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第21話 神速の銀狼、モテ期が仇となる

「ねぇヘイズ。こないだのオーク討伐でさ……イリス、俺のこと『カッコいい!』って思ってくれたかなぁ?」


討伐任務から数日後の昼下がり。

騎士団の休憩室で、レイは机にべたーっと突っ伏しながら、同僚のヘイズを見上げて尋ねた。


「……まぁ、確かにな」

ヘイズは手元のコーヒーカップを置き、少しだけ視線を泳がせた。

「お前は剣を握って戦場で無双してるときは、文句なしにカッコいいんだよ。誰が見てもな。……でも、その『後』がな……」


(血塗れの剣を納めた数秒後に、満面の笑みで尻尾振って『褒めて褒めて!』って突撃していく姿を見せられて、キュンとする女はいないだろ……)


言葉を濁したヘイズの真意に気づくはずもなく、レイは「うーん」と唸りながら、さらに深く机に沈み込んだ。

「どうやったらかっこいいって思ってもらえるんだろう……。壁ドンも顎クイもダメだったし……」


国宝級の美貌を机に押し付け、本気で思い悩む緋翼のエース。

その姿を見下ろしながら、ヘイズは心の中で盛大にツッコミを入れた。

(絶対にお前みたいな超絶イケメンが抱える悩みじゃねぇな、それ)


その時だった。

休憩室のドアがガチャリと開き、同じ部隊のジルが顔を出した。


「おーい、レイ。また女の子からお呼び出しだぜ。中庭で待ってるってさ。チラッと見えたけど、今日はすげぇ美人だったぞ」

「……えー」


露骨に嫌そうな顔をして、レイは机から顔を上げた。

そんなレイを見て、ヘイズはニヤニヤと意地悪く笑う。

「おーおー、おモテになることで。顔面国宝様は毎日忙しくて大変ですねぇ」


「……っ」

レイはヘイズをジトッとした恨めしげな目で睨みつけると、「すぐ戻るから」と渋々立ち上がり、休憩室を出て行った。


――騎士団舎の中庭。


色とりどりの花が咲く庭園の片隅で、レイは一人の美しい女性と向かい合っていた。上等なドレスに身を包んだ、貴族の令嬢だろうか。彼女は頬を赤く染め、潤んだ瞳でレイを見つめている。


レイの断り方は、相手が誰であってもいつも同じだった。

変に期待を持たせないよう、一切の感情を交えない冷ややかな営業スマイルを作って、ヘイズに考えてもらった『角の立たないお断りのセリフ』を口にする。


「お気持ちは嬉しいですが、今は騎士の仕事に集中したいので、女性とのお付き合いは考えていません。申し訳ありません」


淡々と、しかしハッキリと告げる。

いつもなら、これで大抵の女性は涙ぐみながら去っていくのだが――今日の相手は、少しばかり勝手が違った。


「そ、そんな……! わたくし、レイ様が騎士団に入られた時からずっとお慕いしておりましたの!」

「えっ、あの……」

「諦められませんわ!」


ガバッ!

女性は突然レイの胸元に飛び込み、その背中に両腕を回してギュッとすがりついてきたのだ。


「っ!?」

レイは完全に虚を突かれた。

普段からイリスの匂いを嗅ぐために自分から抱きつくことはあっても、他人から(しかも女性から)触れられることには全く慣れていないし、何より本能的に嫌悪感がある。


「ちょっ、離して……!」

慌てて女性の肩を押しのけようとした、まさにその時だった。


ザッ、と。

すぐ横の通路を歩く足音が聞こえた。


レイがハッとして視線を向けると、そこには、抱えきれないほどの洗濯済みのシーツを持ったイリスが立っていた。


「……あ」

レイの喉から、間の抜けた声が漏れる。


イリスは、見知らぬ美女に抱きつかれているレイの姿をジッと見ていた。

ほんの数秒、視線が交差する。

いつもなら「あらあら、またモテてるわね」とニヤニヤからかってくるか、呆れた顔をするはずのイリスだが。


今日に限って、彼女は一切の表情を消していた。

そして、レイと目が合った瞬間、気まずそうにスッと視線を逸らすと――何も言わず、少しだけ早足になって、小走りでその場を通り過ぎていってしまったのだ。


「え……イ、イリス……!?」


焦燥感が、一気にレイの胸にせり上がってくる。

なぜ目を逸らされたのか。なぜ何も言ってくれなかったのか。

胸にすがりつく女性を引き剥がすことも忘れ、レイは遠ざかっていく幼馴染の小さな背中を、ただ呆然と見つめることしかできなかった。

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