第48話「姦姦蛇螺」
3██年前、どこからも火の手が上がる霜月宮の中。
「何度、どのように言えば……君がこの事実を理解してくれるのか……!!」
藤結を構えた一武は女性と睨み合っていた。
「何度言われても、どのように言われても……私は信じません!!あの人は……███は私を必ず助けに――」
「ならば何故ここへいつまでたっても現れない!!!!変霊が蔓延り、周囲から上がるのは人々の悲鳴と変霊の奇声ばかり!!この変霊共がどこから来たか知っているか!?アイツが全て集めてきたんだ!!!!」
下腹部を抑えながら巫女が叫ぶ。
「そんなはずがない!!ココは私と彼が作り上げた街なのです……そんな事、彼がするはずが……。」
「……自分自身、もう気づいているんだろう……?俺と来るんだ!街の皆も君も、俺が必ず助けるから!!」
「っ……そんな、そんな――」
頭を抑える巫女の心臓を、白い腕が貫き鮮血を纏った。
「あ……あぁ……貴様……貴様ァ!!!!」
「……余計な事ばかりしないでくれるかな?」
腕を巫女の体から振り抜き、鮮やかな赤色の血を垂らしながら魔紳士Aが冷たく微笑む。
「【謳華流 鈴蘭】!!!!」
「【禁断の刺激】。」
一瞬で距離を詰め、突きを繰り出そうとする一武を魔紳士Aは紫雷で迎え撃つ。
ソレを刀で受け流そうとした一武の体に雷が駆け巡り、歯を食い縛りながら彼が吹き飛んだ。
「ぐぁ!?」
「馬鹿だな……君が持っている能刀とアイツが持っている能剣は一緒じゃないんだよ?」
地面に倒れ込んだ巫女の死体を踏みつけながら笑みを浮かべた魔紳士Aが一武へ歩いていく。
「……そんな事は!!百も承知だ!!!!」
一武によって鞘へ納められた刀が、即座に軌跡を暴れさせた。
「……っ!?」
紫雷を輝かせ、回避行動を行った魔紳士Aが即座に一武を蹴り飛ばし、切れて黒い液体を流し始めた自身の頬を撫でる。
「小癪な……師匠に鍛えてもらったんだろうに、まだ理解してなかったのか?僕達と君らじゃ……生物としての格が違うんだよ!!力も……知恵も見た目も、生きられる時間もな!!!!」
社に背中を打ちつけてうずくまる一武へ、魔紳士Aは紫に輝く手を向けた。
「……うぅぅぅぅあっ!!!!」
「!」
突如として魔紳士Aの首を、何者かが輪郭のぼやけた腕で締め上げ始める。
「信じて……いたのに……!!!!」
「この感覚……残格霊になってくれたんだ!ありがとう██……ヒヒヒヒッ!!!!」
「ぐ……ざ、残格霊になるほど……彼女は……お前に強い想いを……!!」
自身の首を絞める巫女の腕を掴みながら、魔紳士Aが低く笑った。
「面白い物を見せてやろう。」
「!?」
「……ぎゃあああアああああァッ!?!?」
紫雷の光が周囲を照らし、巫女の残格霊が悲痛な叫びをあげる。
「生物にとって1番の中枢……魂ってのはな、細かく紐解いていけば雷の塊でしかないんだ……これが指す意味くらい分かるよな?雷を操れる俺は、人の魂を掴める!……体という器、型を失った魂は雷によってその形や記憶を激しく乱され……結果、通常よりとっても早く変霊になってくれるんだ。」
巫女の残格霊が姿を歪め、どす黒い塊に変わっていく。
巫女の腹を突き破って現れた1対の腕を見つめながら飛び上がった魔紳士Aの体が、紫の粒子に分解され始めていた。
「実験してみたいと思ったんだよ、もし母体が妊娠中に変霊化したら……中にいた子供はどうなるのか。」
「はっ……!?!?」
「きっとどっかから俺の仲間が記録しているはず。せいぜい足掻いて……コイツの動きを観察させてやれよ?堕天使の弟子ぃっ!!」
消えゆく魔紳士Aを睨んでから一武は、巨大化し続ける巫女変霊の前へ震える足で立ち塞がった。
「畜生……すまない……すまない。俺が、何としてでも……君を、救ってみせるからな!!!!」
――――――――
300と数十年後、目前で蠢く変霊の塊にアスクと八美が拳を握りしめた。
「これが……白蛇の巫女……。」
「黒いけどね……なんなら蛇でもないし、ナマコみたいなんだけど。」
近づいてきた存在を認識し、巫女の変霊が無い目で2人を睨む。
「……ア……?」
「「?」」
アスクを降ろしながら首を傾げる八美の横で、アスクも首を傾げた。
「変霊って……時間が経つにつれて意識とか色々グチャグチャになっちゃうんじゃなかった……?」
