第45話「真実」
「暴れろ、好きなだけ飲み込め――」
「――テメェ……いい加減にしやがれ!!!!」
アスクが2Eと交戦を開始した頃、木槿やイバラキ達は民衆と共にアンディを取り囲んでいた。
「……ナメてんのはお前らだろ。最強の種族の力!思い知ってくたばっていけ!!【惨々裂烈――」
両手を握りしめ、背を丸めたアンディが両手を光らせた瞬間。
社の下から現れた無数の黒い触手が彼へ強く絡みついた。
妖人達は自身の目に映る有り得ないほどに歪んだ魂や意思に後ずさっていく。
「アァァァァァァァァァァァァ……!!!!」
触手がアンディを持ち上げ、彼の全身を強く縛っていく。
「キヒ……生前の記憶なんてもう欠片も残っちゃいないよな!!だがまぁ……いい!!このまま……白蛇街を……変霊の巣窟に変えてやれ!!!!」
「……パパ!アレ……!!」
締めつけられながら笑うアンディの体が紫の粒子に分解され、風に乗りどこかへ流れていく。
「アイツの魂……何処かへ飛んでいッてやがる!?」
「死んだワケじゃないんだろう……逃げられる。」
民衆の中から1つの火球が投げられた。
「逃がすかよ!!!!」
火球が命中したアンディの頭が無数の粒子にばらけ、明確な意思を持って風を掴んでいった。
「身の程を知れ!!俺達はお前らよりも遥かに尊い存在なんだ……!!!!苦しめ、逃げ惑え、叫べ!!!!お前らが馬鹿みたいに崇めていた巫女はな、ここまで醜い化け物に成り下がってたんだ!!!!」
「ふざけるな!!お前……がっ……お前が巫女を陥れたのだろう!!!!『百鬼夜行』を……始めるために……ゲボッ……ゲホッゲホッ……!!!!」
周囲へ低く響いた声に血反吐を吐きながら坊主が叫ぶ。
苦悶の表情を浮かべる坊主の横で、木槿は燃え盛る白蛇の残骸から何かを取り出そうとしていた。
「『刀』……。」
「お坊さん!!『百鬼夜行』とは一体……!?!?」
「変霊を1箇所に集め……そこから世界を飲み込むほどの巨大で凶悪な1塊の変霊を……っ。」
社から広がる黒い何かは掴んでいたアンディが消えた事に、彼が消えて少ししてから気づいたようだった。
「何処ニ……どこドコ何処どこ何処ドコナノなのナノなの?」
「世界を飲み込むほどの変霊だッて!?……おい、なんかコイツ膨らんできてねェか!!!!」
何かを求めるように天へ伸ばした触手が溶けていき、黒いヘドロのようになった体が白蛇宮を飲み込んでいく。
それらから逃げていく内に、一行はアスクと合流しつつ『一武の家』へ辿り着くのであった。
――――――――
歪で不愉快な気配と共に黒い変霊が街を飲み込んでいく中、白蛇街の隅に建てられていた小綺麗な家の中で人々は畳の上に座り込んでいた。
「ダメだ、携帯が圏外になってやがる……!」
「あの鬼面野郎、雷みてぇなの纏ってたから……まさかアイツが電線でも切ったんじゃ?」
「山の中にも変霊の気配がウジャウジャいやがる……孤立だ!囲まれてるぞ!!」
歪な色の空を、横たわる坊主と共に見上げながらイバラキが爪を鳴らしている。
「……なるほど……つまり、俺達が知ッていた物語は丸ッきり偽物だッたわけか?」
「その……通りです。故郷の村を様子のおかしい変霊に滅ぼされた一武様は……変霊を追いかけた先に白蛇街と……あの男を見つけ……やがては男の目的に気づきました。奴は……選んだ巫女との間に子を作り……巫女を子供ごと、変霊の巨大な核とすることで……異質で、強力な変霊を作った……。」
「……酷い、人とその子供に……自分の妻と子供に、そんな事……。」
部屋の隅に一葉と共に座りこみながら、八美が眉をしかめた。
「350年前にソレをやった人間が生きている……つまり彼は……不老……悠久の時を生きる者にとって、せいぜい130年しか生きられぬ我々はなにか下等なモノにでも見えるのでしょう……限られた時しか生きられぬ者の人生を弄ぶ……それが奴の……『魔紳士A』の……生き方……。」
「魔紳士A……!?有名な都市伝説ッていうか、陰謀論の中でしか存在しねェ奴じャねェのか?」
「魔紳士A……紫目に銀髪の、姿形を変えながら多くの人々の人生を狂わせてきた存在……彼は月人だから、永い間生きてきて……多くの人間を利用してこれた?白蛇の巫女が変霊になったのも……滅王の生誕も、全部あの男1人が……。」
小さく呟き続ける一葉の前で、坊主が血を吐き畳と布団を赤く染めた。
「はぁ……はぁっ……!一武様は……この街に集められた変霊を倒し続け、時に封印していましたが……とうとう、巫女が成った変霊との戦いで致命傷を負ってしまわれた。常に……腰に差していた刀を……私の先祖に託して……彼は素手で巫女の変霊を自身ごと社の中へ押し込みました……『藤結』で白蛇宮を囲めと……言い残して……ゲボ……ッ!!」
「お坊さん……!!」
「藤結!?木槿が持ってきた刀の事か!?!?」
コリウスがそう発言した直後に、木槿が持ち続けていた刀へ全員の視線が集まる。
畳に染み込む血を布巾でぬぐいながら、アスクも刀を凝視していた。
