第42話「迫る舞い時、追う秩序、消えた死神、今いずこ。」
「はいっ!!」
「ふん。」
「はぁいっ!!」
「ほっ。」
「はぁいっ――」
「はっ。」
「あぁぁぁぁっ!?!?」
「11対0!木槿の完全勝利だァ!!なんだ八美!!自信満々で誘ッてたクセに情けねェ!!!!」
「っ……なんの!3セット先取で!!」
八美と木槿が卓球をしている様子を椅子に座ったアスクが眺めていると、一葉は彼の頬にフルーツ牛乳をあててきた。
「ん?……わ、ありがと!!」
「(ひゃぁとでも言うのかと思ったら……いや、月人が1万℃近い炎でも形を保てるなら、もしかして彼らにとっての0℃と100℃ってあんまり変わらないのかな。)」
「アスク君。」
七尋が彼らの横にパイプ椅子を置いて座りこんだ。
「その……確認させてもらってもいいかしら?あなたの力を。」
「もちろんいいよ?……イバラキも八美も、七尋も良い人だって確信できたし……【フォーバマイン】。」
アスクが首元から死月鉱を千切り取ると、彼の手元に一瞬で死月鉱の大鎌が現れた。
「……!すごい、一瞬でこんな物を作り上げられるなんて。」
「ん?……ぎゃっ!?!?」
視界の端でチラつく紫の閃光に目を向けた八美が、跳ね飛んできたピンポン球に顔を叩かれている。
「6対0!!」
「えぇ?今のはノーカンでしょ!あんな珍しい物、誰でも気が散っちゃうって!!」
「俺には珍しくないが。」
騒ぐ3人を見つめ続けながらアスクが死月鉱をこねくり回す。
「ぐぬぬ……不敬!不敬だよこの死神!!パパ何か言ってやってよ――」
「良いぞ!!ウチのおてんば娘しつけられんのは死神くれェだ!!!!」
「……えーっと、コレは出来るようになったばっかりだけどね、銃も作れるんだ。」
――――――――
「ぐぬぬぬ……アンタにだけでも勝つ……。」
「ふーーーーんんんん……?」
数分後、台に乗ったアスクと八美が互角の腕相撲をしている横で、木槿がタオルを首に巻きながら溜め息をついていた。
「せっかく風呂入ったのに汗かいちまった……また入ってくるか。」
「んぐご……あァ~……11対0……12対0……。」
「酔い潰れちゃうなんて珍しい……あなた達と話せたのが、よっぽど良いおつまみになったようね。」
酒瓶を持って眠りこけるイバラキの寝顔を見つめながら微笑む七尋の横で、コリウスが大量に買った牛乳を1つずつ飲み干していく。
「我々はもう少し……話したい事が……あったのだがな……プハーッ!!まぁ仕方ないか!!!!」
「……あの、何で一気に全部の味を買ったんですか?お腹壊しちゃいますよ……?」
コリウスが空になった牛乳瓶を置き、その間にもう片方の手で新たな牛乳瓶を掴んだ。
「どれも美味しそうで……ぜんぶ飲みたくなってしまったのでな!!!!」
「また明日にでも飲めばいいじゃないですか……!?これ以上は私がもらいます!ご老体が無理する様子なんてあまりにも見てられません!!」
牛乳瓶を奪いあう2人の横で、木槿が七尋に尋ねている。
「八美様にアスクと張り合えるほどの力があるとは驚きました。八尺と鬼の力に加え、身体強化もお持ちですか?」
「はい……強い娘に育ってくれたのは良いのですが、力のせいで他の人達とは中々親睦を深められずにいたのです。でもまさか、彼女と渡り合える存在が1日で同時に2人も現れるなんて。」
アスクと八美が睨みあっている間に卓球台は少しずつ亀裂を形成し、割れそうな音を鳴り響かせていた。
「俺は彼女と卓球を打っただけですよ、張り合える存在だと認めてしまうのは早計です。」
「……謙虚ですこと。しかし驚いたわ、月から来た男と巫女の昔話は……月人すら本当だったなんて。」
卓球台と椅子が置かれた部屋に飾られている白蛇街の地図を見つめ、七尋が腕を組んでいる。
「我々も驚きましたよ、俺の叔父よりも先に月人と交流していた地球人がいて……その上"仲睦まじい様子"だったとは。」
――――――――
「どん詰まりだ!クソ!!」
ブライツ本部の1室で資料を読み漁っていたオーダーの背後にて、B.2リプロダクションが扉を乱暴に開けた。
蝶番の破損した扉が大きな音を立てて倒れる。
「どうした?」
「A.S.Oに所属していた奴ら全員な、足取りが掴めなくなってるか死んでやがる!」
「えっマジなのソレ!?」
オーダーの隣で資料を読み漁っていた少女が勢いよく走ってリプロダクションが持っていた書類を奪い取った。
「アイ・ジェイ、キム・メイヨウ、ジーノ・デケースド……マジ?この人もこの人も皆死んだりしてるの?」
「……あぁそうだよ!これから先は敬語を覚えりゃ好きなだけ読ませてやるさ!!」
少女から書類を奪い返したB.2が眉をひそめていると、オーダーが彼女に手を差し出してきていた。
「私にも見せてくれないか。」
「あ?……いいぜ、ほらよ。」
差し出された手に書類を託し、B.2が髪を弄りながら荒々しく着席した。
「連絡しようとして連絡がつかなかったか、親族から死亡を報告されたのか……見たければマジカルも見ていいよ。」
「わぁさすがオーダーさん!感謝!!」
