第29話「数か、質か。」
街灯が所々を照らす高速道路の上で薄橙色の閃光と紫色の宝石が輝いている。
アンデッドの首へ一瞬で何発もの弾丸が撃ち込まれ、ぐらついた頭の重さが胴体と共に首を引きちぎる。
頭という自身の位置を確認するために必要な部位を失ったアンデッドはその動きを鈍くしながらも、ロベリアを介して他のアンデッドと視界を共有することで少しずつ、再びアスクや木槿達のいる方向へ進み始めようとしていた。
しかし元々速くは動けないアンデッドが更に鈍くなった結果、首の無い彼らはアスクにとってこれ以上無く切りやすい標的になっていたのだ。
首の次に腕を飛ばされ、足も飛ばされ、他のアンデッドと視界を共有した瞬間には、既にそこに四肢と首を失ったダルマ状態のアンデッド自身が見えている。
時々、視界を共有した直後にその共有元のアンデッドの首さえも撃たれて落ちていく事もあった。
「コレが……月人……そして、死神部隊のリーダー!?!?」
コリウスが目を見開き、次々にダルマにされていくアンデッド達と、それらの周りを駆け巡るアスクの残像を見ている。
「あれだけいたアンデッド共がどんどん無力化されていく……!!しかし、アスク殿はアンデッドの首と手足を切る事が最善手だと分かっているようだが……何故だ!?」
「わ、分かりません……あ!スリエルには魂が見えるからもしかしたらソコから気づけたのかも!!」
「なるほど!!!!」
コリウスの隣で一葉がマガジンを複製し続けながら、ついでにそれらを上にいる木槿に投げ渡している。
「……痛いっ!?」
突然上から落とされてきたピストルが一葉の頭に当たった。
「何するんですか木槿さ……熱っ!!」
ピストルの先は少しだけ赤く光り始めており、一葉が手の上でピストルを転がしながら冷やしている。
「すまない!冷やしたらそれもコピーしてくれ!!もっと撃つペースを上げなきゃなんだが、これ以上速くしたら銃身が一瞬でダメになる!!」
「!?……分かりました!!」
上で1丁のピストルを撃ち続けている木槿の言葉を聞いた一葉はピストルを振って冷やしながら、声を震わせて呟いた。
「まだ速く撃てるんだ……。」
閃光がアンデッドの首を飛ばしたのが見えたら、すぐさまそこに飛んでいって『嫌な気配がする』四肢を斬り飛ばす。
群れの中を飛び、駆け回るアスクを掴もうとしたアンデッドの腕が一瞬で吹き飛ぶ。
「……この臭い……好きじゃないな。気分悪いや。」
アンデッド達を斬り飛ばす度に飛び出てくる赤黒い液体を避けながら、アスクは次のアンデッドに目をやろうとした。
背後からチェーンソーの音が鳴り響いてくる。
濃い殺意がアスクの背中に垂れてきた。
「!!」
素早く振り向いたアスクの大鎌がアンデッドの振り回すチェーンソーの刃と噛み合った直後、
アンデッドの持っていたチェーンソーが両腕ごと大鎌に引きちぎられて奪われる。
腕がついたままのチェーンソーが暴走し、周囲のアンデッド達に襲いかかる。
「うわっ。」
血しぶきが降り注ぐ中で、アスクは眉をしかめてチェーンソーに小さい死月鉱の塊を投げつける。
「散らかさないでよね!!【マーナガルム】!!!!」
爆発がアンデッドと共に高速道路の一部を大きく吹き飛ばす。
弾け飛んだ死月鉱の一部がその奥にあった料金所の電光掲示板に刺さり、ショートした電光掲示板から火花が飛び散る。
倒れていたアンデッドの衣服や体毛に火花が燃え移り、炎がアンデッドを通じて広がっていく。
「……!?」
こちらに段々と迫ってくる炎を見たアスクは、焦りながら一葉や木槿達のいる輸送車の方へ走っていった。
「火も襲ってきたよ!!!!」
「まぁ気にするな!死月鉱を使ってこの車を動かす事はできるか!?」
炎が能力以外で発生する事を知らないアスクが大慌てで走ってくる様子を観察しながら、木槿が迫ってくるアンデッド達へピストルを撃ち続けている。
直後、彼が頭を少し横に傾けた瞬間に彼が使い続けていたピストルの銃身が破裂した。
「ちっ……一葉!!!!」
木槿がピストルの破片を投げ捨て、先程と同じように下にいる一葉を呼ぶと、
2丁のピストルが木槿の足元に投げ込まれた。
「あと6丁と……マガジンは15個くらいが限界ですからね!!」
息を切らした一葉が上へ叫んだのとほぼ同時に、木槿は少しだけ口角を上げてピストルを拾い上げた。
