第47話「ありのまま、"ありのまま"。」
「ありのマま、ありのまま、アリのママ、アリノママ、ありのまままま、ありのまま。」
辺りから響く声。
何処を向いても目に映る幾千の自身の姿。
「(マズい!!異空間を作る変霊など、教科書で見た事くらいしか……!!!!)」
響くような頭痛に跪きながら、下にも映る自身とコリウスが睨み合った。
「……早く脱出せねば!!!!」
立ち上がり、鏡に映る自身へまっすぐとピストルを向けた瞬間。
悪寒と違和感がコリウスを襲う。
「……!?」
今よりも少し若く見えるコリウスが、異空間とは違うどこかに立っている様子が鏡に映っていた。
「本当に行くのか!?」
「行くよ。俺も戦って……皆を、龍妖彩を守ってくる!!父さん、母さんと姉さんの事……俺がいない間、支えてくれよ。」
「これ……は……。」
鏡に映る景色が目まぐるしく変化し、コリウスが一軒家の前で膝から崩れ落ちていた。
「████・ティスポッサは自身が所属する部隊と共に名誉の戦死を遂げました。」
「……そうです……か……。」
「これは私の……過去……?何故……この変霊が知っている……!?」
戦争で息子を亡くしたコリウスの妻は精神を病み、賭博にのめりこんでいった。
「私がおじいちゃんになるだと!?!?」
「そうだよお父さん!……お父さんさ、███の事あんまり好きじゃなさそうだったけど……喜んでくれる……?」
息子を亡くしてからというものの、コリウスの日常は常に暗い物となっていたが、この日だけは全てが眩しいほどに明るい1日だった。
「喜ばないわけがないだろう!?おめでとう……おめでとう!!!!」
そう、この日だけは。
「お母さん……まだ帰ってこないの?」
「あぁ……口座から全額を抜いて……そのままな。」
「お義父さん、俺に手伝える事があったら何でも言ってください!」
「……かたじけないな███君……だが心配には及ばん!!私には大学やこれまでの人生で培ってきた知識と経験があるからな、金が無くとも生きていくくらいは難無く――」
娘夫婦が帰った夜、龍妖彩で大きな滅震が起きた。
それから数週間、連絡の繋がらなかった妻子や義子に抱いていた心配を杞憂に終わらせてくれるほど、運命は寛容ではなかった。
「ご遺体の確認をお願いします。」
「……妻と……娘と…………孫で……間違いありません。」
「孫?……あぁ……ご愁傷様です……。」
永遠に再会することの叶わなくなった家族達との思い出、賭博に狂った妻が彼に隠して作っていた闇金への一生かけても返せないほどの借金、汚れている上に無駄に広い家の中で時計が規則的に針を動かす音。
鏡の中で頭を抱えてうずくまる過去の自身を、コリウスが瞬きもせずに見ていた。
変霊が四方八方へ嗤い声を反射させる。
「アハハハハハハハハ……!!ありの、まま。最悪な人生、アリノママ……!!!!幸せ全部消えちゃった人生、ずっとコのまま、変ワラない!!!!ねぇ、ねェネェねぇネェ……ありのまま、ありノままになろう?不幸ナ人生、皮ごと、肉ごと脱ぎステテ……世界ノ全て、全て全てスベテ統べてニ恨み吐コ!!!!」
「最悪な……人生……。」
拳を握りしめたコリウスが、小さく呟いた。
――――――――
「ギャッ――」
「アハハハハァ!ハァ――」
「ウゥ、ウヘ……へッ――」
銃弾を撃ち込まれた衝撃でよろけるアンデッドの胸元に一瞬で飛び込み、ナイフで首と手足を切り飛ばしながらも、木槿が息を切らしている。
「量はぁ、変わらズ……質は……もっと良ク!!!!」
「辛そウだね、いい顔ダネェ!!!!」
「でも、でもでもでもでもぉ。」
数体のアンデッドを切り飛ばした直後、アンデッドと変霊の群れの中から、何者かが飛び出した。
「うっ……!?」
「殺すのはぁ、私自身でやりたいかなぁ。」
ロベリアの義足から繰り出された飛び蹴りが、ソレを受け止めたナイフにヒビを入れる。
「木槿さん――きゃぁっ!!」