「何故か分かりませんが……変霊は、その刀の先端が描いた軌跡を酷く恐れます……能刀 藤結は……鞘から抜かれ、再び鞘に戻された時……または持ち主の手から刀が離れた時に……露出していた刃の先端が通った場所から斬撃を発生させる力をもっている……その刃で描いた線を恐れさせることで……白蛇宮の封印は安定し続けていました……軌跡の端と端を結ぶと、藤結の描いた線は結界として人ならざる者にのみ斬撃を加えるようになるので……。」
呼吸を乱す坊主の横から、アスクが飛び出して刀を掴む。
「「「「!?」」」」
「……間違いない、コレの表面に貼りつけられてるの……アイツの死月鉱だ!」
「アイツの死月鉱……?アスクさん、どういう事ですか?」
刀身が少しだけ緑色に輝いた瞬間を見逃さなかったアスクが、木槿から半ば強引に刀を奪って刀身を凝視した。
「き、気をつけてください……!鞘が先端まで抜ければ、力が発動してしまう……!!」
「僕が出会った堕天使はね……緑色の死月鉱を持ってたんだ……分かる、コレ……絶対アイツの!!!!」
「だ、堕天使……?」
困惑する坊主に刀身を見せつけながら、アスクが興奮気味になっている。
「一武って人、もしかして暗い緑色の目と髪だったりしなかった!?!?」
「いえ……ですが、藤結は……彼の復讐に力を貸した『不思議な雰囲気の強い女』に渡された物だと……彼の手記に残されています……その女が……あなたの言う……堕天使……とやらである……可能性は……!ゲホッ……ゲホッ!!!!」
重くなり続ける瞼を必死に開き続けながら、坊主が刀をアスクの手ごと強く掴んだ。
「とにかく……ソレが、誰から一武様に渡された……!物であるにしろ……!!この刀こそ、あなた方が助かるための唯一にして最大の道!!!!もはや……あの大きさ、数の変霊の封印は不可能!!偶然でも必然でも……ココに集った貴方達へ頼みたい!!!!ど、どうか……その刀と共に……白蛇街に降りかかる災厄を……打ち払っ……て……あぁ…………。」
糸が切れたように力の抜けた腕が刀に引っかかり、重みの増した刀をアスクが見つめる。
「……!」
そっと坊主の腕を布団の中にしまいながら、事切れた彼の瞼を下ろし、アスクが刀を持ち上げる。
立ち上がって周囲を見渡すと、皆が彼へ目を向けていた。
「円卓主は民衆を守るのが役目なんだからよォ……言われずともやってやらァ。」
「私も!……次期円卓主として、この状況でじっとしていられるワケない!!」
「娘と夫が戦うというのに、妻の私だけじっとしているつもりはありません……援護は任せて。」
立ち上がって拳を握る鬼百合家を見つめながら、一葉が力強く立ち上がった。
「アレが本当に魔紳士Aなら……私の親の仇でもあります!引き続きSPとして同行させてください!!」
「どんな理由があれど!!今は連中をどうにかしなければ生き残れないからな!!!!お供させてくれ!!!!……木槿!!お前はどうする!?!?」
全員に見下ろされながら、部屋の襖に寄りかかっていた木槿が白衣の中に手を入れる。
「無論だ。」
木槿がナイフ付のリボルバーを取り出しながらゆっくりと立ち上がる。
互いが互いの顔を見合わせている間に、アスクが刀を掲げた。
「僕達で街を……皆を守ろう!!!!」
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「俺は物を取ってからソコへ戻る……それまでなるべく変霊を守っておいてくれ。1番でかい、黒いのは最優先で。」
不気味な気配に包まれている中で、屋根に置かれた携帯から気さくな声が聞こえてくる。
「はいはーいっ……お?」
携帯の隣に座りながら、女が義手をきしませた。
突如として彼女の目の前に現れた青い着物を来た子供が、女を見つめながら笑っている。
「……私、襲われないんだよねぇ?」
「お前に手を出せないようにはしてある、自分から触れたりしなきゃ無害だろう。」
子供の姿をした変霊が屋根から飛び降り何処かへ駆けていく。
「……子供の姿しててもさぁ『この目だと分かっちゃう』からそそられないなぁ。」
「まるで分からないまま殺されたなら、未練なんて残らないみたいな言い草じゃないか。」
携帯を手に取り、ロベリアが笑う。
「んー……いや、やっぱ未練残るよぉ。だってさぁ……せっかくこれからアスク君に嫌がらせできそうなのにぃ……どうやって泣かせてあげちゃおっかなぁ。ふふふふ、ひひひひ……あははははははははっ……!!!!」
笑いに呼応したか、人々が動き始めたのを察知したのか。
歪な空の下、白蛇街はそこかしこから響く狂ったような声に包まれた。
「かけっこカケッコKAKEKKO化結構。」
「遊ぼアソボ、捻って遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼ遊ぼ。」
「……ボォォォォォォォォ……。」
「フォホホホホホホホホ……。」
「ありのまま見せて、蟻のママ?アリノ、ありまま。」
「空を飛びます、飛んで飛んでトンで落血マス。」
「僕、私、俺、拙者、我、僕、僕僕僕僕……私?私私私私私私……。」
「アァァァァ……ドコニ……何処に……行ったノ……子供……ア……ァ……貴方ノ……アァ……ァァ……私達ノ……ノ……ノ……ノ……。」




