第26話「光と影」
「何故なのですか!!」
至る所にモニターがついている大きな部屋の中で、人々が大慌てで手元の何かを操作したり、駆け回っている。
部屋の中央で携帯を耳に当てている女性は怪訝な顔で誰かと通話していた。
「あの高さから既に目視で確認できているんですよ!あの大きさの隕石が落ちれば星観寝山の周りは確実に吹き飛ぶはず。あなた方は何故問題ないと、そう断言ができる――」
「まぁまぁ落ち着いてくれたまえオーダー、あの辺りは今工事によって封鎖中……周りには道路以外何も無い。もし何か起きても人的被害は発生しないさ――」
女性の携帯を握る手に力がこもる。
「……それは本当に工事なのでしょうか?」
「っ!?……何が言いたいんだね。」
「ただの勘ですよ。出動を許可しないのであれば、それでいい。」
携帯をしまい、ため息をつきながらモニターを睨む女性の隣に、無機質な見た目のヒューマノイドが歩み寄ってくる。
「オーダーさん、出動は?」
「『やめてくれ』だそうだ。」
「ふむ、一体なんなのでしょうか……アレは。」
「過去20年間の間に数回確認されていた『地球と宇宙のどこかを行き来するポッド』と関係があるのかもしれんな。丁度最近、地球から宇宙に向けてポッドが発射されていた事が確認されている。」
「そんな物が……ひょっとしたら、あの隕石の中には宇宙からお返しとして送られてきた何かが入っているのでは?」
「有り得る。」
「誰かが宇宙人に『注文』したって事か?へっ……。工事中って事にして道路を封鎖したりオレ達の出動を許さないのは、その注文した奴が安全にブツを受け取れるようにするためなのかもな。」
「!」
オーダーの肩に銀色の髪に赤い目の女性がニヤつきながら寄りかかってきた。
「……宇宙人?B.2、どういう事ですか?」
「ポッド送ってポッド送り返して、今度はあんな隕石まで送ってこれてる……なら、オレ達以上の文明を持った……いや人型なのかは分からないけど、そういう知的生命体がいるのは確定だろ?そんな事も分かんねぇのかベタベタ.13。」
「うぐっ。」
女性が人型機械の頭を小突くと、ソレの腕の中に入っている黄色いスライムのような液体がガラス板越しに揺れているのが見えた。
「やめてやれ……宇宙人、知的生命体か……宇宙に上がった人間達がいる可能性もあるが……どちらにせよ、『独自』に調べる必要がありそうだ。」
モニターの下にある小さなモニターと機械を見つめていた1人の彩人がオーダーに向けて叫ぶ。
「隕石、11秒で星観寝山の頂上に落ちます!」
「『独自』に……まさか、今からアレを取りに?」
「あぁ、それが1番手っ取り早いだろう――」
オーダーが振り返って部屋を後にしようとした瞬間、司令室全体を赤いライトが照らすと共に警報が鳴り響き始めた。
「B.1、及びB.2へ緊急の出動命令!パピリオン美術館を中心に『滅震』が発生!!美術館から半径1kmに家屋の倒壊等の被害が発生している!至急現場に向かい救助及び余震の鎮圧をせよ!!」
放送を聞いたB.2が目元を抑えていた。
「クソ……やけに丁度いいのな、仕方ねぇ……行こうぜオーダー。」
「……あぁ、パピリオンという事は西彩の方か。20秒以内に向かう。」
――――――――
オーダー、B.2が出動する少し前、星観寝山の中腹。
「ここら辺でいいですかね……ふん。」
変霊が遺した手を地面に置き、アウトフォールが土を手で掘り始めた。
「どうか、夢に出てきたりしないでくださいよ……出るなら木槿かロベリア、最悪の場合いっそ一葉の所に……!」
掘った穴に手を放りこんだ後、上を土で固めてから彼が手を合わせて祈っていると、徐々に空が紫に光り始めた。
「……ん!?まさかもう来たのか!?」
アウトフォールが慌て、つまずきながらも山を登り始める。
「まずいまずい……せめて彼だけにでも所長として敬意を抱いてもらいたいのに……迎えられた場にいなければ変に思われてしまうかも知れない!!急いで戻らねば――」
透視で木槿達のいる方向を確認し、アウトフォールが再び地面を強く踏みだした直後、木陰に潜んでいた何者かが拘束し、彼の首を強く絞め始めた。
「ぐ……ぅ……!?」
黒いプロテクター付きの服を着た男の体が、アウトフォールを地面に抑えつける。
「……死神……部隊……!?ぐぅ……何故……こ……こに……何故……私……を……!?」
