第89話「夢」
『マリーゴールドは手強わかったろう……疲れてるよね~?✨お茶でも飲むっ――』
視線の移動よりも速く形成されて、光速で振り抜かれた大鎌が城やその周辺の小さな街を斬り飛ばし、美しかった景色を焦土に変えた。
お気に入りの景色だから、リプラにも紹介したかったんだけどな~。
『……せっかくここまで来たんだよ……?なんかこうさぁ~?この見慣れない空間を探索してみよう!⭐とかしなくてよかったんですの?君が望むならまた作り直しておくけど?積もる話もあるだろうし、僕だって君と話したい事とかやりたい事がたっくさん――』
大鎌が再び振り回され、僕の眼前を切り裂く。
「私は踏み込んだしお前は動かなかった、のに斬れなかった……空間を操るのがお前の力だな。」
『うん∰……まぁ〜それも正解……かな?』
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『いや、なんか……やっぱ違うかもなぁ……↓。』
「……ここは!」
瞬きのあと、静かな白蛇街の中央で僕とリプラは石畳を踏みしめる。
『支配者ってさ~⤵……大体が当然のように空間作ったり操れたりしちゃうわけ……君達が生まれるような世界作るのはその発展形っていうか、自分で作った水槽で生態系発展させましたみたいなソレなんだよ……別になんか……僕の力とか言われると……そういうんじゃないよねぇ……って悲しくなっちゃってぇぇぇぇ。』
僕はエアダンサーのように体をくねらせ、声にビブラートをきかせていた。
『うーん……歓迎の印とでも言っておこうか、とりあえず僕ができる事を一通り見せてあげよう。』
メイド服の短いスカートを揺らしながら、僕は指でフレームを作り上げる。
『【As if】・【ダメダメお姉ちゃん】。』
選択された白蛇街が横半分にずれて崩れていく。
それに巻き込まれた死月鉱は『断たれる』という想定外の事態によって無限の増殖を始めた。
乱れる死月鉱が伸びた先、上空からリプラが滅光のレーザーを放つ。
「何故……お前がその力を!!!!」
『何故と言われましても、君達の力は当然全部使えるよっ?そりゃ全部元々は僕がメアーに渡した物なんだから……自分を複製するような気分で……ね。』
バク転を決め、宙に浮く僕を捻じ曲がった空間が受け止めた。
僕の瞬きと同時に、空間は再構築される。
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『てかさぁ、アイツの事も僕の事もメアーって呼ぶのもうやめようか~……?元々馬鹿みたいに乱れまくった世界なのに尚更分かりづらいよね〜……。』
龍妖彩、ブライツシティの道路、その中央を歩く僕の視線の先でビル群がレーザーに焼き貫かれていく。
『アイツの名前もっと僕のと別物にするべきだったな……僕もメアーなんだけど……君達が先に知ったのはあのクソみたいな失敗作の方のメアーだから仕方ない!』
シティの名物、容器についたボタンを押して5種類の味を楽しめる『フリーダムスムージー』を飲み干し、僕は舌を出す真似と共に夥しい量の闇を吐き出した。
「【突き抜けろ死月鉱】!!」
『【As if】・【力だけの馬鹿】……っ、オエッ!!!!』
弾ける死月鉱と共に放たれた光線と悲鳴を上げながら広がる闇がシティを覆って、僕の手からフリーダムスムージーが消し飛んでいく。
『ボタン全押しはするなって側面に書いてあったな……不味すぎ。』
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『ナイトめあ!これでいいね、メアーとは文字数も文字の形も違うからアイデンティティを保てる。』
城、だが黒く荘厳な雰囲気が漂うコスモス大陸の中央で僕の周囲に殺気が立ち込める。
『……僕ばっかペチャクチャ話してて退屈なんだけどさ〜、そろそろ君も何か話してよ⭐』
「言われずとも、聞きたい事を1つ思い出した……UR/ELと呼ぶ者達に何を望んでいた?」
謁見の間へ続く長い廊下の上、こちらの様子を伺いながらリプラが大鎌に滅光を纏わせる。
『力と認識だね……失敗作のメアーやニューオーダー、滅王などの降りかかる厄災を退けるのは勿論、その根元にいる僕のことを認識してここまで来てほしかった……ま、結局4人目にして助言やら、死月やら、明星木槿のタイムリープまでやらせて、ようやくここまで来てもらえたわけだけどサ。』
「……ここまで来させて、何がしたい?」
立ち込めていた殺気が彼女の目と鎌の刃に収束していき、廊下を照らす照明を破裂させていった。
徐々に暗くなっていく廊下の先で、こちらを睨むリプラへ僕は満面の笑みを見せつける。
『逆に聞くけど君は何がしたい?✨……僕はね、君を新しい親友にしたいんだよ!!⭐️』
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「は?」
