第44話「Ever Evolving」
「なんだなんだ……?空の色どうなってんだよ!?」
単眼の女は店から顔を出して、歪な空を見上げていた。
「まさか……白蛇舞いで何か起こったんじゃ……!」
「そんな!円卓主も参加していたのに!?」
向かいにある菓子屋の店主など続々と店から顔を出す人々と共に、単眼の女が白蛇宮の方へ目をやると、奥に見える社から紫の光が打ち上がった。
「……落ちてくるぞ!?皆隠れろ!!!!」
菓子屋の店主がそう叫んで店の奥へ隠れた直後、空中で2つに分かれた紫色の光が白い石の道を割りながら落下する。
「……あれ?アンタは!!」
アスクがまっすぐと睨む先で、落下してきたもう1つの物体が妖しく光り出す。
「空間成形システム……起動……バルカンロック……メイン、サブ1サブ2カメラ……オールグリーン。」
銀色の頭部装甲へ紫色のホログラムが覆いかぶさり、両方の腕先から3本ずつの半透明な紫色の刃が生えてくる。
「な、なんだかアイツ……あの子供に……似て……る?」
「……ンー?……似テル?今、似テルって言ッタカ?」
目を模した黒い液晶に四芒星型の光が宿り、単眼の女を睨む。
「似テルッテコトハ……オレガパチモンダッテ?偽物ダッテ言ッテンダヨナ!!!!」
月人型のロボットが金切り声のような電子音を響かせ、ソレの放った片腕が女性の肩を即座に貫いた。
「ぐぅ……っ!?」
刺さった刃から伝わる痺れたような感覚が傷を抉り、あえぐ女へロボットが針のような足で歩み寄っていく。
「ナーンダ……?テメェ目ガヒトツシカネェデヤンノ。人ッテノハヨォ……目フタツ鼻ヒトツ口ヒトツ耳フタツ腕フタツ足フタツ無キャ、駄目ダロォ!?!?」
ロボットが射出した腕を呼び戻し、もう片方の腕を女性へ向けながら嗤った。
「冥途ノ土産ニ覚エトケ人間ノ出来損ナイ……オレノ名前ハ『エバエヴォルビング』。足リネェ頭デモ覚エラレルヨウニ、略シテ『2E』ッテナ!!!!」
紫に発光しながら震える刃が、射出された腕ごと女性へ襲いかかる。
「ひっ……!」
「【天使の輪】。」
「……オォ?……エ?」
吹き飛ばされた腕と、自身を睨むアスクを2Eは交互に何度も確認していた。
「アレ?オマエ……スリエルジャ……マミィガソウ言ッテタノニ……変ダナ?」
「【マーナガルム】!」
両手に死月鉱の欠片を握って走ってくるアスクに対して、2Eが腕を呼び戻しながら顎の装甲を開いた。
「【滅光ノ導ク道】!!」
投げられた死月鉱と、2Eが口部から放った青い光線がぶつかり合って弾ける。
「(おいアスク!コイツの青い光……!!)」
「(僕もインヘリットの記憶を見れるんだから分かるよ!!……さっきの鬼面の月人といい、コイツらあの月獣の暴走に来てたの!?)」
互いの攻撃が弾かれた事を理解した両者が同時に刃を構え、月人特有の(または月人と同等レベルに調整された)力でぶつかり合った。
「ヒヒヒヒッ!」
鎌とぶつかり合う刃を一瞬だけ引っ込めた直後、勢いに任せて振り回される鎌を避けた2Eが刃を突き出す。
「【アウレオ・ライナー】ッ!!」
「ウォォ……!?クソ!ザドキエルトノ戦闘データハ組ミ込マレテ無ェノニヨ!!」
自身が強く後ろに引っ張られ始め、刃が届かなかった事に2Eが思考回路を苛立たせる。
「マ……今ココデ、データ取ッテ!!ツイデニ、テメェモ殺シチマエバイイ!!!!」
針のような足の周りで十芒星が煌めき、浮かび上がった2Eがアウレオ・ライナーの軌道から抜け出した。
「テメェニハ出来ナイ芸当ダロ?反重力システムサ!!」
2Eの刃を引っ込めた腕部の穴から今度は紫色の塊が放たれた。
「(紫雷で弾状に固めた……粉状の死月鉱?)」
冷静にソレらを交わしつつ、アスクが両手で包んだ死月鉱を光らせた。
「【撃ち抜け死月銃】。」
「銃ダト!?死月鉱デ作ッテモ撃テルノカ……?」
警戒して空中を飛び回る2Eへ舌打ちしたアスクが片腕で銃を、もう片方の腕で天使の輪を構える。
「……ユラユラと動いてんじゃねぇぞ!!ココにゃL.E.R.Iの皆もいねぇから……存分に使わせてもらうぜ!コイツをよ!!!!」