もがくアウトフォールの首を更に強く絞めながら、生気のない声で男が話す。
「あぁ、あ、扱いやすくて、行動、分かりやすくて、嫌いじゃなかった。」
冷たい手の感触を強く感じながら、アウトフォールは木槿達のいる方向へ手を伸ばしていた。
「っ……貴……様……ぁ……!」
――――――――
ロベリアや木槿、一葉やコリウスが木陰に隠れながら紫に光る空を見上げていた。
空を包む光が段々と強くなっていき、木槿達の方へ近づいてくる。
「ねぇ木槿、私達が隠れる必要ってあるぅ?」
「レイズいわく、着地する時に迷惑をかけないよう対策はしてあるらしいが……一応な。」
「いつも大胆なお前が珍しいな!!!!」
「本当ですね……あ!もう落ちてきますよ……!!」
光が山の頂点を強く照らし、4人が眩しさで失明してしまわないように目を閉じる。
――地面に近づいた死月鉱の塊の周りで金線が踊り始めた。
直後に金線入りの月鉱が素早く地面へ伸びていき、死月鉱の塊を受け止めるための台座の形をとる。
地面に刺さった月鉱が地面の小石を弾き飛ばし、4人のすぐ横を掠めていく。
「……ひぇぇ。」
一葉が静かに震えたのと対照的に、木槿は動じる様子も無く、木の陰から光を見つめていた。
「な、隠れてて良かった。」
小石が飛んでいった方向を向いていた一葉の後ろで、透き通ったような金属音が響く。
「……!」
「これが月鉱……そして、アレが死月鉱……。」
金線の消え去った月鉱で出来た台座の上に、死月鉱の塊が鎮座していた。
一葉が大急ぎでパッドを起動し、記録を開始する。
「……。」
「……?」
騒ぐ山の生物達に対して、死月鉱の塊は着陸してからうんともすんとも言わない。
生物達のざわめきが収まり始めても、死月鉱はそのままの形で月鉱の台座に乗っかっていた。
「……あの塊の中にアスク・スーリエルがいるのだろう!?何故出てこない!?!?」
「もしかして、落下時の衝撃で気絶しちゃったんじゃないかなぁ。」
「えぇ……そんな事あります?仮にも呼び名は最強の種族ですよ?」
困惑気味の3人を差し置いて、木槿が妖しく光る巨大な宝石の前に立った。
「……アスク!地球に着いたぞ、出てきて俺達に姿を見せてくれ。」
死月鉱越しに、木槿の声が中で眠っているアスクの耳に届く。
「……ん……んー?」
ゆっくりと体を起こしたアスクが死月鉱に触れると、折り紙が折られていくように死月鉱の塊が畳まれ始めた。
月鉱の台座の中央で座りこみながら、アスクは首元にまとめた死月鉱を撫でる。
「おぉ、確かに木槿に見せてもらった通りの姿!アスク君だぁ〜っ……!!」
「やはり子供の姿をしているんだな、思っていたより幼そうだが!!!!」
「綺麗……まるで、宝石が生きてるみたいな……あっ!そうだ、地球に来てからの第一声、記録しておこう……!!」
一葉が目を輝かせながらパッドとアスクを交互に見つめている。
数秒後、アスクがゆっくりと大きく口を開いた。
「……ふぁぁぁ……っ……。」
「……あくびだねぇ、第一声。」
「えっ、アレも声としてカウントしちゃうんですか……?」
アスク・スーリエルが地球に来てからの第一声は、大きなあくびであった。
微妙な顔でパッドに入力を始める一葉を尻目に、木槿が寝ぼけているアスクに声をかける。
「よく眠れたか?地球へようこそ、アスク。」
「……あ、木槿……!?アレで見たのと同じ姿だね!!」
「パッドだな。」
木槿のまわりを1周した後、アスクがおもむろに木を指さした。
「ねぇ、あそこの裏にいる人達は……?」
「ふむ、魂を見たんだな。お前ら!出てきて自己紹介してやってくれ。」
「……えっ!?突然そんな事言われても……!!」
一葉が慌ててパッドの電源を落としている横を、ロベリアがすり抜けてアスクの前に飛び出した。
「じゃあまず私からぁ――」
「ロベリア・クレマチス。パッド越しで色々教えてくれたのはありがとう……でもね、それ以上近づいたら殺すね。」
「ぇっ。」
アスクとロベリアを中心に、一瞬で辺りの空気が凍りつく。
首に冷たい刃を何本を突き付けられているような感覚を味わいながら、ロベリアはゆっくりと後ずさった。
「ぁ……まぁ、そっかぁ。そうだよねぇ……スリエルは『無実の人を殺したり、傷つけた事がある人間の魂を嫌悪する』んだっけぇ?レイズさんから過去にL.E.R.Iへそんな情報が送られてきてたの、忘れてたよ。」
「嘘つきに人殺し、色々混ざってて気持ち悪い。」
