表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/52

第41話 神速の銀狼、最強の武器で永遠の時間を手に入れる

「んまーっ! やっぱりイリスのご飯は最高だなぁ!」


その夜。レイはここ数日のすれ違いが嘘のように、イリスの部屋の食卓で嬉しそうに夕食を平らげていた。

向かいに座るイリスの方も、つい昨日まで「大人の関係を迫られる!」「顔をまともに見られない!」と顔を真っ赤にして逃げ回っていたことなど、すっかり頭から抜け落ちている。


彼女の脳内は今、あのお伽話の神獣がもたらす『極上のモフモフ』で完全に占拠されていた。恐怖も羞恥心も、圧倒的な毛並みの良さの前には無力だったのだ。


食事が終わるや否や、イリスは片付けもそこそこに、期待に満ちたキラキラとした瞳でレイをジッと見つめた。

(早く……! 早くあの尻尾を出して……!)

言葉にこそ出さないが、その目は雄弁に欲望を語っている。


「……ふふっ」

あまりにもわかりやすい態度の幼馴染に、レイはたまらずクスリと笑った。


「ねえ、イリス。俺……匂い、嗅いでもいい?」

「いいわよ!」

レイが言い終わるか終わらないかのタイミングで、イリスは食い気味に即答した。


「えへへ、じゃあ……」

レイは立ち上がると、椅子に座るイリスの背後に回った。そして、彼女の華奢な首筋に顔を近づけながら、体内の魔力をゆっくりと解放していく。


ぼふんっ!


空気の弾けるような音と共に、レイの頭に銀色の獣耳がピンと立ち、腰から巨大で立派な銀の尻尾が顕現した。

レイがその巨大な尻尾をイリスの体の前へと回してやると、イリスの顔がパァァッと輝いた。


「ふぁぁぁぁぁ……っ!」


イリスは感動の吐息を漏らしながら、巨大な尻尾を両腕で力いっぱい抱きしめ、そのまま顔を深々と埋めた。

「これ……! これよ……! すっごく柔らかくて、温かくて……ああっ、最高ぉ……っ」


完全にモフモフの虜となり、うっとりと目を閉じて尻尾に頬ずりをするイリス。


――その、完全に無防備な隙を突いて。


レイは背後からそっと両手を回し、イリスの体をすっぽりと抱き込んだ。そして、彼女の白く細いうなじに、自分の顔を深く、深く埋める。


「すぅぅぅぅ……っ。ん……イリスの甘い匂い……」


いつもなら「ちょっと、近すぎる!」と突き飛ばされるような、背中と胸が完全に密着したゼロ距離。しかし、極上の手触りに意識のすべてを持っていかれているイリスは、レイの腕の中に完全に閉じ込められていることにも、うなじに押し付けられる熱い吐息にも、全く気付いていない。


(やった。これなら、ずっとくっついてられる……)

レイはイリスの背中に身を預け、彼女の甘いフェロモンを胸いっぱいに吸い込みながら、密かに勝利の笑みを浮かべて目を細めた。


「三分ね!」


匂い補充のたびに、いつも必ず宣告されていた絶対のタイムリミット。

しかしこの夜、モフモフの海に溺れ、うっとりと尻尾を撫で続けるイリスの口から、その言葉が発せられることはいつまで経ってもなかった。


神速の銀狼は、自身の持つ最強の武器(尻尾)を餌にすることで、ついに『無制限の匂い補充タイム』という至福の権利を完全なる合法で手に入れたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