表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/52

第33話 神速の銀狼、不穏な風の中に舞う

「緊急連絡! 王都近郊の森に『風牙狼』の群れが出現! 至急、緋翼騎士団は出動せよ!!」


昼下がりの穏やかな空気は、伝令の緊迫した叫び声によって一瞬で吹き飛んだ。

「……またか?」

「ここ最近、緊急討伐が多すぎないか?」

装備を整える騎士たちの間に、ざわめきと不穏な空気が広がる。魔物の出現頻度が明らかに異常だった。


「私語は慎め! 一刻を争うぞ!」

ガイル団長の雷のような号令が響く。「城壁外、森の境界線にて迎撃する! レイ、ヘイズ、貴様ら二人は遊撃だ。群れの攪乱と、指揮個体の特定を任せる!」


「了解っ!」

レイが短く答え、鋭い目つきで剣を帯びる。その横顔には、数分前までイリスを追い回して「匂い嗅がせてー!」と叫んでいたワンコの面影は微塵もない。


「……レイ、ヘイズ。二人とも、絶対無理しないでね」

出撃の直前、イリスが二人の元へ駆け寄り、杖を掲げた。

「『身体強化フィジカル・ブースト』『風の加護ウィンド・ベール』……! 特製の重ねがけよ。絶対に、怪我して帰ってこないで」


「サンキュ、イリスちゃん。助かるぜ」

ヘイズが軽く手を挙げて応える。一方、レイはイリスの瞳をじっと見つめ、一瞬だけいつもの柔らかい笑みを浮かべた。

「大丈夫。イリスの魔法が守ってくれてるもん。……行ってくるね」


その言葉を残し、二人は風のように戦場へと躍り出た。

彼らを見送るイリスの背中に、冷たい戦慄が走る。

(なんなの、この感じ……。魔物たちの放つ魔力が、いつもよりずっとドス黒くて、異様だわ……)


――森の境界線は、すでに阿鼻叫喚の戦場と化していた。


「グガァァァァッ!!」

緑色の体毛を持つ巨大な狼たちが、目にも止まらぬ速さで木々の間を駆け抜ける。風牙狼――その名の通り、風の魔法を操る彼らは、少数でも極めて厄介な強敵だ。


空気を切り裂く不可視の「真空波」が、四方八方から飛んでくる。

「くっ……どこから飛んでくるかわからないわ!」

イリスは後衛に下がり、次々と運び込まれる負傷した騎士たちに治癒魔法ヒールをかけ、同時に前線のバフをかけ直していく。


風牙狼の群れは異様な数だった。通常、十数頭で群れるはずの彼らが、今回はその数倍――五十頭以上はいる。

乱戦の中、イリスの視界からレイの銀髪が消えた。


(レイ……!? どこ!?)


レイは団長の指示通り、群れの奥深くへと一人で切り込んでいた。

風を纏った狼たちの突進を、神速の身のこなしで紙一重で躱し、銀色の閃光となって次々と首を撥ねていく。


しかし、戦場の混沌は深まるばかりだった。

遠くで響く狼たちの咆哮。飛び交う風刃。

イリスは忙しく手を動かしながらも、胸の奥を掻きむしるような不安に襲われていた。


今までなら、「レイなら大丈夫」と信じきれていた。

けれど今は、その背中が見えないことで今までに感じた事のない恐怖を覚える。


(お願い、レイ……無事でいて。……まだ何も、返事してないんだから……っ!)


後衛で必死に祈りながら杖を振るうイリス。

その懸念を裏付けるように、森の奥からは、さらに不気味で巨大な『魔力のうねり』がこちらへ向かって近づきつつあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