表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/52

第13話 神速の銀狼、壁ドンの威力を誤算する

「いいかレイ! 女ってのはな、男の強引さにキュンとくる生き物なんだ! というわけで、まずは『壁ドン』の練習だ!」


休憩室の熱気は最高潮に達していた。先輩騎士の謎の号令により、たまたま通りかかった小柄な新人騎士(男)が、無理やり壁際に立たされる。


「お前、イリスちゃんの代わりな。レイ、やってみろ!」

「う、うん。わかった」


レイは真剣な顔で頷くと、壁を背にして怯える新人騎士の目の前にスッと立った。

そして、迷いのない動作で――ドンッ!と新人の顔の横に手をつく。


「ひっ……!?」

肩をビクッと跳ねさせた新人の耳元へ、レイはゆっくりと顔を近づけた。完璧な造作の顔面が、至近距離に迫る。


「……なぁ。俺と、付き合ってくれないか?」


それは、先輩から渡された台本通りのセリフだった。しかし、声変りを終えたばかりのレイの低く甘い声(通称:イケボ)と、国宝級の美貌がゼロ距離から放つ圧倒的なプレッシャーは、凄まじいものがあった。


「あ、あわわ……っ、顔が、顔が良すぎ……っ」

新人騎士は顔を限界まで真っ赤にして白目を剥き、そのままヘナヘナと腰を抜かして床に崩れ落ちてしまった。


「お、おいしっかりしろ新入り!」

「なんてこった……。男相手でこれなら、女が受けたら即死レベルだぞ……」


その恐るべき破壊力に先輩騎士たちは慄きながらも、「よし、上出来だ!」「これでイリスちゃんもイチコロだぜ!」とレイの肩を叩いて太鼓判を押した。


「そっか! これならイリスも俺にドキッとしてくれるんだね!」

見えない尻尾をブンブンと振って喜ぶレイ。彼は早速、昼休みに作戦を決行することにした。


――そして、昼休み。


「ふふふーん♪」

イリスは自分用のお弁当箱を抱え、中庭へ向かう廊下を上機嫌で歩いていた。今日のおかずは、彼女の大好物である鶏肉の香草焼きだ。

そこへ、前方から銀色の旋風が音もなく近づいてきた。


「イリス」

「わっ、レイ? どうした……」


ドンッ!!!


イリスが言い終わるより早く、レイは彼女を壁際に追い詰め、その顔の真横の壁を力強く叩いた。

「ひゃっ!?」

突然のことに目を丸くするイリス。レイは内心(よし、決まった!)とガッツポーズをしながら、先輩たちに教えられた通り、スッと顔を近づけた。


そして、練習通りに低く、甘く、吐息混じりのイケボで、イリスの耳元に囁いたのだ。


「……俺と、一緒にご飯食べないか?」


(どうだ……! これなら男らしいし、カッコいいはず……!)

レイは期待に胸を膨らませて、イリスの反応を待った。腰を抜かすか、顔を赤らめるか。


しかし、至近距離で見つめ合ったイリスの顔に浮かんだのは、トキメキとは程遠い、戦慄の表情だった。

彼女は自分の胸元に抱えたお弁当箱を、まるで宝物でも守るかのようにギュッと強く抱きしめる。


「……もしかして」

「?」

「もしかしてレイ、自分のお弁当じゃ足りなかったの!?」

「えっ」

「まさか、私のお弁当まで狙ってるんでしょ!? ダメよ、今日の鶏肉の香草焼きは絶対に譲らないんだから! お腹空いてるなら大人しく食堂に行きなさいよ、この食いしん坊ワンコ!!」


言うが早いか、イリスはレイの腕の下をスルリとくぐり抜け、「取られてたまるかー!」と全速力で廊下の向こうへと逃げ去ってしまった。


「…………あれ?」


ぽつんと廊下に取り残されたレイ。

壁に手をついた『壁ドン』の姿勢のまま、虚空を見つめて瞬きを繰り返す。

男らしさをアピールしたはずが、「自分のお弁当を狙う腹ペコ犬の強奪行為」に完全変換されてしまったことに、神速の銀狼はしばらく気づくことができなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