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第40話 神速の銀狼、騎士たちに「やっぱり犬」と再認識される

団長室での報告を終え、レイとヘイズが騎士団の待機所に戻ってくると、首を長くして待っていた騎士たちがワラワラと群がってきた。


「おおっ、レイ! 戻ったか!」

「耳と尻尾、なくなってるじゃないか! 結局あれは一体なんだったんだ!?」


氷漬けの森と、圧倒的な魔圧。世界を終わらせる伝説の魔獣の再来かと恐れ慄いていた騎士たちは、いつもの「顔面が良すぎる緋翼のエース」に戻ったレイを見て、矢継ぎ早に質問を浴びせかけた。


「あ、うん。なんかね」

レイは頭を掻きながら、いつもの無邪気な笑みを浮かべた。


「イリスが倒れて血を流してるのを見たら、『絶対にイリスを守らなきゃ!』って思って。そしたら、体の中からブワァッてすごい魔力が溢れてきたんだ。さっきの耳と尻尾は、その魔力が具現化して外に出ちゃっただけの物なんだって」


あくまで『イリスを守りたかっただけ』という、至極単純な理由。

伝説のフェンリルの魂がどうとか、王都を滅ぼす力がどうとか、そんなスケールの大きな自覚はレイには一切ないらしかった。


「……そ、そうか。魔力の具現化……」

「と、とにかく暴走じゃなくて良かったぜ……」


騎士たちが冷や汗を拭いながら安堵の息を吐きかけた、その時である。


「でもね! 聞いてみんな!」


レイの顔が、突如としてデレデレのふにゃふにゃに崩れた。その背後には、実体化していない幻の犬の尻尾が、千切れんばかりの勢いでブンブンと猛回転を始めている。


「俺の魔力でできたあの尻尾、イリスがすっごく気に入ってくれたんだ! 『最高の手触り!』って、ずーっと撫でてくれたんだよ!」

「……は?」


「それでね、俺が『匂いを嗅がせてくれたら尻尾を出してあげる』って言ったら、イリスが『いつでも嗅がせてあげる!』って約束してくれたんだ! えへへ……これからは、イリスの匂い嗅ぎたい放題だぁ……!」


両手を頬に当て、お花畑が見えそうなほどの満面の笑みで、自身の完璧な『モフモフ・スキーム(詐欺)』の成果を声高らかに自慢する神速の銀狼。


「「「…………」」」


その場にいた数十人の歴戦の騎士たちは、完全に言葉を失った。


先ほどの戦場で感じた、あの魂が凍りつくような死の恐怖。

絶対零度の吹雪の中、冷酷な獣の瞳で魔獣たちを氷像に変えていった、あの畏れ多い伝説の姿。

自分たちは一体、何に対してあんなに緊張し、命の危機を感じていたのだろうか。


「……なぁ、ヘイズ」

同僚の騎士の一人が、遠い目をしながらヘイズの肩を叩いた。

「あいつの中の力……伝説の冬の獣じゃなくて、ただの『発情期の大型犬』だったんじゃねえか……?」


「……俺に聞くな。俺が一番泣きたい」

ヘイズは深く、深いため息をついて天を仰いだ。


戦場を支配した恐怖のカリスマは、たったの数十分で完全に地に落ちた。

騎士たちは一様に肩の力を抜き、「なんだ、あの耳と尻尾……結局ただの『イリスホイホイ』じゃねーか」と呆れ返る。


恐ろしい魔獣の力を手に入れてもなお、レイの思考回路のすべては『イリスといちゃつくこと』のみで構成されている。

「やっぱりあいつは、どこまでいってもイリスちゃんの『犬』だったか……」


呆れと、脱力感と、そして王都の平和が(イリスのモフモフ欲求によって)守られたことへの安堵。

騎士団の待機所は、平和で生温かい空気に包まれながら、いつものドタバタとした日常へと戻っていくのだった。


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