第46話「百鬼夜行」
歪な空に怯えながら顔を出す太陽。
宮から広がる黒く歪んだ悲壮。
響く悲鳴や笑い声。
睨むように見下してくる悪意の数々。
白い道の前に立った者達を、今日この街は狂った形で歓迎していた。
「……本当に良いのか?今の内に引き返してェ奴は引き返してもいいんだぞ。」
「俺達の白蛇街なんだ……俺達にも守らせてください!」
「私らだって妖人なんだ!変霊を前に……ビクビク隠れてなんていられないね!!」
「余計な奴らは儂らが食い止めます故……円卓主の皆様は刀で巫女様を……!」
イバラキ達の前に並ぶ人々が目つきを鋭くしながら構えている。
「……援護感謝するぜ!!行くぞォ!!!!」
「「「「応!!!!」」」」
「百鬼夜行には……百鬼夜行だ!!!!」
全員が白い道を強く踏みしめ、勢いよく走り出した。
彼らが進み始めてからすぐに、近づく気配に気づいた菓子屋の店主が氷の包丁を作り出す。
「ギェォギェォギェォギぇォギェォギェォギェォギェォ!!」
「右から来たぞ!!円卓主達を守れぇ!!!!」
溶けたカエルのような変霊が飛び上がった直後、人々が放つ氷塊や火球が凄まじい勢いでソレを撃ち落とした。
「良い連携だな!!!!」
「アタイ達ゃ何年もこの街で一緒に生きてきたんだ!!このくらい出来るさ!!!!」
「……えっ、単眼のお姉さん!?肩の怪我まだ治ってないよね……?来てよかったの!?!?」
横道から現れた牛の形の変霊が口だけの顔を大きく裂き開いた瞬間。
単眼の女性が目を大きく開いた。
「モァ……ァ……!?!?」
変霊が硬直し、直後に人々が拳や氷で牛の変霊を砕く。
「中々良い力持ってるだろ?」
「わ……すごい!!」
「若い頃は蛇に睨まれたカエルみたいに動けなくしてくるから、白蛇の巫女の生まれ変わりって言われてたんだぜ、この人は!」
人々の士気が高まり始めていた。
「止まれ!!!!」
青い着物を着た子供が人々の前に音も無く現れ、笑っている。
「座敷童モドキ……!!!!」
「アイツ何!?見た目だけなら完璧に人の子供じゃん!!」
「白蛇宮に封印されていた変霊の1体だ!家に現れては人々を不幸にして、弱った所を食い殺してくる!!」
人々の言葉を聞いた一葉が銃を構え狙いを定める。
「なるほど、つまり正面勝負ならあまり強くはないの――」
「……キャァァァァァァァァッハハハハ!!!!」
座敷童モドキの頭がバッカルコーンのように割れ、膨らんだ頭の中から現れた巨大な牙が一葉へ飛びかかる。
「えっ……!?」
「下がれェ!!!!」
膨らみ割れた座敷童モドキの頭部へ重い一撃が叩き込まれた。
金棒を振り回したイバラキがソレを肩にかつぎながら溜め息をつく。
「そ……そうしないと人を襲えないわけじゃなかったんですね。」
「封印されるような変霊のほとんどは大量殺人犯や詐欺師なんかのロクデナシ共の成れの果てだぜ。コイツらの行動に合理性を求めてちャ、生き残れねェ。」
「空だ!空からも来るぞ!!」
空を舞う人面魚が笑いながら人々を見下ろした。
「雨、飴、目玉アメ、フラ腐羅、降らせま死ょ。」
「チッ……ほとんど雑魚だが……大量に変霊が集まッてきてやがる。」
建物の屋根に現れた変霊達が、互いに融合しながら叫んでいる。
「縺溘↑縺九&繧薙→縺倥fue繧薙′縺翫←繧沓A縺ソ繧薙↑縺ー繧会スBRA縺ーra」
「縺上=?励○??ス抵ス?ス費ス?ス吶?縺倥%?鯉ス」
「繝偵∪ KA 繧ャ縺。」
「私に任せて……!八美、イバラキと一緒に私が拘束した奴らを叩いて!!」
「わかった!!!!」
数多の変霊と交戦する人々や鬼百合家と背中を合わせながら、L.E.R.Iの面々が座敷童モドキへ銃口を向けた。
「俺達はこちらを叩くとしよう。」
ゆっくりと立ち上がるソレが割れた頭を戻しながら表情を歪ませる。
「チッ……チッ……チッッッッ!!!!」
「随分とお怒りだな。」
「……あれ!?待ってください!コリウスさんは何処に!?!?」
鏡に囲まれた空間で、コリウスが目を見開いた。
「……い!!異空間か!?!?」
どこからともなく響く声が鏡に反射されるようにしてコリウスへ届き続ける。
