第三十七話:始動
第三幕です。
ここから少し空気が変わります。
いつも通り、よろしくお願いします。
「場所を変える」
ガドが言った。
カーラ、レイモンド、ケンジがついていった。
◇
ギルド裏に残された面々が黙っていた。
炭火がまだ燃えていた。
トールが「何をすればいいですか」とゴルドに聞いた。
ゴルドが「待て」と言った。
アンばあさんがお茶を入れ始めた。
誰も何も言わなかった。
◇
執務室に四人が集まった。
ガドが「話せ」と言った。
カーラが口を開いた。
「魔獣狩りで遠征範囲が広がっていました。川向こうに近い場所まで行った時に見ました」
「装備は」
「歩兵が主体です。弓も見えました。騎馬は少ない」
「動きは」
「まだ待機しています。ただ、物資の搬入が続いていました。準備を整えている段階だと思います」
ガドが黙った。
レイモンドが黙っていた。ペコペコが完全に止まっていた。別の顔だった。
「どこを狙ってくると思いますか」とケンジが聞いた。
カーラが少し考えた。
「わかりません。ただ川を渡ればラルタ村がすぐです。小さい村です。まず落として足場を作るなら、そこが手頃だと思います。でもベルタを直接狙う可能性もあります」
部屋が静かになった。
帳面を開いた。
「確認させてください」
全員がこちらを見た。
「今ベルタで動ける冒険者は何人いますか」
ガドが「鉄級以上で三十前後だ」と言った。
「王都からの援軍が来るまでどれくらいかかりますか」
レイモンドが「早くて十日、通常なら二週間です」と言った。
「ラルタ村のマルコさんたちで持ちこたえられる時間は」
カーラが「村の規模から考えると、数日が限界だと思います」と言った。
帳面に書き込んだ。
十日対数日。間に合わない。
「魔石通信を急ぎます。ラルタ村と繋がれれば動きを察知できます」
「間に合うか」とガドが言った。
「わかりません。でも今夜から動きます」
ガドが頷いた。
「今夜やることを決める」
顔を上げた。
「一つ、王都への報告」
指を折る。
「二つ、ラルタ村への警告」
もう一本。
「三つ、川向こうの監視体制」
「王都への報告とイレーナさんへの連絡はすぐ手配します」
レイモンドが言った。
ガドが「カーラ、人数を連れて監視を続けろ。近づくな。戦うな。川を渡る場所に注意だ」と言った。
カーラが頷いた。
「やります」
ケンジが言った「火喰鳥をラルタに向かわせても」
ガドが眉を動かした。
「ラルタへ?」
「はい。警告と準備です」
指で机を叩いた。
「今ある魔石通信を火喰鳥とカーラさんに渡します」
レイモンドが聞いた。
「繋がるんですか」
「わかりません」
少し間を置いた。
「まだ試作品です」
誰も喋らなかった。
ケンジが続けた。
「繋がれば馬より速いです」
ガドが腕を組んだ。
「火喰鳥」
返事はなかった。
呼ばれている本人たちは外だった。
「ラルタへ行け」
少し考えて続けた。
「戦うな」
部屋が静かになった。
「村長に伝えろ。避難路を確認しろ。通信を繋げ」
カーラを見る。
「お前は監視だ」
カーラが頷いた。
「渡る場所を見ろ。数を見ろ。帰ってこい」
返事は短かった。
「はい」
ガドが立ち上がった。
「動くぞ」
そこで会議は終わった。
◇
執務室を出て、ギルド裏へ戻る。
全員が残っていた。
誰も帰っていない。
アンばあさんがお茶を配っていた。
こちらに気づいて、空気が少し変わった。
トールが聞いた。
「今できること、ありますか」
全員が見ていた。
少し考えて言った。
「あります」
ブロンが立ち上がった。
「行くか!!」
ゴルドが止めた。
「先に聞け」
帳面を閉じた。
「火喰鳥にお願いがあります」
少し静かになった。
ブロンが目を丸くした。
ゴルドが聞いた。
「どこだ」
「ラルタ村です」
リアが顔を上げた。
「戦闘?」
首を振った。
「違います」
全員を見る。
「警告と状況確認です」
少し間を置いた。
「戦わないでください」
ブロンが笑った。
「難しい依頼だな」
ゴルドが立ち上がった。
「受ける」
短かった。
リアが頷いた。
トールが小さく息を吐いた。
アンばあさんがお茶を差し出した。
「ケンジさん、飲みな」
受け取る。
温かかった。
◇
ラルタ村への手紙を書いた。
魔石のメモを開いた。
帳面を見た。
十日対数日。
やることが見えている。
時間が足りない。
でも、動ける。
戦争を止める力はない。
でも。
間に合わせることなら、できるかもしれない。
戦えない男のやり方で。