「……チッ。」
壊れた扉の前で少女と共に書類を見ていたオーダーが小さく呟く。
「……明星 待雪?」
「あ?知り合いでもいたか?」
オーダーの脳裏に1つの思い出がよぎる。
――――――――
「この後……君はどうするんだ?」
「さぁな、まだまだ政府の思惑に従って動き続けるのかもしれないし……またお前を殺しに行くかもな。」
警報がけたたましく鳴り響き赤いライトがそこら中で点滅する中、空と自身の髪だけが綺麗な青色をしていた。
「……私達と共に来るんだ!アズノーンでもそれだけ強いならB.13以上を狙えるぞ!!きっと何の不自由のない生活を送れる――」
「断らせてもらう。」
「何故だよ!!そんな世界に居たって、良い事なんて1つも無いだろう……?」
疲れきった手足へ必死に力を入れて起き上がろうとした直後、前方に立っていた青年が『ナイフと一体化した銃』をこちらへ向けてきた。
「っ……!?」
「悪いが"無理"なんだ。こういう汚れた役割を背負う奴が居ないと、もっと辛い目にあう人間が多く生まれちまう。」
私の耳についていた通信機が再起動を始めたのを見て、彼は私に銃を向けながらどこかへ歩き始めた。
遠ざかる彼を、止めようと思えば止められた。
先程まで共闘していたからあの銃にもう弾は入っていないと分かるし、もし銃があっても負かす事以外なら私には何でもできるだろう。
でも、あの時に彼を止めようと動く事はできなかった。
彼の話したソレが、昔の私には少しでも正しい事に聞こえてしまったから。
「まぁ……俺もこの地獄みたいな道を、延々と歩き続けたいと思ってるワケじゃない。」
青年が近くにあった重い扉を開けて入っていく直前に、少しだけ足を止めた。
「明星 木槿……この名前、覚えておいてくれ。」
1人取り残された中、耳についた通信機からはノイズ混じりの混乱が聞こえ続けている。
「B.1、生体反応消……!B.2死亡確……!」
「……が突如降伏宣言……戦争は終わ……!?」
「事実確認……まずは怪我人の保護……ル……イエの破壊を……!!!!」
「B.12……ーダー……応答せよ………オーダー………!!」
――――――――
「……オーダー?……おい、オーダー!!」
手を震わせ、とうとう書類を握り破ったオーダーの肩をB.2が掴む。
「おかしいぞお前……何してくれてんだよ書類に。」
「(今さっき扉壊した人に言われたくはないでしょ、この矛盾ダクションめ。)」
オーダーが1度は荒くした呼吸を整えてから、紙を修復して歩き始めた。
「……この方の親族情報を出来る限り集める!手伝ってくれ!!」
「だから突然どうしたってんだ……まぁ、手がかりを掴んだってんなら存分に手伝ってやらぁ!」
「機械オンチの元テロリストは下がってなよB.2!オーダーさんの手伝いはこのキューティーで頭の冴えてる、かつお淑やかなB.3マジカルガール1人で十分だから!!」
『明星』という黒文字の中に、あの日見た青年の髪と目の色を重ね合わせながら、オーダーが赤い瞳を輝かせた。
「(もしまた10年前と同じような別れ方をしそうになっても……今なら絶対に君を止められるさ……確信したから。私達は君が守ろうとしている人々や……君も含めた……世界中の誰1人にも悲しい思いをさせないために、ブライツにいるのだと!!)」
――――――――
旅館のロビーに集まった鬼百合家とL.E.R.Iの面々が談笑していた。
「もしよろしければ手伝わせていただけませんか!?!?2人がかりとはいえ!!イバラキ様をお部屋まで運ぶのは疲れるでしょう!!!!」
「心配ご無用!!私がついてるんだもの。」
「そうだよ、八美がついてるんだから安心だよ!」
腕相撲の末に卓球台を破壊した2人が互いに親指を立てている。
「今日だけで2人とも随分打ち解けちゃいましたね……私達も同じでしょうか?ふふふ。」
「確かにそうですわね……それじゃあ、また明日お会いしましょう。」
「皆おやす――」
八美の言葉を遮るように、木槿が床を叩きながら跪く。
「「「「「!?」」」」」
「え、何……?大丈夫?卓球の反動でも来た……!?」
全員が彼に駆け寄ったが、すぐに木槿は何事も無かったかのように立ち上がった。
「……あんまり意識してなかったけど、身体は黒髪黒目のアズノーンですもんね……!明日、木槿さんはお部屋でゆっくり――」
「問題ない。」
不愛想な様子で廊下の方へ歩いていった木槿を見つめながら、酔い潰れているイバラキを除く全員がそれぞれの顔を見合わせる。
「……気にかけてあげてね?」
「もちろん……でもビックリした。木槿があんな風に突然倒れそうになる所、初めて見たもん。」
――――――――
部屋の前に段ボールが置かれている。
「(成功。)」
扉が連なる廊下を歩き、突き当たりを曲がってきた木槿がソレを拾い上げて破り開けた。
『S評価.LTR レジスタンサー4』
そう書かれたラベル付きの物体を抱える木槿の目には、銀色に光るソレの表面が映りこんでいる。
「……やっと来たな……どんな起動プロセスだったか。」