「(……ン!?ナンダコノ感覚ハ……突然ハッキリト伝ワッテキヤガッタ……俺ハ今、何VS1ヲヤッテンダ!?!?)」
自身の周囲に現れた複数の殺気と、目の前で増幅し続ける大きな死の気配に2Eが怯んだ。
「【クロスド・アウレオ・ライナー】ァ!!!!」
「ギャアッ!?」
高速で2Eの周囲を飛び回る4つの天使の輪が、ソレの動きを締め付けるように止めた。
「ド派手に吹き飛べ……ガラクタ野郎!!」
瞬時に発射された死月鉱が2Eの胴体にあったサブカメラへ刺さり、激しく輝く。
「コ、コノ野郎――!!!!」
撃ち込まれた死月鉱にあらかじめ命令されていた『遅れて弾ける』変形が始まり、2Eの胴体は強烈な光に打ち砕かれた。
鈍い音をたてながら道へ落ちる2Eの頭や腕、足を見下しながらアスクは店の中へ走る。
「ごめん単眼のお姉さん!やばい奴らがやってきて……白蛇宮の封印が解けちゃったみたいなんだ!!」
「そうなのか……とりあえず、助けてくれてありがとう……店主さん!!皆に避難するよう伝えてくれ!!!!」
「あ、あぁ!!おい、みんな見たし聞いたよな今の!!!!」
隠れていた菓子屋の店主が走り回って周囲の戸を叩き始めた。
アスクが自身の足りない身長を死月鉱で補いつつ女性を持ち上げていると、白蛇宮の方から見覚えのある魂がいくつも接近してきているのが見えた。
「……ん?皆!?」
「アスク!!無事だったか!!!!」
周囲の家へ避難を呼びかけながら、鬼百合家とL.E.R.Iの皆が人々を引き連れてきている。
「そっちこそ!……あの鬼面は!?」
「後で説明させて!!……ほら、アレ見て!!!!」
胸に酷い火傷を負った坊主を担ぎながら八美が睨む先には、黒い何かへ飲みこまれつつある白蛇宮があった。
「何アレ……。」
全員が初めて見る規模の、変霊がまとう歪な気配へ顔を歪ませる。
「理由はまだ分からねェが……社から出てきた変霊が大きくなり続けていやがる。」
「……怨念だ。」
坊主が呻きながら小さく呟く。
「ここから南西へ進んだ先……かつて『一武様が白蛇街へ来た際に潜伏していた家』がある。そこにはまだ……個別の結界が張られているから……全員ひとまずは……安全に……。」
「……よし!お坊さん、道を間違えそうになったら教えて……!!皆ついてきて!!!!」
人々を先導しながら走り始める八美達に反して、アスクは屋根に飛んで道を睨んだ。
「アスクさん!?」
「……消えてる!!」
アスクが歯を焦燥に駆られながら道を見回した。
確かに撃破した2Eの手足や頭が、壊れた胴体を放置して消えている。
「(どこ行きやがった!?逃げたのか!?!?)」
「(……いや、いる!)」
屋根の上を走り、人々を追跡しながらアスクは周囲を警戒していた。
「……そういえば、アスク君を吹き飛ばしたアイツ……何だったんだろう?」
「後で聞いてみましょう?……ねぇお坊さん、今『一武様』って言ってたわよね……?一体どういう――」
「みんな伏せて!!!!」
頭上を飛ぶ何かを見つけたアスクが叫び、死月鉱を飛ばした。
空を飛び交う腕と足が刃と足先で人々に襲いかかる。
腕の1つに刺さった死月鉱が弾けたが、その他の手足が逃げゆく人々を突き刺した。
「ぎゃぁぁぁぁっ!!」
「く、首が空を飛んでいる……変霊!?!?」
「ヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!!!アンナノデ殺セルホドオレハ甘クネェノヨ!!」
「この野郎……!!」
2Eの頭部を覆っていたホログラムはいつの間にか消えており、頭部装甲の横にある1対の穴から銅色の弾丸が雨のように放たれ始めた。
それらが人々に命中する直前、死月鉱で作られたベールが道を覆う。
「器用ナ奴ガ……邪魔ナンダヨ!!!!」
しなやかに空を舞いながら弾丸を弾いた死月鉱の上をアスクが駆ける。
「邪魔なのはお前だ!!しぶといんだよ!!!!」
一斉に飛びかかってくる腕や足を躱しながら、アスクが息を切らす。
「(アウレオラ……やっぱり使うと疲れるな……!)」
「……ごめんパパ!皆とお坊さん……お願い!!」
背負い続けていた坊主をイバラキに託し、八美が空高く飛び上がった。