「十分だ!!複製してから2丁をお前らで持て!!複製した分をコッチに渡し終わったらコリウスと一緒に輸送車の中へ!!!!」
少しの間止んでいた無数の閃光と銃声が再び高速道路の上で鳴り響き、輝く。
「(木槿の使ってるアレって何なんだろう?小さなマーナガルムみたいなやつ……)」
アスクは疑問に首を傾げる勢いでアンデッドが振り回した包丁を避け、アンデッドの腹を文字通り蹴り飛ばした。
「……もう数だけじゃ限界かなぁ?」
ライボットをゆっくり運転し続けていたロベリアがギアを上げると、ライボットが速度を上げて高速道路を走り始める。
「やっぱり数だけの弱くてトロいアンデッドじゃ時間稼ぎにもならないしぃ……『メインディッシュ』を見せてあげようかぁ。」
――――――――
倒れたアンデッドの数が増えてくると共に、広がる炎が高速道路を明るく照らしてアスクが輸送車の横に辿り着いた頃。
アスク達に迫ってきていたアンデッドの全てが突然、操り糸が切れた人形のように倒れた。
一斉に倒れたアンデッド達に抱いた違和感にアスクが首を傾げていると、輸送車の上から木槿が飛び降りてきた。
「車に乗れ、コイツはまだ動く。」
「わ、分かった!ねぇ、コイツら……突然どうしちゃったの?……嫌な気配も、もうしないけど。」
運転席に乗り込もうとする木槿に立ち止まったままのアスクが尋ねると木槿は運転席に乗り込み、窓から顔を出して彼の目を見た。
「ロベリアは死体をアンデッドとして操れるって事は知っているよな?」
「……うん!」
「OK、一旦輸送車の後ろに乗ってくれ。」
「……うん!!」
跳ねるように輸送車の後ろに走っていったアスクを見届け、運転席に座りなおした木槿はドアの収納に隠されていたハンマーでヒビ割れていたフロントガラスを砕いた。
破片を払いのけながらエンジンをかけると、問題なく動き始めたエンジンの駆動音が辺りに響く。
一度バックし、木槿が料金所のゲートに合わせて車を移動させていく。
引き潰した死体が出す臭いと音と潰し心地は、輸送車の乗り心地を最悪にするには十分すぎた。
後方で物音がしたかと思えば、すぐさまアスクの元気な声が聞こえてくる。
「ねぇ!!一葉さんが気絶しちゃったよ!!!!」
「そうか、複製しまくって疲れが溜まったんだろう。少し休ませてやってくれ。」
輸送車の位置調整を終えた木槿がため息をついた。
「アスク、体を固定しておけ。コリウスは一葉と自分をシートベルトで繋ぐんだ!」
「了解だ!!!!」
コリウスが座席の上に倒れこんでいた一葉の姿勢を起こして、シートベルトをつけている様子を観察しながら、アスクは自分の腰元に死月鉱を巻き付けていた。
「ねぇ木槿、さっきの話の続きしてよ!何が起きてるの?」
「結論から言うと、まだ終わりじゃない。」
「終わりじゃ……ない……?」
アスクの目つきが鋭くなる。
何かが来ている、気配を感じる。
先程のアンデッド達とは比べ物にならないくらいの1つのおぞましい気配。
「全員固定完了!!!!」
そうコリウスが口にした瞬間、木槿が全力でアクセルペダルを踏みこんだ。
輸送車が血肉を飛ばしながらゲートへ突っ込み、阻止棒を折りながら料金所を突破した。
「「うおおおおおっ!?!?!?!?」」
突然体にかかってきた圧力に体を仰け反らせながらも、アスクは木槿と話を続けようとする。
「木槿!!出発するならすると言ってくれんか……!!腰が消し飛びそうになったぞ!!!!」
「ロベリアはさ!次何をしてこようとしてるの!?」
「すまないコリウス!それと……アスク、もしアイツが次に何をしようとしているか知りたいなら振り返ってみるといい!」
「……え?」
夜風を体に受けながら車のアクセルを踏み続けている木槿が、サイドミラーを確認してから車を少しだけ端に寄せた。
直後、輸送車の真横へ何かが飛来してきて地面に落ちたソレが爆発をして道路をえぐり飛ばす。
「うおぉっ!?」
間一髪で直撃を免れ、揺れながら逃げていく輸送車を睨む『存在』が料金所の上に立っていた。
「ロベリアが前に話していたんだ。アンデッドを操れる数に明確な上限は無いが、一度に操る数が多ければ多くなるほどアンデッドを素早く正確に動かす事は困難になるとな。」
