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第42話 神速の銀狼、策士となりて膝枕を獲得する

翌日の午前中。訓練場には、かつてないほど絶好調で木剣を振るうレイの姿があった。


「ふふふーん♪ 尻尾様様だね!」


ルンルン気分で素振りをするその表情は、完全に『恋する大型犬』である。

そもそも、人間の身でありながら魔力を実体化(具現化)させるなど、魔法学の常識からすればあり得ないことだ。実体を維持するほどの莫大な魔力など、人の器では到底扱いきれないからである。

しかし、そんな世界の非常識など、絶賛モフモフ詐欺で快進撃を続けるレイにとっては全く関係のない話だった。


そして、待ちに待ったお昼休み。

レイが足早に執務室へ向かうと、イリスの方も「待ってました!」とばかりにソワソワした様子でレイを迎えた。


「イリス、今日は天気もいいし、中庭に行こうよ」

レイは甘い声で誘い出すと、誰もいない中庭のベンチへとイリスを誘導した。そして、とっておきの『餌』をちらつかせる。


「ねえ、今日は……『耳』も触ってみない?」

「えっ? いいの!?」


イリスの瞳が、宝石のようにキラキラと輝いた。昨夜は尻尾の感触に夢中だったが、頭の上でピコピコと動くあの獣耳も、モフモフ好きのイリスにとっては垂涎の的だったのだ。


「うん。でも、立ったままだと触りにくいだろうから……膝枕の体勢なら、触りやすいかなぁ?」


小首を傾げ、あくまで『イリスが触りやすいように』という大義名分を掲げて提案するレイ。


「膝枕ね! はい! 早く頭のせて!」


完全にモフモフの引力に理性を破壊されたイリスは、微塵の疑いも羞恥心も抱くことなく、ポンポンと自分の膝を叩いた。つい先日まで「女として見られてる!」と顔を真っ赤にして逃げ回っていた乙女の防衛線は、完全に消滅している。


「えへへ、失礼しまーす」


レイは待ってましたとばかりにベンチに横たわり、イリスのお腹の方に顔を向けて、その柔らかい太ももに頭を乗せた。そして、体内の魔力を解放する。


ぼふんっ!


昨日と同じく、銀色の獣耳と巨大な尻尾が顕現した。


「わぁぁっ……! 耳もふわふわぁ!」

イリスは歓声を上げ、レイの頭に生えた銀色の耳をわしゃわしゃと撫で回し始めた。


「んんっ……あー、イリスの匂い……」

イリスのお腹に顔を押し付ける形になったレイは、至近距離で彼女の甘い匂いを胸いっぱいに吸い込みながら、至福の表情で目を細める。ベンチから垂れ下がった巨大な銀の尻尾は、隠しきれない歓喜を表すように『ブンブンッ!』と激しく空気を叩いて振られていた。


――その、あまりにも完璧な一連の流れを。

少し離れた渡り廊下の陰から、ヘイズが死んだような目で見つめていた。


「あいつ……」


モフモフを餌に釣った挙句、極めて自然な流れで『大好きな幼馴染のお腹に顔を埋めながらの膝枕』という、超高等テクニック(かつドスケベな体勢)へと持ち込んだ神速の銀狼。


(あのバカ犬、いつからあんな恐ろしい策士になったんだ……!?)


剣を握った時の圧倒的な武力よりも、この異常なまでの『イリスを絡め取るための戦略的思考』にこそ、底知れぬ恐ろしさを感じて。

ヘイズは一人、戦慄に震えるのだった。


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