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バタフライエフェクトギルド〜異世界のギルド、書類が山積みだったので全部やっておきました〜  作者: くろかっぱ
二章

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第二十九話:火が踊る

朝、ゲオルクの鍛冶場から使いが来た。


「できたそうです」

ティナが息を切らしながら言った。


「わかりました」


荷車の手配をした。鉄釜は重い。ジンを呼んだ。

「北の森まで行きます。荷車の管理をお願いできますか」


「わかった」

ジンが少し目を細めた。


「道、覚えてくる」


「お願いします」



ゲオルクの鍛冶場に寄った。

鉄釜が作業台の横に置いてあった。

でかかった。ずっしりとした存在感があった。表面が鈍く光っている。


ゲオルクが腕を組んで立っていた。

「できたぞ」


「ありがとうございます」


「温度の調整がしやすいように、空気の入り口を工夫した」

ゲオルクが釜の側面を指した。小さな蓋がついていた。

「開け閉めで火力が変わる。ヴェタ家の爺さんならすぐわかると思う」


「伝えます」


ゲオルクが少し間を置いた。

「焚き火台の件だが」


「はい」


「少し待ってくれ。試したいことがある」


「わかりました」


ゲオルクが「まあ、うまくやれ」と言って金属に向き直った。



火喰鳥の五人が揃った。

荷車に鉄釜を載せた。ブロンが「重いな!!」と言いながら軽々と動かした。ゴルドが「お前が言うな」と言った。

ジンが荷車の固定を確認した。紐の結び方を直した。全員が黙って見ていた。


「……これの方が安定する」

ジンが言った。


トールが「すごいですね」と言った。ジンが「当たり前だ」と言った。


出発した。



道中、ジンが前を歩いた。

荷車を引きながら、周囲を確認している。どこで曲がるか、どこで道が狭くなるか、声に出さずに頭に入れている様子だった。


「道、覚えられますか」


「覚えてる」


「全部ですか」


「全部」


ゴルドが「……頼もしいな」とぼそっと言った。


森に入った。木が変わった。空気が変わった。

ブロンが珍しく声を落とした。

「やっぱり静かだな」


「あの一家がいる限りな」とゴルドが言った。


ジンが少し止まった。耳を澄ませている。

「……魔獣の気配、今日は遠い」


「なんでわかるんだ」とトールが小声で聞いた。


「音がしないから」


トールが「それだけでわかるのか」という顔をした。ジンが「わかる」と言った。



ヴェタ家に着いた。

ルウが出てきた。

「ケンジか」


「また来ました」


「見ればわかる」


ポウがルウの後ろからひょこっと顔を出した。にこにこしていた。

「きたーー!」

アハハ、と笑った。


ティエが扉から顔を出した。ジンを見た。

「……来たのか」


「はい」


「仕事は慣れたかい」


ジンが少し止まった。

「……慣れてきた」


ティエが頷いた。

「そうか」


ティエが鉄釜に目を向けた。

「これか」


「そうです」


「中に入れ」



鉄釜をソルに見せた。

ソルが受け取って、しばらく触った。側面を確認した。空気の入り口を開け閉めした。

何も言わなかった。

でも目が変わっていた。


ティエが横で見ていた。

「設置する場所を決めよう」

ソルが頷いた。


設置が終わると、ソルが木を釜に詰め始めた。丁寧だった。一本一本、確認しながら入れていく。

ムウが少し離れたところで腕を組んで見ていた。


しばらくして、ジンに目を向けた。

「ばあちゃんによろしく言いな」


「……わかった」


ジンが小さく頷いた。


ジャウは見えなかった。でもどこかにいる気がした。



火を入れるまでの間、リアが外に出た。

ルウとポウがいた。

ルウがリアを見た。値踏みするような目だった。

「……前より動きが変わった」


「少し練習しました」


「見せろ」


リアが少し間を置いた。それから動いた。

低く入った。重心が下がっている。以前より沈みが深い。足が地面を離れる前に、体の中心が先に動いていた。

ルウが黙って見ていた。

「……惜しい」


「どこがですか」


「息が先だ。動く前に息を吐いている」


「吐いてはいけないんですか」


「吐く前に動け」


リアが少し考えた。

「……わかりません」


「そうか」


ルウが実際にやって見せた。音がしなかった。気づいたら別の場所にいた。


リアがしばらく黙った。

「……どういうことですか」


「体が先だ。息はついてくる」


「わかりません」


「そうか」


ルウが「練習しろ」と言った。それだけだった。


ポウがにこにこしていた。

「リアおねえさん、つよくなるね」


「なれるといいんですが」


「なれるよ! アハハ」



ソルが火を入れた。

全員が釜の前に集まった。

煙が上がった。

少なかった。土窯の時とは明らかに違う。

ティエが煙を見ていた。

「……少ない」


「はい」


「土窯の半分もない」

ソルが空気の入り口を少し動かした。火が変わった。安定している。揺れが少ない。


ジンが釜の横に来た。しばらく見ていた。


「……音が違う」


「釜の音ですか」


「燃え方の音。均一だ」


ソルがジンを見た。

「……火もそう言っている、もう火が肩を組んでいる」


その時だった。


「おおおおおおおおっ!!!」


声がした。

全員が振り返った。


ジャウだった。


拳を空に向けて、天を仰いでいた。

声が森に響いた。鳥が飛び立った。


ジンが固まっていた。

顔が青かった。


「大丈夫ですか」


「……でかい声だった」


「そうですね」


「心臓が止まるかと思った」


「大丈夫です」

ジンがしばらく動かなかった。


ティエが吹き出した。ソルが小さく息を吐いた。


ムウが「ルウとポウが生まれた日以来だよ、うるさくて仕方ない」と言った。


ジャウが満足そうな顔でこちらを見た。

「よく来た」


「ありがとうございます」


「次も来い」


「はい」


ジャウがまた雄叫びを上げそうな顔をした。ジンが一歩後ろに下がった。

「やめなクソジジイ!」ムウだった、ジンの顔がまた青くなった。



帰り道、ジンが少し後ろを歩いていた。

「大丈夫ですか」


「……まだ耳が鳴ってる」


「慣れます」


「慣れたくない」


トールが「ジンさん、顔色悪いですよ」と言った。ブロンが「俺はびっくりしなかったぞ!!」と言った。ゴルドが「嘘をつくな、あの時盾握っただろう」と言った。ブロンが「見てたか!!」と言った。


リアが静かに歩いていた。

少し、足の運び方が変わっていた。



街が見えてきた頃、ゴルドが言った。

「明日、視察が来るんだったな」


「はい」


「何かやることはあるか」


「ベックが全部整えています。問題ないと思います」


ゴルドが少し頷いた。

「……うまくいくといいな」


「そうですね」


夕暮れが街を染めていた。


視察まで、あと一日だった。


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