「ありのまま……アリノママ……殻も……肌も……肉も……いらない……ありのままの姿……。」
「くっ……!?ありのまますぎるぞ!!!!」
「【捕】【捕】【捕】【捕】【捕】【捕】【捕】【捕】【捕】……!」
七尋が低く呟き続けると同時に次々と締め上げられる変霊を、人々や八美達が叩き潰していく。
「【唐傘】!!」
逆さまになった八美の振り回した足が変霊の溶けた体を吹き飛ばした。
「ポロポロポロポロぼろぼろぼろぼろおろろろろ……。」
人面魚の変霊が大量の目玉を吐きながら笑っている下で、菓子屋の店主が氷の傘を作り上げている。
接地した瞬間に弾け飛ぶ目玉を氷の傘に防いでもらいながら、単眼の女が人面魚を睨んだ。
「落ちて砕けな!!!!」
「ボロボ……ろ……ボ……?」
硬直し、落下を始めた魚の目の前でイバラキが金棒を振り上げる。
「おらァ!!!!」
「変霊の気配が確かに減ってきている……!いけるぞ!!」
「白蛇街ナメてんじゃねぇ!!!!」
「底力見せるぞ!!!!」
四方八方で砕け散っていく変霊の気配を確認しながら、座敷童モドキの牙をアスクが弾く。
「コリウスの事は心配だけど、今は進もう……コイツをぶっ倒してから!!!!」
「……そうしましょう!!」
6つに割れた巨大な頭の中へ一葉が数発の弾丸を撃ち込む。
「子供サイズの変霊ならコアもきっと小さいはず……!1発でもコアへ命中すればきっと致命傷になります!!」
「下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる……か?」
「僕に任せて!コアっていうヤツごと全部吹き飛ばせば良いんでしょ――」
死月鉱を掴み取ったアスクの前に木槿が手を出して止める。
「?」
「温存しておけ。巫女はお前と死月鉱にしか倒せないかもしれない。」
「賛成です!木槿さん、銃弾の補給なら私に任せて……やっちゃってください!!」
死月鉱と木槿から強い殺意を感じ取った座敷童モドキが振り返って逃走を始める中、木槿はリボルバーを構えて呼吸を整えた。
「……なぁ、お前は死んで変霊になってからも……人様に迷惑かけまくったから封印されたんだよな?そんな奴には俺から……特製の【鎮魂歌】をプレゼントだ……消えろ。」
彼の手の上でリボルバーが回転しながら煌めき、踊り始めた。
「「「「!?!?」」」」
「ギャ……ァ……!!!!」
街に響く轟音が座敷童モドキを消し飛ばしていく。
「アレが死神隊長……明星 木槿の力かァ……?へへへへ……えげつねェな!」
地面に散らばる大量の薬莢が瞬く間に道を隠していく。
「え、えぇ……。」
「あの時戦っていなくて本当に良かったわ……おかげで世界一頼もしいガンマンSPができた。」
助けを求めるように、コアを逃がすように体を伸ばしていく座敷童モドキの体すら、木槿は無慈悲に消し飛ばしていく。
「キャァ……ギャ…………ぎ…………!!!!」
幾百の銃弾が2、3秒のうちに撃ち込まれてくる感覚を味わいながら、とうとう座敷童モドキの小さな指は1発の銃弾に消し飛ばされた。
熱を帯びた空気を吸い込み、銃を回転させながら木槿が空薬莢を蹴り飛ばす。
焦げた臭いと共に崩れる座敷童モドキの体が空に舞い上がっていった。
「進むぞ――」
道の横にある飲食店の奥から、瞬時に飛んできた包丁をリボルバーで弾き飛ばし、ソレを回転させてナイフを構えた木槿の目の前へ鋭利な棘が迫った。
「チッ……!」
体を仰け反らせ、鼻の先を通り過ぎた棘つきの尾を両手に構えたナイフで挟むことで、木槿が尾の持ち主を店の奥から引きずり出す。
「魂が無い……この感覚!!!!」
現れた異形のアンデッドが、気味の悪い笑みを浮かべて眼球を回した。
「やァヤぁ……みみみ皆おは、お、オ……はよウぅ。」
「ロベリア……あの鬼面とは知り合いか?」
「「「「ううウぅん……かぉ見知りィ……だよぉ。」」」」
横道や屋根の上から、そして背後や正面からも現れたアンデッド達が変霊と共に迫ってくる。
「なんだコイツら、変霊じゃない……ひ、人!?人の死体なのか!?!?」
「魂だけじゃなくて体まで襲ってくるなんて……うぇっ、酷え臭い……っ!!!!」