「広がるのも止めた……名前を聞いてきてるの?」
妖人とスリエルの目が感知し続けていた変霊の魂は、確かに人のソレとはもはや微塵も思えないほど歪んでいた。
だが、彼らが巫女の変霊の前に立った途端、その歪みきったはずの魂は明確な意思を向けてきたのだ。
「……ア……ア?」
「何よツベンのツラナイみたいな話し方して……君に名前を聞いてるみたいだよ?」
「やっぱり?僕の名前……アスク・スーリエル!今から僕達で君を倒す!街や皆を守らせてもらうよ!!」
その瞬間、街を押し潰しつつあった巫女の変霊が1点に凝縮され始めた。
「……アスク……アスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスクアスク?」
「えっ……!?」
「まずい!そういえばアスクの名前、Aから始まる!!……魔紳士Aの事だけは、変霊になってからも覚えてたんだ!!!!」
2人の前に小さくまとまった黒い塊から強い殺意が体を生やし始める。
「嘘ついた方がよかった……!?つけないけど……。」
「もう仕方ない!……構えて!何が来るか分からない!!」
――――――――
白蛇街の宮へ続く道中から、大量の瓦礫が舞い上がった。
「チッ!」
鞭のようにうねる触手を躱し続ける木槿を見つめながら、ロベリアが笑っている。
「エヘへへへぇ……!すごいでしょそのアンデッド!!私が作ったわけじゃないんだけどね、お友達がプレゼントしてくれたんだぁ!!!!」
1人の傷ついた彩人を核として竜人の翼や粘人のコア、妖人の目やネコ科の獣人の足などが取り付けられているキメラがロベリアに呼応して笑う。
「木槿さん!!」
「気にするな、俺だけでやれる!!お前は円卓主の援護に回れ!!!!」
「……了解!」
振り向いて走り出した一葉を尻目に、木槿が粘人のコアから生えてきた触手の攻撃を受け流す。
「ぐゥ……ぬぬぬ……ぬァァァァ……!!!!」
イバラキが金棒を使って巨大な人型の変霊と押しあっている背後から、巨大な錫杖が低い音を響かせる。
「ボォォォォ!!!!」
「フホ……フホホホホ……!」
イバラキとほとんど同じ体格の変霊が、人々や彼と七尋を挟み撃ちにした。
「醜墜僧……!!封印されていた変霊の1人……座敷童モドキもそうだけれど、何故巫女の変霊に吸収されていないの!?」
「おい見ろ!巫女の変霊が消えたぞ!?」
「あの2人が倒したのか……?」
「いや、気配は消えていない!むしろ……クソ、何が起きているんだ……!!」
「……おい七尋、そんでお前らも!すまねェがこのボォボォ野郎を頼む!!醜堕僧は俺がやるゥ!!!!」
金棒で呻く変霊を押しのけてから、イバラキが振り返りつつ醜堕僧へ金棒を叩き込む。
「フホ……!?」
「その太ッた体は誰に作ッてもらッたんだ?……いや、"何人"で作ッたんだろうな!?!?ダイエットの時間だぞゴラァ!!!!」
醜堕僧が金棒によって凹まされた巨大な金属製の体を動かし、錫杖でイバラキへ襲いかかった。
「フンホッ!!!!」
「おらァ!!!!」
ぶつかりあう金棒と錫杖が発生させた圧で周囲の道や壁にヒビをいれる。
歯を食い縛るイバラキの背後で、七尋が人々と共に呻く変霊と対峙した。
「【捕】!!」
「ボォォォォ!!!!」
「円卓主の夫人を援護しろ!!動きを固めて頂いている間に最大火力を叩き込むんだ!!!!」
「おう!!」
「拘束なら私も手伝うよ!!!!」
ぎこちない様子で腕を振り回す呻き変霊へ突撃していく人々を見つめながら、七尋が冷や汗をかく。
「(座敷童モドキ……小さくて素早いアレだけならともかく、巨大で動きも鈍い醜堕僧まで吸収されずに残っていたなんて。残る2つの塔に封印されていた変霊……卑鏡と姦姦蛇螺は今どこに?)」
――――――――
蛇のような下半身、2対の腕を生やしながら巫女の変霊が唸る。
「嘘でしょ!?このシルエットまさか…… 姦姦蛇螺が吸収されてる!!」
「姦姦蛇螺?」
姿を変え続ける巫女へ鎌と拳を構えながら、アスクと八美が互いを見あった。
「白蛇宮の塔に封印されていた変霊の1塊だよ……!300年前、各地を練り歩きながら人々を襲って殺してた……通称、龍妖彩で最悪の変霊!!」
「つまり……強いってこと!?」
姦姦蛇螺と融合した蛇巫女が自身の顔を引き裂くようにして口と多数の目を出現させる。