暗闇が陽光に照らされ、僕にとって見慣れた形の謁見室の中に僕と彼女は立っていた。
白い壁、細やかな模様が刻まれている柱……そして、僕は座った事のない純白の玉座。
『あの玉座、僕は座った事ないんだ~。アレは僕が座るためじゃなくて、親友に座ってもらうために作った物だったから。』
「……お前にも親友が居たのか?……対等じゃなくて、お前が尽くすような相手が?」
困惑を混ぜたリプラの声が、僕の耳に届いて頭をかき乱す。
『黙 れ ! ! ! ! ! ! ! ! 』
玉座の後ろや謁見の間の側面にあった全てのステンドグラスが割れ、そこから流れ込んだ風はとても心地よかった。
震える身体と声と精神をソレになだめてもらいながら、僕は剣を握りしめる。
『対等だった。あの人は玉座で、僕は、お世話して、あの人は、素晴らしい物を、作って、僕を、笑わせてくれる……はずだったのに。てか、被造物ごときが僕の話を遮るなよ。』
記憶、僕の思い出に欠落がある。
欠落が人の形をとっている。
『期待外れだった!!!!壊れていた!!!!面白くない!!!!つまらない!!!!僕の事に何も気づいちゃいなかった!!!!あの馬鹿は!!!!僕がどれほど尽くしてやったのかもしらずにな~!!!!……だから僕は、アイツをV0/Dに突き落としてやったんですの。』
「V0/D……?」
欠落が僕に手を差し伸べ、手をとった僕と一緒に草原を駆ける。
欠落に差し出した物を、具合の悪そうな欠落が払いのける。
やがては自分の世界の管理すら怠り初め、何も作り出さなくなった、夢を失ったソレを僕は……あぁ、この先の記憶が感情の波に隠れている。
いつの間にかソレは宇宙空間のどこかにあるモノクロな穴の中へ放り込まれていた。
そのせいで、今のアレは欠落だ。
名前も顔も姿も、存在が誰の記憶からも欠けたんだ。
『始まりの支配者が作り出した終わりの始まり。興味本位で1度、失敗作を道連れにするため2度作り出した……ブラックホールやアポカリプスのような続きのある終わりではなく、ただの終わりそのもの……ソレがV0/0……つまらねぇ奴だったんだ。余計な奴もそう……ゴミは存在ごとゴミ箱へ捨てるのが一番だろぉっ!?!?』
「……その親友の代わりを見つけるためにUR/ELを始めたのか?」
城も草原も、全部僕が作り出した空間だった。
物語だって何個もあった。
主人、主人公を望んでいたのに。
僕にこの名と姿を与えてくれたのはお前だったのに。
僕はアレから奪った唯一の力で空間をなぞる。
『YES!╋━╾……無いなら作ればいいの精神さ!!』
「……ははっ。」
リプラ・リュミエールの困惑した表情が微かに変わり始め、死月鉱が謁見の間へ広がっていく。
『おや?模様替えかい?僕は確信してるんだよ!君なら必ず、僕なら必ず最高の親友になれる!!互いにアレもアスクももう忘れていいんだ――』
「無理に決まってんだろうがよ!!!!」
分かっていた。
死月鉱は殺気を溢れさせていた。
無理に笑っているんだろう、限界まで口角を上げた口元を震わせながら彼女が死月鉱と共に空間を作り出していく。
『どうして~……?僕達は支配者すらも支配できる最高の存在だよ?永遠に、何でも遊べるんだよ?✨ヘンテコな世界を作り上げてそこの進化の樹がどうなっていくかを見つめたっていいし、適当な生命体に適当な力を与えて何個世界を支配させられるか試したっていいんだ!!こっちに気づかれた時はこのHOP-13-326に誘き寄せて抹消しちゃえば――』
「誰がそんな事したいって言ったんだよ!!この世界だけじゃない全世界に存在する誰1人も、もうお前とは仲良くできない!!!!」
剣を振り回すと同時に、僕の口角もどうしようもなく上がっていった。
震えた歪な笑い声を響かせながら、2人の支配者が空間での押し合いを始める。
『……はぁ……?……へへっ……めぁぁぁぁっはっはっはっはっ!!!!』
「ははははははははっ……!!!!」
謁見の間が割れ、その裂け目から真っ暗な宇宙と月面が顔を出す。
『被造物ごときが分かったような口を!!!!』
「お前が親友を語るな!!!!」
死月鉱と空間が僕達に支配権を奪われ続け、やがては両側から引き裂かれたぬいぐるみのように崩壊する。
遠く弾き飛ばされ、闇の沼の上へ降り立った僕と月の都市のピリナス中央へ着地したリプラは遠方から互いを捕捉する。
そしてそれぞれの直下に存在する闇へ手を伸ばした。
「もう話したくない!!お前みたいな奴とは今後一生!!!!」
『いいよ!⭐……全力で、心ゆくまで潰しあおう~!!』
生命体達の交流、その最終手段。
互いの目的が相容れぬものであると悟った両者が始める必然。
己の願いを通すため相手の悪夢となる覚悟。
それが殺し合いだ。
そして今、僕とリプラは闇へ同時に同じ命令を下す。
主を守り、敵を喰い殺せ。
『「【月獣の暴走】!!!!」』




