第81話「裏をかける戦い」
月の都市、防壁の上下で月人達とニューオーダーは殺し合う。
先刻レイズが斬月で切り裂いた防壁は既にリメイムとチェッカにより月鉱を使われ修復されており、ニューオーダーの者達は壁を登るか破壊を試みるなどして侵攻を続けている。
「角つきの兎が来てる~!!一緒に止めてください!!!!」
「「「ラジャ!!!!」」」
「防壁のおかげか知りませぬが、僕達良い感じにアイツらと戦えておらぬか?」
「油断するな~っ!上がってこられた時は即座に逃げられるようにしておけっ!!」
「……チマチマと!しぶといんだよクソガキ共!!」
大盾が防壁の下から顔を覗かせ、ソレを突き落とそうとした月人達のハルバードを弾き飛ばす。
「随分ご立派な連携でもな!俺達も連携しちまえば?お前らのクソカスみたいな力くらい簡単に突破できちまうわけさ!!」
「細き矢も、3本集えば、折り難し……太き矢無論、それより強し。」
「これ以上アビゲイルちゃんの邪魔をするなぁぁぁぁっ!!!!」
防壁の上へ飛び出し、思い思いに叫ぶと同時にニューオーダーの人間達は近場の月人へ襲いかかり、斬り捨てるか防壁の下へ突き落として暴れ回った。
「ひっ……やばい!!あそこから皆上がってくる!!」
「……上がらせないぞ~!!!!」
バリスタ隊の指揮をとっていた月人がハルバードを手にとり、駆け出そうとしていた。
だが、その瞬間にどこからともなく蔦は伸びてニューオーダーの人間達へ襲いかかる。
「ホープ・シュリエルドだ!!あのクソ女どこから――」
「うぅぅぅぅ……アビゲイルちゃんとの戦いから弾かれたからって――」
「まだ見えず、翠の女の、切り口が……迎え撃たねば、我ら死ぬのみ――」
「辞世の句かい?」
蔦に乗り、ホープは既に斬りかかっていた。
上がってきた内の2人の首を飛ばした後、彼女は大盾を持っていた男の背後で殺気を研ぎ澄ませる。
「っ……クソ女――」
「【謳華流 白梅】。」
大盾の裏で塵に還っていく男を見つめていた月人へ、ホープは大盾の持ち手を向けた。
「突き落とす時に使うといい、もちろん連中の手や素肌には当てないようにね。」
「ラ、ラジャ……あの、ホープ様!ロイヤー様やチェッカ様は今どちらに?」
よろけながら大盾を構える月人とソレ越しに会話しながら、ホープは空を睨んでいる。
「ロイヤー君は巨人の足止め、チェッカ君はちょっと厄介な奴と戦ってるけど……多分大丈夫。」
彼女の視線の先、空中ではホワイトライダーを纏ったアダムが飛び回り続けている。
その周囲へ喰らいつくレイズはエクスカリバーの全てを跳ね返す力を応用し、空間を跳ね返す事で落下に抗い続けていた。
「(アダムは自由に飛べる、でもミカはいちいち空間を斬りつけなきゃいけない……自分がどこに飛ぶかを制御しながら斬りつけるとやっぱり単純な軌道になりがちだ、当たり前だけど慣れてないから……とにかく不利だ。また援護しにいきたいけど、この月鉱の剣じゃ……遺物でもなんでもないコイツじゃ……悔しいけどあの戦いについていけない、ミカの隣に並んでも足手まといになってしまう。)」
ホープの背後では都市の内部にて建物が崩れ砂塵が舞い上がり、眼前で紫雷が弾け続ける。
「(何かないのか……?)」
――――――――
「ん?」
月の都市の内部、建物の上にいた上裸のカラスカを遠くで起きた蒼い爆発が照らす。
「……あらっ?あららら??ロウシェンが堕ちている!!まさか!!!!そんな!!!!ロベリアさん!?!?」
「よそ見してる余裕なんて無いですよね?」
どこかから響いた少年の冷静な声、カラスカはその声と同時に現れた4本のブーメランを警戒して2つの目をバラバラに動かす。
「(囲まれた!いやそれよりもこのブーメラン……どこかで見た事あるような!?)」
「僕は知恵の天使……偵察もたくさんやってきました。模倣くらいできなきゃ、天使名乗ってられませんよ。」
四方から襲いかかるそのブーメランの見た目は、ロベリアの技寂しがり屋の閑古鳥と瓜二つである。
彼女との交流も多かったカラスカもまた、ソレの事をよく知っていた。
「仲良さそうでしたよね、アレを使ってた人と貴方は……この武器がどんなものか、どれほど危険かよく知ってるんでしょう。」
カラスカの姿勢が崩れる。
建物の根本がチェッカの角笛に叩かれ、破壊されたのだ。
「(何だと……?このブーメラン達をただ私の動きを止める為だけに!?無称呼で4本も出したんだ、純粋な天使といえど相当体力を使ったはず!!なんて贅沢な囮を――)」
「だからこそ……貴方はコレを警戒しますよね。」
崩壊した建物が舞い上げた砂埃の中、急速に迫る殺気にカラスカは歯を食い縛る。
「落ちていく……空中……だからって!反撃できないとでも!?」
「(来る!!!!)」
彼の四肢が伸び、脇の下から更に2対の腕が伸びていく。
カラスカの力は彩人であるにも関わらず変幻自在の性質を持つその身体と、ソレを完璧に使いこなせる自身の身体構造への理解力。
「思ってませんよ……ぐっ!!!!」
彼は伸びた四肢を使い自身の落下を止め、残った2対の腕が飛びかかってきたチェッカの首と腕を掴む。
「では何故捕まるんですか?死の天使の前で嘘をつくとは、重罪ですよ。」
「……お前は死の天使じゃないだろう!下衆が!!」
睨みあう2者へ、別の殺気が迫る。
