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第26話 神速の銀狼、ド直球すぎる愛の告白

翌日の昼下がり。

緋翼騎士団の休憩室は、一人の少年から放たれる『見えない花畑オーラ』によって、異様なほど明るくポカポカとした空気に包まれていた。


「ふふふーん♪」


機嫌良さそうに鼻歌を歌いながら、剣の手入れをしているレイ。その背後には、千切れんばかりの勢いでブンブンと振り回される幻の犬の尻尾が、昨夜からずっと出っぱなしになっている。


「……おい、レイ」

あまりの浮かれっぷりに、向かいの席に座っていたヘイズが半ば呆れ顔で声をかけた。


「なんだよ、朝からずっと気持ち悪いぞ。昨日の夜、泣きそうになって帰っていった奴と同一人物とは思えねえ。何かいいことでもあったのか?」

「ヘイズ!!」


レイはバンッ!と勢いよく机から身を乗り出し、満面の笑みで親友の手を握りしめた。


「聞いてよ! 俺、ついにイリスに『男』として見てもらえたんだ! 昨日の夜、イリスすっごく顔真っ赤にして、俺のことまともに見られなくなってたんだから!」

「はあ!?」


ヘイズは驚きのあまり素っ頓狂な声を上げた。

あの、国宝級の美貌による壁ドンも顎クイも、完全に「お弁当狙いのワンコ」としてノーダメージで無効化していた鉄壁のイリスが!?


「マジかよ……。顔面至上主義のこの世界で唯一お前の顔に耐性を持っていたあの幼馴染が、ついに陥落したってのか……」

「陥落っていうか、俺がちゃんと男だってわからせた!」


誇らしげに胸を張るレイ。

その騒ぎを聞きつけ、休憩室にいた先輩騎士たちも「なんだなんだ!?」「あのレイが遂に女を口説き落としたのか!?」と、わらわらと周りに集まってきた。


「すげえじゃねえかレイ! で、一体どんな手を使ったんだ!?」

「やっぱ強引に抱きしめたのか!? それともロマンチックな愛の言葉か!?」


食い気味に群がる男たちを前に、ヘイズはふと冷静な疑問を抱いた。

「……待てよ。お前、あの鉄壁のイリスちゃん相手に、一体何を言ったんだ?」


ヘイズの問いかけに、レイはコホンと一つ咳払いをした。

そして、この世の誰よりも自信に満ち溢れた、神々しいほどのドヤ顔を浮かべて、高らかに言い放ったのである。


「大人のあれやこれや含めて、イリスが好きってちゃんと言った!!」


「「「…………」」」


ピタッ……。

休憩室の時が、完全に止まった。


トランプを配っていた騎士の手から、カードがハラリと落ちた。

コーヒーを飲んでいた先輩騎士は、口から黒い液体を滝のようにこぼした。

ヘイズに至っては、口を半開きにしたまま石像のように固まっている。


「……は?」

数秒の完全な静寂の後、ヘイズの口から震える声が漏れた。


「え?」とレイは小首を傾げる。

「だから、大人のあれやこれやって、つまり恋人同士とか夫婦が夜にするいやら――」

「バカバカバカバカッ!! ストォォォップ!!」


ヘイズは慌ててレイの口を両手で塞いだ。

「お、おまっ……! それを!? あの母親みたいにお前の世話焼いてくれてた純情な幼馴染に!? ド直球で伝えたのか!?」


「んむ! んーむ!(うん! そうだよ!)」

レイは塞がれた口のまま、無邪気に力強く頷く。


休憩室にいた騎士全員の脳裏に、全く同じツッコミが雷のように駆け巡った。


(((お前それ、男として見られたんじゃなくて、貞操の危機を感じて怯えられてるだけだろおおぉぉぉっ!!!)))


「順序! お前、順序って言葉知ってるか!? 初恋すっ飛ばしていきなり夜の生活の話から入るバカがどこにいる!!」

「ぷはっ! だって、ヘイズが『男として意識させろ』って言ったじゃん! 俺がそういうこと全部わかってて求婚してるって言ったら、イリスすっごく顔真っ赤にしてドキドキしてたもん!」

「それはドキドキじゃなくてパニックだ!!」


どこまでも自分の都合のいいように解釈し、「俺って天才!」とキラキラ輝く神速の銀狼。

恐るべき身体能力と国宝級の美貌を持ちながら、モラルとブレーキが完全にぶっ壊れている最高戦力を前に、騎士たちは「イリスちゃん……逃げて……超逃げて……」と、心の中でまだ見ぬ幼馴染の少女の平穏を本気で祈るしかなかった。

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