吹き飛んできた木槿を受け止めた一葉が、地面に倒れながらロベリアを睨んだ。
「ロベリアさん……どうして……その目は……!?!?」
「すごいでしょぉ?力も目も……だいたい月人ちゃん達とお揃いぃっ!」
赤紫に輝く目が模様を回しながら2人を見下す。
「ふひ……追い詰められてるの、可愛いなぁ……このまま串刺しにでもしちゃいたいなぁ?」
「っ……!」
怪しげな輝きを放つ義手と義足が月鉱で出来ている事に気づいた一葉が、体を震わせる。
義手の鋭い指を擦り合わせ、アンデッドと共に並んで2人を見下しているロベリアの前で、木槿が溜め息をつきながらゆっくりと立ち上がった。
「……んー?上司とか先輩とか……人の上に立つ人の役目ってヤツぅ?勝ち目無くても、後輩を絶望させないために頑張らなきゃいけないってヤツぅ……?」
木槿の手からこぼれ落ちたナイフ付リボルバーが、地面に落ちてその刃を砕いた。
息を切らし、腕を震わせる木槿の姿にロベリアも興奮で震え上がる。
「(……これで終わりなのかなぁ……そんなワケ、ないよねぇ?)」
纏っていた白衣を空高く放り投げた木槿の姿を目に映し、ロベリアが息を荒くした。
「……ふひ!!そうだよねぇ……っ!!!!」
銀色に煌めくプロテクターのような物を胸にまとっていた木槿が、小さく呟く。
「装着開始。」
「……それって……まさか旧世界の遺物!?」
プロテクターが光を放つと同時に、木槿の頭上や周りに赤色のホログラムが舞い始める。
ホログラムが幾何学的模様と文字を空中に描く。
「P,P,P……Pale Rider!!!!What is your hope? Ready……say it!!!!」
ホログラムと共にプロテクターから発せられる音声へ、木槿が小さく呟いた。
「全ての者へ正しい休息と安寧を。」
「O,O,Okay!!!!Now!Time to become true the hope!!!!」
「いぃやいやいやいやあのさぁ……特撮じゃ!!ないんだからさぁ!?!?」
3体のアンデッドが飛び上がった瞬間、空中に浮かんでいた幾何学模様が輝いて彼らを吹き飛ばす。
「あ、やっぱり妨害は対策済みかぁ……っ!」
「……レジスタンサー4、ペイルライダー起動。」
木槿が広げた手や腕を伝って、銀色の装甲が彼を包み込んでいった。
全身を包み終わったプロテクターが細部の形を変えながら静かに色づいていく。
「さて、反撃開始だ。」
「こンにャロぅ……!」
「死んじゃえ死んジゃえェ!!」
瞬時に空を舞う変霊やアンデッドが空を紅や黒で彩った。
飛び散る四肢や頭、残骸と共に飛び降りてきた木槿へ、ロベリアが鋭い義手で斬りかかった瞬間。
腕部から現れたブレードが義手とぶつかりあって火花を散らす。
「身体能力の強化に加えてぇ?その遺物自体も武器や鎧として扱えるのかぁ……合理的で!!ズルいっ!!!!」
プロテクターの隙間を狙う義足を受け流し、ロベリアの肩や腹部に木槿が数発の突きを叩き込んだ。
強化された彼女の体には傷こそつかないものの、伝わった衝撃が耐え難い苦痛になる。
「この感覚、やはり天使種になっているな。一体誰がどうやったんだか。」
「感覚って……?何さぁ……まるで天使種と戦ったことあるみたいなさぁ……!!そっちこそ、どうやってその遺物……手に入れたのぉ……!?」
木槿が連続突きの最後に繰り出した大振りの拳によって、ロベリアの体が壁に叩きつけられる。
「努力と運。」
「……く、狂ってる……ねぇ!!」
首を鳴らしながら、木槿が四方から襲いかかる変霊やアンデッドを瞬時に切り捨てる。
――――――――
鏡だらけの空間の中、拳を握るコリウスの周りで声が反響を続けていた。
「さァ、サァ……ありのまま!アリノママ!!ありのまマ、ナロウナロウナロウナロウナロウナロウ。」
「……ハハハハッ……!!!!」
コリウスが肘を曲げると共に、口角も自然と上がり始める。
「……は っ は っ は っ は っは あ っ!!!!!!!!」