単眼の女性を背負う菓子屋の店主の隣で、イバラキが八美の背中を見つめながら静かに笑む。
「私の友達を……皆を傷つけるな!!!!」
屋根に着地した八美が瞬時に姿を消して走り出す。
「ン?余計ナ奴ガ増エ……ンー?……イヤ、アレハ違ウ!!」
アスクを襲わせるために放っていた手足を八美へ向かわせた2Eが顎の装甲を開いた。
「簡単ニ倒セソウナ方ノボーナス敵ダ!!」
「八美!危ない!!」
2Eが刃つきの腕と鋭い両足を飛ばしながら、青い光で彼女を貫こうとした瞬間。
カメラの前から八美の姿が消え、2Eの頭が一瞬で屋根に蹴り落とされた。
「【滅光ノ……ア……!?痛ダ……エ!?!?」
屋根に埋もれながら火花を散らす2Eの頭の上で八美が笑みを浮かべる。
「問題……円卓主には24時間SPをつけてない人達が多いの、なんでだと思う?」
「……ソモソモ、オ前ラガ……強イカラ……イラナイッテコトカヨ!?全然簡単ニ倒セル奴ジャ……ナカッタ!?!?」
飛び回る手足の動きが鈍った隙にアスクが死月鉱を投げて次々と撃ち落としていく。
「正解!!……皆を傷つけたアナタは、絶対に許さない!!!!」
最後に残った手の前へ飛び上がったアスクが大鎌を光らせるのとほぼ同時に、八美がその長い足を大きく振り上げた。
「【一ニ三四五六七……八股踏み】ィ!!!!」
「【孤独見下ろす満月】!!!!」
「アガァ……!!ユ、許サネェ……!!覚エテ……ロヨ!!!!オレハ何度デモ、戻ッテキテ進化シテ……オ前ラ必ズバラバラ……ニ…………――」
同時に振り降ろされた靴底と鎌が線と円の衝撃波を生み出す。
砕け散った破片が屋根の瓦や石の道へ落ちて心地の良い音を奏でた。
「今度こそ……倒せた?」
「多分ね!」
道へ降り立った八美とアスクが顔を見合わせてから白蛇宮と街を囲む山々を睨んだ。
「これから……白蛇街はどうなるのかな……?」
「……どうなるんだろうね。」
白蛇宮を完全に飲みこみ終わり、街へ伸びていく黒い塊と、山の中で呻く気配達が虚ろな目で、逃げ惑う人々を見つめていた。
――――――――
「すみません、結局……こうなってしまった。」
ブライツ本部の最上階で黄緑髪の男が土下座しながら震える。
長髪の堕天使『ホープ』は彼の前に立ちながら蔦をうねらせていた。
「顔を上げてくれ、今回の件で悪いのは少なくとも君じゃないだろ?」
「……白蛇街へL.E.R.Iを避難させようと提案した上、白蛇街の歴史に『奴ら』が関わっている事を知っていながら巧みに隠し続けていた者がいます。」
黄緑髪の男が顔を歪ませ、少し頭を上げてから大粒の涙を零す。
「分かっている、あの厚化粧女だろ?ガイアとリプラがもう殺したさ。」
「そう……ですか……上層にまで奴らの手が伸びていると気づけなかった。情けない事この上ない……!」
泣き続ける男の頭を優しく叩いてからホープは部屋の巨大な窓から景色を見下ろした。
「気づけなくて当然さ、君達や私達が対立しているのは『創造神』そのものなのだから。白蛇街の件、まだブライツには伝えていないんだろ?」
「はい、ですが……オーダーはA.S.Oの情報からL.E.R.Iへ、L.E.R.Iから白蛇街へ必ず辿り着くかと……早ければ今日中に。」
涙を拭って立ち上がった黄緑髪の男は夜景を見つめるホープの背中に見とれている。
「なるほど……残された時間は少ないワケだ……じゃ、行ってくるよ。あわよくば今度こそアスク君も回収してしまえたらいいけど。」
夜空とホープを隔てるガラスを彼女が指でなぞると深緑色の裂け目が現れ、その端へ手をかけながらホープが剣を掴んだ。
「……どうかお気をつけて!」
「ありがとう。『ブライツシェイド0』『黒の騎士団』……極秘活動を開始する。」
彼女を飲み込んだ瞬間に消えた裂け目が散らした、緑色に光る粒子を手にとって黄緑髪の男が姿勢を整える。
「……ブライツシェイド……他の組織と協力する事なく暗躍し、どんな手を使ってでも平和を守り続ける闇の正義……アナタ達には全く似合わない称号だというのに、昔の私は若気の至りからなんて事をしてしまったんだろうか……叶うなら、あなた達も世界を照らす光として……。」




