第三十四話:動く街と、明日の準備
朝、ギルドのカウンターに立った。
依頼板が埋まっていた。
魔獣討伐の依頼が増えていた。先週より多い。先々週よりもっと多い。
ティナが「今日も満員ですね」と言いながら帳面を開いた。
「魔石の回収依頼、好評ですよ。昨日だけで十二件でました」
「そうですか」
「冒険者の皆さん、なんか楽しそうで」
「報酬が上乗せされているので」
「それだけじゃない気がするんですけどね」
ティナが笑いながら次の書類を手に取った。
◇
昼前、マレクが顔を出した。
「困ったことになった」
「何がですか」
「肉が余ってる。魔獣の討伐が多すぎて処理が追いつかない」
「買い取れない分はどうするんですか」
「干し肉にするか塩漬けにするかしかない。でも量が多すぎる」
少し考えた。
「ヴェタ家に持っていきますか」
「ヴェタ家に?」
「明日、ラルタ村に行きます。ルウとポウに護衛を頼もうと思っています。ついでに持たせます」
マレクが「……お前、いつの間にあそこと仲良くなったんだ」と言った。
「仕事です」
「そうか」とマレクが言った。少し口元が緩んでいた。
◇
午後、ゲオルクが来た。
作業台に魔石をいくつか並べた。
「割り方で音が変わる」
「どう変わりましたか」
「雑に割ると断面がでこぼこになる。でこぼこが多いほどノイズが増える。丁寧に割るほどクリアになる」
「大きさと通信距離の関係は」
「試した。大きい石ほど遠くまで届く。魔力が少なくても届く」
「つまり」
「魔力が多くて大きい石を丁寧に割れば、一番遠くまで届く」
少し間があった。
「……ガドさんに頼めば」
「化け物みたいな距離になるな」
ゲオルクが腕を組んだ。
「バッハとルードも面白そうな顔をしていた。加工の工夫を試したいと言っている」
「ありがとうございます」
「俺が楽しいからやってる」
ゲオルクが帰っていった。
◇
夕方、レイモンドが来た。
「銭湯の件、順調ですよ」
「そうですか」
「ルードさんが湯船の設計を終えました。ミゲルさんが材料を確認しています。ゲオルクさんが釜の増設に取り掛かっています」
「レイモンドさんも動いているんですか」
「人材を出しました。あとは資材の手配を少し」
レイモンドが微笑む。
「なんとかなりそうですよ」
「ありがとうございます」
レイモンドが帰り際に振り返った。
「ケンジさん、魔石の件ですが」
「はい」
「大きい魔石、いくつか集まり始めています」
少し止まった。
「皆さん、何に使うかは知らないまま楽しそうですよ」
「早いですね」
「当然です」
レイモンドがにこにこしたまま帰っていった。
◇
夜、ギルドの書庫でラルタ村の資料を探した。
薄い束が一冊あった。
川沿いの農村。農業と漁業がメイン。人口は四十人ほど。最近魔獣の目撃が増えている。定期的な討伐依頼は少ない。
地図を広げた。
ベルタから南東に半日ほど。川沿いの道を行けばいい。川の向こうがランバルト方向になる。
帳面にメモを取った。
確認すること。魔獣の被害状況。村の収益。人口の動き。川の向こうの様子。
◇
翌朝、ギルドの前にルウとポウがいた。
ルウが腕を組んで立っていた。
ポウがにこにこしていた。
「おはよー!」
「おはようございます。来てくれてありがとうございます」
「依頼か」
「護衛をお願いしたいです。ラルタ村まで」
ルウが少し目を細めた。
「字の勉強はあるか」
「道中教えます」
「了解」
「これもどうぞ」
大きな袋を渡した。
旅人の一口、蜜の雫、串焼き、マレクから預かった塩漬けの肉。
ルウが袋を受け取った。
ポウが「いっぱい!」と笑った。
ルウが「黙れ」と言った。
「2日後に迎えに来てもらえますか」
「了解」
「道中、字を教えます」
ルウが少し止まった。
「……今からか」
「歩きながらでも教えられます」
ポウが「やったー!」と笑った。
ルウが袋を持ち直した。
「……行くか」
◇
街道を歩き始めた。
空が広かった。
久しぶりに街の外に出た気がした。
ラルタ村まで、半日。
今はまだ、歩く方が早い。
なんとかなりそうだ。