「イッ!?!?」
コリウスの豪快な笑い声が鏡の部屋にヒビをいれていく。
「最悪な人生!?!?!?!?幸せが全て消えた人生だと!?!?!?!?他人の人生の……たかが数年ぽっちを見ただけでよくもそう言えた!!!!!!!!」
ヒビの入った鏡が少しずつ修復を始めようとするが、震え続ける空気がそれよりも速くヒビを広げていく。
「今の私を見てみろ!!!!!!!!たしかに私は妻も娘も!!息子も孫も……長年生きてきてようやく手に入れた多くの物を失ったさ!!!!だが今の私には……共に生きてくれる仲間達がいる!!!!!!!!」
「……そんな物、一瞬の埋め合わせにしかならなイだろウ。」
鏡の中のコリウスが目つきを変え、鏡の破片を握りしめて飛び出した。
「マタ死ぬんだ。ある日突然、何の前兆も無ク……お前の前から全テが消エテいく。あがくナ、意味ナインダヨナイナイナイナイナイナイナイ無イッッッッ!!!!」
振り下ろされた破片を素手で握り止め、垂れる血を睨みながらコリウスが叫んだ。
「いいや、意味ならあるさ!!!!あがきながら生を望み続けてきたから……家族とも……L.E.R.Iの皆とも会えたのだからな!!!!!!!!生きたくても生き延びられなかった者達のために……まだ見ぬ誰かの家族を守るためにも!!!!!!!!」
「ウグ……ゥ!?!?」
鏡にヒビが広がっていくのに連動して、コリウスを模倣した変霊がもがき苦しんでいる。
「私は全身全霊で……叫び続ける!!!!あ が け と な ぁ っ!!!!!!!!!」
「ギャァァァァァァァァ!!!!……ワ……割れる……何も……見えナ……聞こエ……ナ……分かラ……ナ…………。」
崩壊した鏡張りの部屋から落下し、暗闇を破片と共に落ちていきながらコリウスが笑った。
「生まれ変わるか、私が死んだら会いに来るんだな!!!!お前が理解できるまで……なんでも、いくらでも説明してやる!!!!!!!!」
――――――――
「遅い遅い!そんなんじゃ誰も捕まえられないよ!!」
「荳榊ソォ……。」
アスクを抱えながらパルクールを続ける八美を変霊達が追いかける。
「【死神の花畑】!!」
アスクが地面へ投げつけた死月鉱が道や屋根へ溶けるように広がって、2人を追いかける変霊達を捕まえた。
「縺輔&縺」縺ヲ 逞帙>――」
眩しく光った死月鉱が道や建物ごと変霊達を派手に吹き飛ばす。
「ナイス!!」
駆け続けていた八美が笑顔を見せる横で、アスクが山を見つめながら眉をひそめていた。
「……?どうしたの?」
「来てる、アイツと……Aが。」
直後、山の一部を巨大な紫雷の炸裂が吹き飛ばした。
ソレに対抗するように、炸裂の周囲から何本もの巨大な蔦が生えて何かへ襲いかかっている。
「何あれ……戦いの規模やばくない……!?」
「……とにかく僕達は白蛇の巫女を倒そう!魔紳士にもロベリアにも……あ、えーっと……傀儡師にも邪魔されないうちに!!」
「……うん!!急ご!!!!」
――――――――
「【底知らぬ・禁断の刺激】!!!!」
「【謳華流……千本桜】!!!!」
視界を埋め尽くすほどの紫雷をホープが凄まじく速い剣さばきで弾ききる。
「チィッ……うぜぇんだよ……!!【狼王の爪】!!!!」
歯を食いしばったアンディが右手に出現させた死月鉱の爪で彼女へ斬りかかる瞬間、ホープが不敵な笑みを浮かべた。
「そりゃそうでしょ!コッチは色々背負ってんだからさ!!全部から逃げた君こそ、足取りも思想も軽くて薄くてさ……私には醜く見えてたまらないんだけど!?!?」
「逃げた……だと?」
薄緑に輝く剣と紫に煌めく爪をぶつけあいながら、両者が睨み合っていた。
「ミカからも、月の皆からも……私からもクロマからも、私の弟子の一武からも逃げてきた。そうでしょ?だから君は今のところ何1つ成し遂げられてないのさ!!そろそろ支配者にも愛想を尽かされちゃうんじゃないのかな!?」
「……黙れクソ女ァ!!!!」




