表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バタフライエフェクトギルド〜異世界のギルド、書類が山積みだったので全部やっておきました〜  作者: くろかっぱ
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/76

第三十五話:ラルタ村へ

朝、三人で街道を歩いた。

空が広かった。


「ル、の書き方が違います」


「……これか」


「もう少し右に払ってください」


ルウが帳面を見ながら歩いた。真剣だった。

ポウが「わたしはー?」と言った。


「ポウさんは曲線が上手いです」


「やったー!」


ルウが「黙れ」と言った。



川沿いの道に入った頃、ポウが止まった。


「あ」


草むらの向こうに、馬がいた。

野生だった。たてがみが乱れている。目が鋭い。


ポウがにこにこしながら近づいた。

馬が少し後ずさった。


ポウがもう一歩近づいた。

手を伸ばした。

馬が鼻を鳴らした。


しばらくして、ポウが背中に乗っていた。


「のれたー!アハハ」


少し止まった。


「……普通に乗るんですね」


ルウが帳面から目を上げた。

「馬だからな」

それだけ言った。


帳面に戻った。

「う、ま」

小さく書いた。


「……合っています」

また歩き始めた。



ラルタ村に着いた頃、昼を少し過ぎていた。

川沿いに小さな家が並んでいた。畑がある。川に小舟が何艘か浮いていた。


「ケンジさん!」

声がした。


ラルだった。

「久しぶり!来てくれるとは思わなかったっすよ」


「お久しぶりです」

ラルが三人を見た。馬を見た。

「あ、馬車で来たんすか。あれ、荷車はどこっすか」


「馬車ではないです。道中で捕まえました」


「捕まえた!?」


ポウがにこにこしていた。


「村長に話を通してもらえますか」


「あ、っす。ちょっと待ってください」

ラルが走っていった。



しばらくして、年配の男と一緒に戻ってきた。

「村長のベルナーです」


「ケンジと申します。イレーナさんからの依頼でお邪魔しています」


ベルナーが頷いた。

「王都から手紙が来ていました。話を聞かせてください」



村の中を歩きながら話を聞いた。

「最近の状況はどうですか」


ラルが口を開いた。

「魔獣はマルコさんたちが何とかしてくれてるんすけど、あ、マルコさんってのはこの村の漁師頭です、んで、稼ぎがきつくて。魚も野菜も余るのに売り先がなくて」


「商人は来ますか」


「来る時は来るんすけど、来ない時は来ない。来てくれた時しか売れないから、腐らせることも多くて」


「定期的に買い取ります」


ラルが止まった。


「……え、マジっすか」


「マジです。今ベルタは肉が余っています。野菜と魚は特に助かります」


「でもどうやって運ぶんすか」


「その馬を使います」


少し止まった。


「定期的に馬車を走らせます」


「作っただけ、獲っただけ、腐らせることはなくなります」


少し止まった。


「……でも、捕まえたのはポウなので確認は必要ですが」


ラルが少し黙った。

「誰っすか」


後ろでポウが馬の首にぶら下がっていた。

「この子です」


ラルが馬を見た。

ポウを見た。

また馬を見た。

「……確認した方がいいっすね」


ラルとベルナーが顔を見合わせた。

「……本当にできるんすか」


少し止まった。


「レイモンドさんに手紙を書きます」

二人が黙った。


「できるかどうかはわかりません」


少し間があった。


「判断は向こうです」


ラルが黙った。


「でも、あの人はこういう話を放っておく人じゃないです」


ベルナーがしばらく黙った。


「……ガドさんの縁の方ですか」


「そうです」


ベルナーが小さく頷いた。

「わかりました。信じましょう」



川沿いを歩いていると、大柄な男が網を手に立っていた。


「マルコさん」とラルが言った。

男が振り返った。

三十代後半ほどだった。がっしりした体格だった。


マルコが三人を見た。

「ベルタの方ですか」


「はい。ケンジと申します」


マルコが少し目を細めた。

「……ケンジさんですか」


「はい」


マルコが深く頭を下げた。

「ガドさんには昔、大変お世話になりました。縁の方にお会いできて光栄です」


「こちらこそ」


マルコが川を見た。

「最近、また魔獣が増えてきています。ランバルトの影響でしょうか」


「そうかもしれません。ただ今ベルタ側で魔獣狩りが活発になっています。しばらくすれば落ち着くと思います」


「そうですか」


マルコが少し間を置いた。


「何かできることがあれば言ってください」



川底に何かが動いていた。

大きかった。

カニだった。通常より一回り大きい。

少し見た。


「厄介ですけど、ご馳走ですよね」


マルコが「……あれがですか」と言った。


少し止まった。

「食べないんですか」


マルコが川を見た。

「網に引っかかって困っていました」


ラルが「俺も食べたことないっす」と言った。

少し考えた。


「……茹でてみましょう」



ルウとポウを送り出そうとして、少し止まった。

馬を見た。

ポウが首を撫でていた。


「ポウさん」


「なーに!」


「この馬、ベルタで使ってもいいですか」

ポウが少し止まった。

馬を見た。

こちらを見た。


「おしごと?」


「荷物を運んだり、人を乗せたりです」


ポウが少し考えた。

それから馬のたてがみを撫でた。

「……いいよー!」


「ありがとうございます」


ルウが帳面から顔を上げた。

「……返してやれよ」


「借ります」

ルウが頷いた。


ルウに手紙を渡した。

「ガドさんへの手紙です。馬と一緒にギルドに届けてもらえますか」


ルウが受け取った。

銀貨を数枚渡した。

「馬を借りるお駄賃です」


ルウが少し止まった。

「……馬の分か」


「ルウさんとポウさんの分も入っています」


少し間があった。


ルウが受け取った。

「……そうか」


ルウが少し止まった。


「……また頼む時は字の勉強をつける」


「もちろんです」


ポウが馬に乗った。

「またねー!」


馬が走り出した。ルウがその後ろを走った。

あっという間に見えなくなった。



火を起こした。

鍋にお湯を沸かした。

カニを入れた。

しばらくして、いい匂いがした。

取り出した。赤くなっていた。

一口食べた。


少し止まった。

うまかった。


川を見た。

もう一匹いた。

買い取れると思った。


村人たちが遠巻きに見ていた。


マルコが腕を組んで見ていた。


ラルが「……本当においしいんすか」と言った。


「おいしいです」


誰も近づかなかった。

一人で食べ続けた。



その日は村に泊まった。

畑を見た。

川を見た。

魚を捌くところを見た。

子どもたちがポウの話をしていた。

夜、ラルが明日の漁の準備をしていた。

手伝った。

特に何も起きなかった。

それで十分だった。



二日目の朝だった。

川沿いに座っていた。

馬車が来るまでまだ時間がある。


マルコが隣に来た。

「先日のカニですが」


「はい」


「村の者に聞いてみました。売るだけならやってみると」


「ありがとうございます」


「食べることはまだ難しいですが」


「それで十分です」


マルコが川を見た。

「ケンジさん、ガドさんはお元気ですか」


「元気です」


「そうですか」


少し間があった。


「またいつか、お会いしたいものです」


川が静かに流れていた。

しばらくして、馬車が来た。

ベルタの荷車だった。


御者が封筒を渡してきた。

開いた。

短かった。


『まずは一台』

レイモンドより。


下に小さく書いてあった。

『ガドさん了承済』


少し止まった。


ラルが「……本当に来たっすね」と言った。


「言いましたよね」


ラルが笑った。


馬車に乗った。

ベルタへの道が続いていた。


少し前まで、なかった道だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