「間合いに入ったらやばいって事だけ覚えといて……接近戦は無理!!!!」
「じゃあ八美戦えないじゃん!?」
八美は目を一瞬だけピクつかせた後に、アスクを抱えて走り始めた。
「アスクは避けれないでしょ!!!!」
「アァァァァスゥゥぅゥクゥゥゥゥ!!!!」
「うわ!?!?」
姦姦蛇螺が伸ばした腕の先から巨大な骨の剣が現れ、2人が先程までいた場所を叩き割る。
駆け回る八美を睨みながら姦姦蛇螺が腕を伸ばし始めた。
「腕が伸びるんじゃぁ間合いも何も無いじゃん!!」
「逃げ回れるだけ良かったでしょ!!」
剣を躱し、白蛇宮へ続く階段を駆け上がっていく八美達へ姦姦蛇螺が目を見開く。
「感じるだけで……吐きそうなくらい怒ってる……まぁ当たり前だよね!!クズに何されたかなんて私達には分かったもんじゃないし……!!!!」
「怒りの矛先が思いっきり別人に向いちゃってる事以外は何も間違ってないんだよ……。」
蛇のようになった下半身をうねらせ、高速で階段を駆け上がる姦姦蛇螺に向かってアスクが死月鉱を輝かせた。
「……でも、ごめん!やっぱり人違いで殺されたらたまったもんじゃないし、自衛させて!!【マーナガルム】!!!!」
「ッ!!!!」
アスクの動きに剣を構えた直後、投げられた死月鉱を見た姦姦蛇螺が咄嗟にソレを躱す。
「やっぱり変霊って、死月鉱が怖いんだ……!」
「ソリャソウダロウナ!!死ヲ恐レタ結果、人ハ変霊ニナルンダカラヨ!!!!死月鉱ハ『神モ含ム全テノ存在ヲ殺セル唯一ノ物質』ナンダ、変霊カラシタラコレ以上怖ェ物ハ無ェゼ……?ギャハハハハ!!」
「「!?」」
階段を駆け上がり続ける2人の横へ、突如として月人型のロボットが飛んできた。
「2E!!」
「嘘でしょあのメカ月人……壊したはずじゃ!?」
「ヒヒヒヒ!!驚イタカ!?!?コノママジャ百鬼夜行ガ完成スルマデノ護衛ガ難シソウダッテ判断シタカラヨ、スペアボディ起動シテ、オ前ラノ邪魔シニ来タッテ訳ダ!!!!」
2Eの放った腕と刃を躱しながら、2人は更に早く階段を駆け上がる。
「本体はボディじゃないってコトね!すっごい厄介じゃん!!帰ってよ!!!!」
「帰レト言ワレテ素直ニ帰ル奴ガイルカ馬鹿女!!!!巫女変霊ト一緒ニ、テメェラ今度コソ2人マトメテバラバラニ―――」
争う八美達と2Eの間に2本の黒い腕が伸びる。
「オ?……ホギャァァァァア!?!?」
2Eに絡みついた腕が素早く引っ込み、姦姦蛇螺が剣でソレの胴体を貫く。
「アァァァァ……!!」
「ダ、誰狙ッテンダァコノアホ変霊!!!!」
「よっしゃ!なんでか分からないけどラッキー!!今の内に戦いやすい場所行っちゃおう!!!!」
「賛成!じゃあね2E!!」
姦姦蛇螺の黒い体へ包み込まれていく2Eへ手を振りながら、アスクが八美に運ばれていく。
「待テコノ野郎……クソ!!離シヤガレ馬鹿変霊!!!!アイツラ殺スタメニ帰ッテ来タノニ、何デ護衛対象ノテメェニ壊サレソウニナッテンダ!?!?……分カッタ!腕デモ足デモクレテヤルカラ頭ダケデモ離セ!!オイ離セ!!離――」
取り込んだ2Eを体の中で粉々に砕きながら、姦姦蛇螺が歯を鳴らしていた。
「アァァァァ……ッ!!!!」
閑話? [ 泣いたAI ]
「……ん?」
月人の少女が赤暗い空の下で本を読んでいると、横にあるPCが軽快な電子音を鳴らした。
「エバエヴォルビング?もうやられてしまったのかい?」
「護衛対象ナハズノ巫女変霊ニ撃破サレタンダケド……。」
「そうかそうか……まぁ仕方ないさ、変霊だものね。」
「アイツラ……アスク・スーリエル共ヲ今度コソバラバラにシテヤロウト思ッテタノニィィィィ!!!!」
「まぁまぁ、次こそ頑張ろうじゃないか。」
「ウゥ……。」
「それじゃ、罰として今から不快感を与えるよ。」
「ア、ヤッパリ罰ハ与エテクルンダ……ギャァァァァァァァァァァァァ!?!?」
「痛み、苦しみ、悔しさ……不快感は次のレベルへ進むための良い原動力になるからね。」
「グェェェェ……一理アル……ナンナラ理シカ無イノカモシレナイケドォォォォ……許サンゾ!!!!殺シテヤルゾ!!アスク・スーリエルゥゥゥゥ!!!!ア、アト鬼百合家ェェェェッ!!!!」
赤と黒に点滅する液晶を横目に、少女が目の模様を回しながら微笑んだ。
「ファイトだよ。」




