

ジンが「今の雑音の声は誰ですかね」と言った。

静かな声だった。

「多分、トールさんです」


ケンジが石に向かって言った。

「トール、練習しましょう」


『ぜ゛ひ゛お゛ね゛が゛い゛し゛ま゛す゛!!』


ティナがまだ泣きながら笑っていた。

「……ちゃんと繋がってますね」



川の向こうで、火が燃えていた。

明日が来る。

でも今夜は、繋がった。


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