「はいはい……さ、下がるよぉ……。」
そそくさと木の裏に隠れたロベリアを、一葉が同情するような目で見ていた。
「……ん?えっと、木槿さんはあなたと同じ戦場で戦っていたはずでは?」
「戦ってたよぉ……?不思議だよね、木槿だって何人も殺してきてるはずなんだよねぇ。」
「……どうして彼はアスクさんに嫌われないのでしょうか?」
「……ズルしてるんじゃないかなぁ?」
「……ズル?」
何故か笑うロベリアを、一葉は不審に思いながら見つめていた。
――――――――
一葉とロベリアが話している横で、コリウスがゆっくりと立ち上がる。
「……オホン!!それじゃあ次は私から!!!!私はコリウス・ティスポッサという者だ!!!!叫びで周囲を攻撃でき、それから自身を保護できる力を持っている!!!!」
コリウスの大声で、まだ冷えきっていた空気が震えながら砕けたような気がした。
「(お、なんだ?うるせぇ地球人だな。)」
アスクの魂の中でインヘリットが笑うと、アスクは心の中で静かに呆れた。
「(インヘリットにだけは言われたくないだろうな……。)」
「コリウスはロベリアや俺と違って戦った事はないんだが、どうだ?」
「え、あぁ……嫌な感じはしないよ!よろしくね、コリウスさん!」
笑みを浮かべるアスクを見て、コリウスが胸を撫で下ろす。
「誠実に生きてきた甲斐があった!!こちらこそよろしく頼む!!!!」
初めて会う人と社交的に接する方法を教えてもらえなかったアスクは、レイズの口調を真似ながら話し続けている。
「残るは一葉と……アウトフォールはまだ戻ってきてないのか!?」
「そのようだ……遭難してないといいんだがな。」
木槿が、ロベリアが隠れているであろう木を睨んだ。
「アウトフォールの力は透視だぞ!遭難などするはずが――」
「ちょーどいい埋め場所がみつからず、おくれました。」
「!」
アウトフォールが木の陰から姿を現した。
「おはつにおめにかかります。L.E.R.I……あ、所長の、アウト・フォールと申します。」
「アウト・フォール……あなたが、L.E.R.Iのリーダー?」
「あくまで名目上は、ですね。実質、あなたの隣にいる木槿が所長なのですが、彼には前科がいくつかありますから、堂々と所長を名乗れない。」
「前科?」
「過去に悪い事をしていたので、ブライツから追われているのですよ。」
「……悪い事?木槿が悪い人には見えないんだけど。」
「そうなの、ですか?不思議ですね……とりあえず、一葉の紹介も済ませたら、早く出発いたしましょ、う。」
アウトフォールとアスクが話す様子を見ていたコリウスが、少し動揺した様子でアウトフォールに近寄る。
「……アウトフォール、具合でも悪いのか!?」
「……たしかに、えぇ、すこシ。」
「そうか……そうなんだな!?なら早く出よう!!一葉!!!!ささっと自分の事をアスク殿に話してやってくれ!!!!」
コリウスが木の裏に駆け込んでいき、一葉を引っ張るようにアスクの前へ連れ出してきた。
「うわわ……!」
「コイツは林藤 一葉!この中では最も若いんだが、優秀な研究員だ!!そして、妹がいる!!!!」
「妹の事言う必要ありました!?」
「確かに無かったかもしれんが……まぁ、とりあえず!コイツは力も優秀で難解だ!!!!」
勢い任せに紹介されていた一葉はどこか困った様子で服装を直す。
「えぇと……うーん、月にはパソコンとかないから確かに私の力は例えづらいな……。」
「そうだな!!!!」
「大雑把に言うと、アイツの力は『空間を選ぶ』力だ。選んだ空間内にある非生物を複製したり、生物の動きを抑制したりできる。」
「そうなんだ!(アウレオラの物に干渉する版かな?)」
アスクが少しだけ理解した様子を見せると、木槿が月鉱の台座を滑り降りてコリウス達の隣に立った。
「アスク、台座も回収してくれ。これからお前をL.E.R.Iの拠点に連れて行く。」
「拠点……!分かった!!」
アスクが月鉱を少しずつ畳んでいると、再びインヘリットが彼に語りかけてきた。
「(これからお前はL.E.R.Iの奴らと一緒に、連中の拠点で暮らす事になるかもしれないわけだが……本当に大丈夫か?やけに……きな臭ぇじゃねぇか。)」
小さくまとめた月鉱をフードの中に隠しながら、アスクが眉をしかめる。
「(今は木槿を信じるしかないよ。おかしいと思った所はちょっとずつ聞いていこう。)」




