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URIEL【4つの神話と月人の双子】 ~ある日、大切な親友と離れ離れになった少年が身を投じたのはカラフルな電子海か、支配者を決める戦いか、永い過去の清算か……あるいはその全てか~  作者: リプラ
2大勢力編「その名は」

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第63話「悪夢」

 パピリオンの空を蒼い光が照らす。

 月人の天使種が纏うソレと同じ服を夜風になびかせながらマリーゴールドは口を開いた。


「昔話をしよう……かつてこの世界には、今ほど多くの色は存在していなかった。」


 大鎌を構えるアスクを見つめながら、マリーゴールドが後ろ手を組む。


「髪の色は黒、金、茶……目の色は黒、茶、青……人類は今と比べて非常に地味だった。」


「(この話……まさか、ロベリアが話してたのと同じヤツ?)」


 マリーゴールドから放たれる直線的で隙のない殺意。


「大した夢も野望もなく、他者が他者に利用されるために、他者を利用する……中身のない、とても単調でつまらない世界に……ある時、1人の"神"が舞い降りた。」


 それに視界を覆われながら、アスクは鎌を握る手を震わせていた。


「名は『メアー』……『夢の支配者』であった彼は世界に降り立った直後、とある農夫に自身の力を分け与えた……『世界を色と夢で満たすために』。」


「……?」


 建物の陰からB.12がマリーゴールドを警戒している。


「直後にメアーは消滅し……農夫の髪は青空のような色へ、その目は我々(月人)と同じような模様つきの紫へ……力を与えられた農夫は農夫でなくなり、すぐさま世界に腰かける王となった。」


 空へその手を広げながら語るマリーゴールドの目は、まっすぐとアスクを見つめていた。

 B.12の存在に気づきながらも、興味の一片も持たずに。


「農夫だった王はやがて子を成し、その子孫達も皆……紫の目と空色の髪を有した。王とその家族を中心に人々は栄え、多くの物を開発した……それは後に『旧世界の遺物』と呼ばれる。」


「……What(なんだと)……!?(旧世界の遺物……その始まりを知っているのか?コイツは……!!)」


 話に耳を傾けつつ、アスクは大鎌を構える手に力をこめ続けていた。


「王の血筋が15世代ほど続いた頃、メアーは子孫の1人を依り代にして復活した。そして全てを今度こそ自身の支配下におこうとした。」


 眼中の模様を回しながら、マリーゴールドは(うつむ)く。


「アスク・スーリエル……クリキンディーからも聞いただろうが、結果としてメアーは世界を支配しきれなかったんだ。」


「……クリキンディーを知ってるの!?」


 マリーゴールドは殺意をその手の中へしまいこみながら、アスクの背後へ立つ。

 瞬きよりも雷鳴よりも速く。

 アスク・スーリエルにとって敵の動きを察知できなかったのは初めての事だった。


「えっ。」


「……話を続けよう。何故メアーは世界を支配できなかったのか、その原因は……彼が支配のために利用した者達の反抗にある。」


 月と地球、その両方へ意識を向けながらマリーゴールドはアスクの周りを彷徨う。


「復活の際に依り代とした王の子孫『ジャン・バルジャン』……彼の抵抗によって地球の支配に失敗した後、メアーが月にて作り出した兵士の第0号『クリキンディー』……この2者が共にメアーへ反旗を翻した。」


「……?(作り出した……兵士を……月で?僕達っていったい――)」


 口を開こうとしたアスクの前へ指を差し出しながら、マリーゴールドは薄ら笑いを浮かべた。


「分かるさ……だが今あたしが君に伝えたいのはソレじゃない。2者は反抗の末にメアーを地球からも月からも追放し、『パンドラの箱』へ封じ込めたんだ。」


「……。」


 ソレでなければ何を伝えたいのか、疑問に眉をしかめながらアスクが大鎌を(かす)かに輝かせる。

 その結論を急かすように。


「……話を聞くのは苦手かい?」


「着地点が見えないと疲れるね。」


 少しの間沈黙してから、マリーゴールドは自らの手の上へ紫色の裂け目を発生させる。


「使用、100000G(グリント)。」


「……!!」


 裂け目から抜け落ちるように現れた箱が、マリーゴールドの腕の中へ抱き寄せられた。

 箱から放たれる歪で強大なエネルギーがパピリオン市の全体を包み込む。


「……What is(なんだ)……that(アレは)?」


「(間違いねぇ……この中身ヤベぇ、出てこられた時点で……俺ら死ぬぞ。)」


「ひぃっ……ほ、本部聞こえますか……!?こちらB.3!至急パピリオン市へB.2以上の救援を――」


「ソレが『パンドラの箱』?」


「そうだ。まぁ安心してくれて構わないよ……あたし達はまだコレからメアーを解放できない。」


 宝石の抜け落ちた形跡が残っているだけの、古びた木製の宝箱(パンドラの箱)を見つめながらアスクが首を傾げた。


「……どうして?お前の光とか、死月鉱でも使えば……そんな物壊せるでしょ?そんな事が思いつかない程の馬鹿には見えなかったんだけどな?」


「ルッキズム的で最低な褒め言葉だ……だが喜んで受け取るよ。その通り、コレは見た目に反して死月鉱でも光速でも、あるいはその両方を利用しても破壊できない……"そういう物"として存在しているんだ。」


