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第51話 神速の銀狼、悠久の愛を語り、新妻は手加減を乞う

「……まあ、丸く収まったなら良かったが。それにしても『産まれる前からの純愛』って、いくらなんでも大袈裟すぎないか?」


外の騒動が嘘のように静まり返った執務室で、ヘイズが呆れたようにツッコミを入れた。

確かに、レイがイリスの世話になり始めたのは物心つく前の幼少期からだが、さすがに「産まれる前」というのは詩的表現が過ぎるだろう。


しかし、レイは「大袈裟に言った」という自覚はないらしく、少しだけ真面目な顔をして「うーん」と首を捻った。


「多分、間違ってないんだよね」

「は?」

「俺、子供の頃からずっと同じ夢を見てたんだ。広くて冷たい雪景色の中を、たった一人で、誰かを探して、探して……でも絶対に会えない夢」


ふと、レイの蒼い瞳が遠くを見るように細められる。

それは、数千年の孤独を生き、ただ一つの温もりを求め続けた伝説の巨狼『フェンリル』の魂に深く刻み込まれた、遠い前世の記憶。


「でもね。イリスが傍で手を握っててくれると、絶対にその夢は見ないんだ。イリスの匂いがして、すっごく安心して眠れるの」


前世の記憶だの、神獣の魂だの、今のレイにとってはそんな大層な因果はどうでもいい『単なる夢』でしかない。

ただ、探していた『誰か』の魂が、今、目の前で自分の腕の中にいる。それだけでいい。

前世も今世も、神速の銀狼の魂が求めたものは、たった一つのこの小さな温もりだけなのだ。


「だから、俺の魂が、産まれる前からずっとイリスを探してたんだと思う」


あっさりと、息をするように紡がれる究極の愛の言葉。


「…………」


その場にいた全員が、再び言葉を失った。

ヘイズは天を仰ぎ、口元を手で覆って「フッ……」と力なく笑い出した。


「ははっ……相変わらず、愛が重いな。お前って奴は……」

「そう? 俺の愛はまだまだこんなもんじゃないよ。ねえ、イリス?」


レイは満面の笑みで振り返ると、顔を真っ赤にして固まっているイリスを、愛おしそうにギュッと強く抱きしめた。


「俺たちの夫婦生活は、これからだよ。一生かけて、今まで我慢してた分、いっぱいいっぱい愛してあげるからね」

「ひゃんっ……!」


イリスの首筋に顔を埋め、甘く、そして逃げ場のない捕食者の吐息を落とすレイ。

これから一生続くであろう、底なしの愛情と、抗えない極上のモフモフの狭間で。


「……ちょっ、ちょっとは手加減ってものを、覚えてほしいんだけどぉぉ……っ!」


完全に退路を断たれた新妻の、引きつったような悲鳴にも似たツッコミが、平和な騎士団の執務室に虚しく響き渡るのだった。


――神速の銀狼は、ついに最愛のつがいを手に入れた。

その重すぎる愛の猛攻からイリス・アルジュが逃れられる日は、永遠にやってこない。

お読み頂いた方、ありがとうございました。

暇つぶしになれば幸いです。

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