「(上から……あのブーメランか!曲がって降下してきている!!動きを止めつつ追撃にも使うとは……無駄がない!良いですね!!)」
この命を奪い合う状況下でも満面の笑みを浮かべられるカラスカに困惑しながら、チェッカは溜め息をついていた。
「……事前を命令を下しておく事で手から離れた後の月鉱や死月鉱にも動きを持たせる……アスク君のマーナガルムも同じ原理だったんでしょうね。」
「えぇそうでしょうとも、ロベリアも彼の技を見て思いついたと言ってました。」
4本のブーメランがほぼ同時にカラスカの背後へ迫った瞬間、胴体に突き刺さるはずのソレを彼は四肢を動かす事で回避するつもりだった。
だがその直後、マーナガルムは発動する。
「(……私が四肢を着地させた近く……砂埃が晴れてきてようやく分かった!!砂に紛れてばら撒かれているのは……月鉱!!!!)」
「【マーナガルム】!!!!」
飛散したソレは、カラスカの手足を粉微塵に吹き飛ばし彼を空中に放る。
幸運にも体に走った激痛から手を離されたチェッカは空中で角笛を振り回し、カラスカの顔へ叩きつけた。
「詰みですね。」
「がぁ……!!ま……だ――」
顎を砕かれ、顔の穴という穴から黒い液体を散らす彼が口を開いたその瞬間。
天使に殴られる事で少しだけ上へ飛んだ彼の身体を、追いついたブーメランがシュレッダーの如く切り刻んだ。
人革の魔術師として、人を素材に芸術品を作ってきた人間が醜くドス黒いヘドロとなり、そして塵へ還っていく様を見届けた後、地面に倒れこんだチェッカは呼吸を整える。
「力の練度が他と比べても段違いだった……でもこの人と同等に強いニューヒューマンはたくさん居るはず……急いで援護に向かわなきゃ!!」
飛び上がり、防壁へ走っていく彼を建物の陰から見つめる者がいた。
――――――――
「痛い痛い痛い痛い痛い……!!!!」
「やばい……ノイズが出てる!!リメイム様はどこですか!!」
「せっかくネバネバで強いニューオーダーを1体倒したんだ!こんな所で死ぬなよ!?生き延びたら皆で褒めてやるから!!!!」
「すまんすまん!遅うなった!!」
防壁の上、無くなった右腕を抑えながらもがいている月人を白い光が包み込む。
時計が時を刻むような音が響くと同時に凄まじい勢いで再生していく腕を見つめ、月人は平静を取り戻していく。
「わぁ……あ、ありがとうございます!!!!」
「礼はよい!このまま儂らで連中を倒しきるぞ!!」
各地で数多の命が傷を負って死んでいく。
その中で奔走し、リメイムは傷を負った月人達の治癒に全力を尽くしているのだ。
「……すみません、俺にも頼めませんか。」
「む?」
再び防壁の上を走り、負傷した月人の捜索へ赴こうとした彼の前へ現れた木槿はふらつきながらも、その腕に藤結を固く握りしめている。
「明星木槿!?君も戦っておったのか?」
「白いデカブツを堕としてきたんですが、体が限界で。」
アスクが地球へ向かって以降レイズからよく木槿の話を聞かされていたリメイムは、彼の体が月人のソレよりもとても脆い物なのだと覚えている。
「アレを君が……!いやはやさすがホープ殿と並んで、レイズ様からアスク君達を託された地球人じゃな……よくやってくれたわい。」
「……もったいないお言葉です。」
白い光に包まれ、虚脱感や疲労感と共に欠けた歯を元通りにされていく光景に動揺する事もなく、木槿は立ち上がって歩き出す。
「これこれ……!レイズ様から君の肉体の強度の話は聞いておる、それに儂も地球人を治したのは今のが初めてでな……治しきれていない所があるやもしれん、休んでおっても――」
「俺がこの世界で休んでていい訳ないんです、俺も防壁を守りますよ。」
リメイムに背中を見つめられながら、木槿は胸のプロテクターに手を乗せる。
「それに、ホープに渡したい物もありますから……装着開始。」
「(治した時の手応えからも感じたが彼は確かに弱い……何か特別な力があるようにも思えなかった……じゃがそれでもこの戦火渦巻く状況下で、彼は自身の限界を超えてまで動こうとしておる……何が彼をここまで動かしておるのだろう。)」
幾何学模様が木槿を包み、機械音声は彼へ問いかける。
「P,P,P……Pale Rider!!!!What is your hope? Ready……say it!!!!」
「……全ての者へ正しい休息と安寧を!」
「……ぐぅっ……!?」
銀色の装甲が木槿を再び包み込んだその背後。
防壁の下から伸びた腕とソレが持つ剣が、リメイムの背中を深く斬りつけた。
木槿が月人達と共に振り返り、そこで目にしたのは先刻確かにチェッカによって殺害されたはずの、人革の魔術師の満面の笑み。
「ヒーラー……ですね?それも唯一の!!!!」
「き、貴様……チェッカの笛を何故持っておる……!?!?」
防壁の下から、その上まで伸ばした四肢を揺らめかせながら、彼は角笛とリメイムの頭を掴む。
「何故って殺して奪ったからに決まってますよ。私の力はね、自分の体を自由に変形させられるだけじゃあない。部位を複製して腕を増やしたりもできます。」
腕はリメイムと笛を握りながら枝分かれし、足を縮めるカラスカの体を防壁の上へ持ち上げた。
「そしてこれは最終手段……作るのも大変ですし自我が崩壊する危険もあるので滅多にやりませんが、できちゃうんですよ……【不滅の神秘】。」