「おいおい、まさかコイツァ……傀儡師か!!」
「戦争で暴れまわった有名人と2人も会えるなんて"最高の旅行"じゃん……直接出てきなさいよ変態盗撮マン!!!!」
「ウーマンなんだヨねぇ!!!!」
両手を草刈り鎌にされているアンデッドが屋根の上から八美へ切りかかった。
間一髪で刃を躱し、八美の繰り出した蹴りがアンデッドの顔をへこませる。
「ふへへへへ……へ。素早いこの子のコ攻撃かわして、反撃モしてくる゛なンて……円卓主の名は伊達じゃなイなぁ。」
歯をこぼしながら笑うアンデッドが鎌をこすりあわせた。
「今の蹴りでKOできない……!?」
「アイツの操るアンデッドはダルマにしないと無力化できない!!!!四肢も頭も、完全に胴体から切り離すまで油断するな!!」
屋根を跳び越え、空を舞うアンデッド達が笑っている。
「……ねぇ木槿、コイツらなんか道路で戦った時と様子違くない?」
「前よりも格段にアンデッドの操作が上手くなっている。アイツに何があったかは不明だが……前と同じように戦っていい相手じゃないのは確かだ。」
「カマキリみてェな奴に、指を鼻につけて天狗みてェになってる奴……首が竜人の長い尾に変えられている奴……随分と悪趣味じャねェか!!!」
アンデッドや変霊の背後で、黒い巨大な塊が呻いていた。
建物を押し潰し、道を歪ませながら広がる変霊の気配が空気を捻じ曲げている。
「アスク、先に行け!!これ以上アイツがでかくなる前に倒しちまえ!!!!」
「えっ!?でも皆は――」
「巫女の変霊さえ倒せば、ロベリアさんや魔紳士Aが企てた百鬼夜行の計画は崩れます!私達にかまわず進んでください!!」
巫女の変霊が飲み込みつつある白蛇宮へ続く道を見つめた後、アスクが歯を食い縛って駆けだした。
「行かセなぁぁぁぁいよっ――」
アンデッドの1体が骨の突き出た腕でアスクを刺そうと突進する。
「【傘差蹴り】……【舞唐傘】っ!!」
「ギェぁっ!!!!」
八美が身体をひねりながら振り上げた脚がアンデッドの腹を打ち上げ、そこから流れるようにして繰り出された回し蹴りはアンデッドを建物の壁に埋め込んだ。
「私も一緒に行く!!」
「え、なんでよ!八美は皆の援護を――」
後方を指差すアスクと並走しながら八美が笑顔で彼を持ち上げる。
「そんな事言っていてもさ……顔に書いてあるよ、ついてきてほしいってさ。」
「え……?」
彼を抱え上げた八美が呼吸を整えた瞬間、すさまじい速度で道を駆け抜け始めた。
行く手を阻む変霊やアンデッドを躱し屋根や壁を蹴って飛ぶ彼女の動きは、少なくとも今のアスクが駆け回るよりもよっぽど速く2人を巫女の変霊へ近づけていく。
「腕相撲とかの力比べじゃ私達は互角だったけど……走るのなら私の方が格段に速いね。スタイルが違うもん。」
「……確かに、速さは力じゃなくて体格と動きで決まるもんね?」
いが栗のような形の変霊が2人へ飛ばした針を、アスクが瞬時に形成した鎌で弾き飛ばした。
「良い連携できてるかも!?」
互いに顔を見合わせた2人が笑い、共に前方を見る。
「できてる、できてる!……パパやママのため、一葉さん達や……白蛇街の皆のためにも、私達で倒すよ!!白蛇の巫女!!!!」
「うん!!!!」
腰につけている刀を握りしめながら、アスクは死月鉱を強く煌めかせていた。
閑話? [ 察知 ]
「また留守番……早くアスクに会いたいよ……。」
暗い空間の中、シ長の前でリプラが天を仰いでいた。
「仕方ないだろう?2人とも同じ場所に出現させるのはまだ危険なんだ……どんな方法で奴らが襲ってくるか分からない――」
「あぁぁぁぁっ!?!?」
飛び跳ねたリプラが今度は暗い地面を見つめ始めた。
「……どうしたの?」
「…………。」
「……?リプラ、大丈夫――」
「決めた!!私、誰よりも……ミカさんよりも背が高い天使になる!!!!皆を見下ろしてやる!!!!!!!!」
凄まじい目つきで見えない何かを見つめるリプラに、シ長はただ困惑する事しかできなかった。
「えぇ……?あ……そう……が、頑張って……まぁ……とりあえず牛乳でも……飲む?」
「チキンも食べたい!!骨ごといくから!!!!」
「そ、そう……。」