アクセルペダルに更に体重をかけながら、サイドミラーと前方を交互に睨む木槿が口にしたその言葉の中に秘められたメッセージを察したアスクが目を見開く。
「……逆に同時に操る数が少なければ、正確に動かせるって事!?アウト・フォールって人みたいに……?」
「そうだ……数か、質か。アレは確実に今まで俺達が戦っていたアンデッド達とは比べ物にならないくらい厄介な存在だ。」
アスクが魂に力をこめると、料金所の上から飛び降りてきたソレの輪郭が悪意の形として見えてくる。
異常に大柄な体、その全身を包み込んでいる紅色の厚いプロテクター。
その手には、ソレの太い腕と同じくらい大きな銃が握られていた。
「まるで石の巨人……『ゴーレム』だな!!!!」
コリウスが腰を抑えながら”ゴーレム"を見つめていると、ゴーレムがロケットランチャーを背中に背負ってクラウチングスタートの体制を取り始めた。
「……まさか!?!?」
「追いついてくるつもりだ!!迎撃するんだアスク――」
ゴーレムがプロテクターの隙間から白い息を漏らしたその瞬間に、丸太のような足で高速道路に巨大な亀裂を入れた。
走ってくる、というよりはもはやまっすぐ跳んでくるような歩幅でゴーレムが迫り、数秒もたたないうちにソレは加速を続けている輸送車の後部に掴みかかり、雄叫びを上げた。
「オ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!!!」
「なんという身体能力……!!!!」
コリウスが腰を痛めながら、おぼつかない動きで銃を構える。
輸送車に捕まっているゴーレムの腕に数発の銃弾を撃ち込んだが、ゴーレムどころか命中したプロテクターに傷がついている様子も無かった。
「……ヘッヘヘヘヘヘべヘヘェッ!!!!」
先程までゴーレムがまとっていた乱暴な雰囲気に、陰鬱でひねくれたオーラが入り込み始めた。
「ズゴ……いでしょォ!!彩人の死体ニ、他の人ノ筋肉をォ……詰めゴんで、形がっごよぐして作っダ……私の……切り札ッ゛!!!!」
「ロベリア……貴様……いつからこんなものを作っていたんだ!!!!いつから私達を裏切っておったんだ!!!!」
銃を撃ち込み続けるコリウスの後ろで、アスクが鮮明になったゴーレムの歪なオーラに怯えていた。
プロテクターの裏で、ゴーレムが歯ぎしりをしている。
「オ前にば話ジかけてねェだろ!?クソ爺!!!!……ねェドう?どウ?コの子への感想、聞かゼてよアズクくぅぅん。」
沈黙を貫き通すアスクの目をゴーレム越しに見ていたロベリアが、ため息をついてから再び笑顔を作った。
連動するようにゴーレムも肌に縫い付けられているプロテクターを擦らせながら引きつった笑みを浮かべる。
「……マ、いぃやぁ。それよりモさ、アスク君コッチ来なヨ。L.E.R.Iなんカにいるよりもさァ、ずっっッと楽シいよぉ。好きな事、ナんデモできルよ……例えば、私ノ場合こんな物も作らせてもらえエるしぃ……!!」
「……好きな事、なんでも?」
アスクが小さくそう呟いたのを聞き逃さなかったゴーレムが口元のプロテクターを更にきしませた。
「……!ソウ!!好きナ事、なんデもできるよぉ!?アスグくんの゛やりたい事、作りダい物!なんでも実現できルよぉ!!」
「……。」
腰元を固定していた死月鉱を回収し、アスクが心の中で泡を弾けさせながらゴーレムへと歩み寄っていく。
「……アスク殿……?」
「へへ……コッヂぃ……ごっちダよぉ……!!」
ゴーレムの目の前にアスクが立った時、輸送車が少しだけスピードを落とした。
「くたばれ、嘘つき。」
「……えっ――」
ゴーレムの前に立っているのは、ただの小さな子供のはずだった。
初めて彼を目にして拒絶された時、微かに見えていた刃の輪郭がハッキリとゴーレムの視界に映る。
『殺す』や『暴力をふるう』などの、殺気や悪意とは全く違う『死という概念そのもの』がアスクの背後からゴーレムを越えてロベリアを睨みつけていた。
ゴーレムと同調していたロベリアの意識が強制的に引きこまれ、ライボットの中にいるはずのロベリアが目の前に立つアスク・スーリエルを幻視する。
アスクが腕を振り回した瞬間にゴーレムの頭部が吹き飛び、姿勢を崩したソレの体が道路に転がり落ちていく。
「お前なんかに……リプラは連れてこられない!!もちろん僕も!!連れていけるワケがないんだよ!!!!」