 箱の隅を指先に乗せて回しながら、マリーゴールドがアスクを睨む。


「メアーを解放するには箱を『開ける』必要がある……そして、我々はそのための鍵を手に入れようとしている。」


「鍵……。」


 アスクが呟いた直後、箱を小脇に抱えたマリーゴールドは彼に向かって手を差し出した。


「鍵の在処は分かっている。あとは奪うのみ……あたし達は間もなくメアーを解放する。」


「……嘘ではないんだね……メアーがその箱の中にいる事も、鍵を見つけてることも……でも僕がお前達の側につくメリットはないでしょ?」


 アスクへ差し出していた手が、微かに蒼く光る。


「そうだね、君にはメリットも……拒否権も無かったのさ。」


「!」



 ­­­――­­­――­­­――­­­――



「『N/GH♱M4R3z(ナイトメアーズ)』め……。」


「……今なんと!?!?」


「(歪な文字……口に出すだけで視界に現れた?)」


 ブライツ本部の会議室にて。

 モニターに映るマリーゴールドの姿を見つめながら、ライムはその名を呟いた。


「『N/GH♱M4R3z(ナイトメアーズ)』、それが彼らに『運命づけられた名前』だ。運命づけられた名前はこうして聞いた者に様々な感情と視覚的な情報を抱かせる。」


「運命づけられた名前……運命って誰にどうやって決められる物なんですか……。」


 溜め息混じりにそう話す一葉は、マリーゴールドの眼中で輝く模様を睨んでいる。


「……支配者か、それ以上の存在になら出来るだろう。」


「「……。」」


 自身の組んだ手を見つめた後、何かを思い出したようにライムは口を開く。




「……『UR/EL(ウリエル)』。」




「それも……運命づけられた名前ですか?」


 名が纏う異常なオーラへ一葉とコリウスが目を見開いた。


「そうだよ。何を指すために現れた名前なのかは、まだ分からないけど。」



 ――­­­――­­­――­­­――



「……おや?」


 廃工場に3人の堕天使が舞い降りる。

 遠くに見える3つの魂に向かってホープが近づいていく途中、魂の1つが空高く舞い上がった。


「!!」


 舞い上がりホープの頭上へ落ちようとする影へ雲を突くような勢いで剣が突き刺さる。


「コイツは!」


「ぐぇ……ぇ……。」


 気絶している内にレッドライダーを奪われ、投げ飛ばされたブラットバッドが胴体を2つに斬り分けられ絶命する。


「驚いたな。遺物を使った月人に2人の地球人が勝ったのか!同じタイプの遺物を使ったとはいえ……こりゃ大番狂わせだね。」


「なるほど……地球人が月人になっても、地球人としての内部構造は消えない。だから脳を攻撃する事で地球人としての性質を利用して気絶(強制シャットダウン)させたのか!なかなか賢くてバーグ感心しちゃうな!!」


「B.4に、死神の(ドレパニ)……コイツを倒したのは貴様らか。」


 3人の堕天使の前へ、ペイルライダーの肩を抱えた黒いレジスタンサーが歩み寄る。


「Да……Наконец-то мы встретились, черные ангелы.」


「……ロシア語?旧世界の言葉。」


「灰色の者、酷く疲れているようだな……儂に任せろ。」


 ガイアへ木槿を渡した直後、黒いレジスタンサーが蒸気を吐き出す。

 胸部へまとめられていく装甲の下から褐色の肌と緑の髪、金色の目が現れた。


「あれ……?君の顔どこかで見た事あるな。確かL.E.R.Iの――」


「『旧世界研究チーム』、ガーベラ・バスクエダ。またの名をB.4メイフライ……だヨ。」


「ブライツとL.E.R.I!その間で暗躍している人間がいたなんてビックリ!?」


 アイスバーグの煌めいた視線を浴びながら、ガーベラがホープに右手を差し出す。


「私こそこんな長い間やりたい放題できるなんて思ってなかったよネ……ま、ブライツともL.E.R.Iとも違う協力者なんてたくさん居るからネ。ブラットバッドを呼び寄せられたのも、まぁその人達のおかげかナ。」


「ライムも君の行動を容認してるのかな?とりあえず……私はホープ・シュリエルド、こっちの2人(ガイアとバーグ)は――」


「自己紹介は後にしろ。」


 ガイアの力によって疲労を消してもらった木槿が肩を回しながら、ホープの腕を強く掴んだ。


「ん?」


「今すぐパピリオンへ向かえ、お前らも使えるんだろ?裂け目。」


「パピリオン〜?そういえばアスク君が戦ってるんだっけ?……まさか。」


 バーグが首を傾げてからすぐに目を見開いて、ポケットへ手を突っ込んだ。

 月鉱でコーティングされたスマホを高速で操作し、ミラージュライブをその液晶に映し出す。


「昔話をし…………かつてこの世界には、今ほど多くの色……していなかった。」


「マリーゴールドの声……パピリオンに来ているのか!?」


「そうだ、とっとと行くぞ。ココでモタついてアイツ(アスク)を失えば詰みだって事ぐらい、誰にでも分かる――」


 鋭い目つきで全員を睨む木槿の背後で、シ長の革靴がトタン屋根を小突いた。


「ここ最近……戦争の開始前後から今まで、僕らにとって都合の良い事ばかり起きると思っていたが。」


「!」


「シ長……!?会ったばっかりの(コイツら)に、もう姿を見せるなんて珍しいじゃないか?」


 ホープが嫌味を混ぜた言葉を放ち、薄ら笑いを浮かべる。

 シ長自身を除く全員が彼へ視線を向けた瞬間。

 パピリオンの近くへ繋がる緑色の巨大な裂け目が彼の背後に現れる。


「どうして僕達が裂け目を使えると知っているのか、なぜ新世界に選ばれた者達(ニューヒューマンズ)への対処法を知っているのか……ま、君達からも僕達からも、聞きたい事は山ほどあるだろう。交流会は、マリーゴールドを退けた後に。」

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