表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バタフライエフェクトギルド〜異世界のギルド、書類が山積みだったので全部やっておきました〜  作者: くろかっぱ
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/31

第二十八話:種が、動き始める

朝、ガドの執務室に向かった。

ノックして入ると、ガドが地図を広げていた。


「少しよろしいですか」


「話せ」


帳面を開いた。

「アンピークは順調です。炭の取引が動き始めると、運搬の仕事が増えます。配送の仕組みが必要になります」


ガドが地図から顔を上げた。

「ジンか」


「空間把握と道順の把握は誰より早いです。適任だと思います」

ガドが黙って聞いていた。

「視察の備えはベックが数字をまとめています。問題ないと思います」


「そうか」


「以上です」

ガドが地図に視線を戻した。



夕方、アンばあさんの食堂に人が集まっていた。

バッハ、エルミ、マレク、ルード。それぞれが席についていた。


マレクが布に包んだ何かを机の上に置いた。

「蜜の雫だ。試作が仕上がった」

アンばあさんが「もう名前まで決めてるじゃないか」と言った。


「決まってた」


「いつ決めたんだい」


「最初から」


「その割には時間かかったじゃないか」


マレクが少し黙った。

「……うるさい」

マレクは咳払いをひとつして、妙に丁寧に包み布の結び目を解き始めた。

布を開けた。黒みがかった四角い塊が出てきた。


マレクが一口分に切り分けた。

「食ってみろ」


アンばあさんが一口食べた。しばらく黙っていた。

「……甘い」


「甘い。でも後を引く甘さだ」


「旅人の一口の夏版か」とバッハが言った。


「そのつもりだ。保存が効く、携帯できる、栄養になる。夏の遠征にも持っていける」


エルミが一口食べた。

「悪くないわね」


「悪くないじゃ困る」


「……いいわよ」


マレクが「それでいい」と言った。


ルードが無言で一口食べた。しばらく考えた顔をしていた。それから黙って頷いた。



バッハが懐から紙を出した。

「焚き火台の設計だ」

広げた。鉄で作った台の図だった。足が四本あって、上に鉄格子が渡されている。

「ゲオルクと話した。一番の問題は重さだ」


「重いですか」


「鉄だからな。ただ野営地の固定設置なら問題ない」


「それでいいです」


「携帯型は別の話だ。ゲオルクが面白そうな顔をしていた」


「ゲオルクさんが」


「あいつ、鉄板の図を見た時から何か考えてるらしい。俺には教えてくれなかったが」

バッハが少し口元を緩めた。

「職人ってそういうもんだ」


ルードが「それはそうだ」と言った。


エルミが「焚き火台の下に敷く布、素材を探しています」と言った。「耐熱性が必要で、今のところ心当たりがあるものを試しているところで」


「焦らなくていいです」


「わかってる。でも気になるから早くしたい」


アンばあさんが笑った。


マレクが「アンピーク屋台の食材の仕込み、来週から始める」と言った。「鉄板焼きの準備もしておく」

バッハが「屋台?」と言った。

エルミが「何の話ですか」と言った。

ルードが「聞いていない」と言った。


マレクが「屋台を出す話だ。知らなかったのか」と言った。

全員がこちらを見た。


「……すみません。うっかりしていました」


アンばあさんが「そんなこともあるんだねえ」とにこにこしながら言った。


「炭の使い道の一例です」


「真顔で言うな」とエルミが言った。

バッハが「で、何をやるんだ」と言った。

串焼きと鉄板焼きの説明をした。炭火で焼く仕組みも話した。

バッハが「……面白いな」と言った。ルードが「木の皿が必要だな、串もだ」と言った。エルミが「飾りも考えたい」と言った。


バッハが少し間を置いた。


「ゲオルクも入れた方がいいんじゃないか」


「組合にですか」


「鉄釜、焚き火台、鉄板。もうほとんど関わってるだろう」

全員が少し頷いた。


アンばあさんが「そうだねえ、声かけてみようか」と言った。


「お願いできますか」


「バッハさんから言った方が通りやすいんじゃないかい」


バッハが「まあ、そうだな」と言った。少し照れくさそうだった。

アンばあさんが「またみんなで動けるねえ」と言った。

マレクが蜜の雫をもう一口食べた。

「……うまいな、やっぱり」


「さっき悪くないって言ってましたよね」とエルミが言った。


「それとこれとは別だ」

全員が笑った。



食堂を出た頃、夜が深くなっていた。

街が静かだった。

遠くに灯りが見えた。町長役場だった。



役場の奥の部屋に、二人がいた。


ガドとレイモンドだった。


いつものペコペコはなかった。

レイモンドが椅子に深く座って、杯を傾けた。ガドが向かいで腕を組んでいた。


「視察、どう見る」

レイモンドが言った。


「レオンが来る分には問題ない。数字が出ている。書類も整っている」


「イレーナは」


ガドが少し黙った。

「あいつは別だ」


「そうだろうねえ」

レイモンドが杯を置いた。

「ケンジさん、イレーナが見たら放っておかないよ」


「わかっている」


「有能で、しかも——」

「わかっている」


ガドが短く言った。レイモンドは苦笑した。

「話せば話すほどにな」


ガドが窓の外を見た。

「あいつにそっくりだ」


レイモンドが黙った。


しばらく間があった。


「……声を聞いた時は驚いた」

レイモンドが小さく笑った。


「生きてたのかと思った」

静かに言った。

「はは。そんなわけないのにな」


笑い声は小さかった。でも少し滲んでいた。

ガドが何も言わなかった。



しばらくして、レイモンドが机の引き出しを開けた。

書類を一枚取り出した。

「できてるよ」


ガドが受け取った。書類に目を落とした。

「……早かったな」


「視察が来る前に整えておきたかったから」


ガドが書類を返した。


「ケンジには言うか」


「言わなくていい」

ガドが即答した。


レイモンドが書類を引き出しに戻した。


ガドが少し間を置いた。


「レイ、ケンジのことこれからも頼む」


レイモンドが少し目を細めた。

「言われなくてもそのつもりだよ」


杯を持ち上げた。

「まあ、うまくいくよ」


ガドが少し間を置いた。

「……そうだな」


夜が深かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