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第25話「L.E.R.I」

 2060年1月22日 龍妖彩列島 某所

 name ・アウト フォール 

 L.E.R.I(月地間親交研究所) 所長




 これから私達は月人の回収に向かう。




 月人との交渉を行っていた研究員の明星 木槿がBRIGHTsの動きの変化を察知してから数日、彼が突然「月人が来るぞ」というので……



 ­­­――真っ黒な輸送防護車の中、パッドを操作していた男の眼鏡を抑える手が震え始める。


「……こんな物が報告できるかぁぁっ!!」


 高速道路の上、微かな振動に揺られながら、オレンジ色の髪の初老の男が腕を組んで頷いていた。


「気持ちはわかるぞアウトフォール!!よくわかる!!!!」


「フルネームで呼ぶなコリウス……私はもう知っているんだ……東では『出オチ』という意味の名前なんだろ!?今までフルネームで呼んでいた東の奴らは皆私の事を馬鹿にしていたのだ!!」


「……はっはっはっはっはっ!!!!」


「その得意の大声で笑って誤魔化したつもりか!?クソが!!!!」


 2人の男が大声を出している様子を、1人の女が車の隅から見ていた。


「まぁ仕方ないんじゃぁないかなぁ……アウトフォール君はあくまで前科持ちの木槿の代わりで、書類上の所長でしかないんだからさぁー?」


 女の発言を聞いた途端、アウトフォールが無言で眼鏡を地面に叩きつけた。


「あはははは!私、君のそういう反応嫌いじゃないよぉ!」


()()()に好かれて嬉しいワケが無い!!」


「あ、あの……。」


 助手席の方から微かに女性の声が聞こえてくる。


「なんだ林藤(りんどう)、私は今からコイツらに身の程をわきまえさせてやりたいんだが!!」


「アレ、私が代わりに書いときますね……まだ気づいてないと思うんですが、アウトさん大分顔色悪いですよ……酔ってますよね?」


「何?……うっ……!?」


 咄嗟にアウトフォールが近くに置いてあったバケツに顔を突っ込むと、彼をからかっていた男と女は少しの間顔を見合わせてから、笑って窓を開け始めた。


()()()だったぁー!あはははは!やっぱり君って面白いやぁ!!」


「笑ってやるなロベリア!いやしかし、車酔いに気づくまで吐きそうにならんとは……いや奇妙だな!!面白い!!月人と同時に研究してやらねば!!!!」


「こ、このカス共いつかL.E.R.I(ここ)から追い出して……うおえぇぇっ!」



 ――­­­――­­­――­­­――



 2060年1月22日 龍妖彩列島 某所

 name ・林藤(りんどう) 一葉(かずは)

 L.E.R.I(月地間親交研究所) 研究員




 これから私達は月人の回収に向かう。




 月人のリーダーであるレイズ・ミカエルとの交渉の末、研究員、明星 木槿が1人の月人を地球へ招く事に成功した。



 これから私達L.E.R.Iが迎える月人の名は『アスク・スーリエル』。



 彼やレイズ・ミカエルのようにラストネームのある月人は彼らの中でも『天使種』と呼ばれる特別な存在であるようだ。


 しかし、我々からすれば全ての月人が特別であり……恐ろしい存在でもある。


 地球に暮らすほとんどの人々が知っている通り、私達の魂や才能は髪や目に色として現れる。


 およそ190年前、コランバイン博士が公表した『パレット』と『宝石箱』は世の中に決して小さくない衝撃を与えた。


 色で決まる強さの違い、格差。

 最初は誰もが彼を「レイシスト(差別主義者)」だなんだと罵ったが、時が経つにつれ、歴史上の全ての出来事が彼の話した事を肯定し始めた。


 コランバインがあれらを公表する少し前、滅王と共に世界を滅ぼそうとしていた『アンデルセン(Andersen)』は()()()()()()()()を持っていたらしい。


 それと丁度数年前に白い目と水色の髪の男が史上最悪、史上初の重力テロを起こし、それを水色の髪と赤い目の女性が戦争ごとソレを鎮圧した。

 その女性が今のB(ブライツ).1として、最強の地球人として今も世界を守っている。


 もはや彼の事を否定できる教授や博士などこの地球にはいないだろう。


 私はそう考えながら続きを書いていく事にする。




 月人の恐ろしさはそのパレットと宝石箱から分かる強さにあるのだ。

 本来、少なくとも私達の才能や魂の性質は子孫に遺伝したりしない。

 赤い髪に赤い目の両親からどんな髪や目の色をした子どもが生まれてくるかは誰にも分からない、完全にランダムなのだ。


 しかし月人は皆、紫の目と銀の髪を持っている。

 『天使種』の中でいくつか例外はあれど、全ての個体が強力な力を持っている。


 パレットにおける最強の色は水色……万能の証であり、宝石箱における最強の色は赤……王の証なのだが、その次に優秀であるとされているのが銀の髪と紫の目なのだ。

 つまり最強でこそないものの、その次に強力な者が月には幾千もいるのだ。

 そしてついでのように不老でもある。

 この地球で人が持てる力は1つだけのはずだった。

 だがやはり、月にその常識は通じないのだと、それは私の隣で車を運転している明星 木槿も、その叔父であった待雪氏も理解していたようだった。


 私達はこれから月人を研究しなければならない。

 そして確実に親睦を深めなければならない。

 もし『最強の種族』と戦争になれば、恐らく我々地球人は­­­――



 ――­­­――­­­――­­­――



 ­­­――輸送車が止まった事に気づいた一葉がパッドをスリープモードにする。


「……着きましたか。」


「あぁ、降りるぞ。」


 いつの間にか高速道路を抜けていた輸送車は山奥の(ひら)けた場所に停められた。

 一葉が降車して辺りを見回していると、木槿が車の陰でトランシーバーを介して誰かと会話しているのが見えた。


「到着した。不審な出来事は何もなかったか?」


「はい、問題ありません。」


「よし、続行しろ。」


「イェス、サー。」


 トランシーバーを車の座席へ放り投げた木槿に一葉が近づく。


「今……誰と話していたんですか?」


「部下。」


「部下……?まさか死神部隊に偵察させているんですか!?てっきり私達だけで来ていたのかと……。はぁ、やっぱり私って寝不足なんでしょうかね……死神部隊の方々が来てくれてるならアウトさんから事前に話されていたはず、聞いたのに忘れちゃったのかな……。」


「誰にも話してない、俺が勝手に向かわせた。」


「……そうだと思いました!!」


 山の、木が無い開けた場所の中央に歩いていく木槿の背中を一葉が追いかける。


「あの……こっそり月人を迎えに行くだけですよね?偵察させるのはナシってわけじゃないですけど……あんまり多くの人員を動かすとブライツにバレたりしません!?」


「その時はブライツの上層部……()()()()()L.E.R.Iの上層部、アイツらがなんとかする。俺達は確実に月人を保護するのが仕事だ。もし何らかの理由でアスクを失ってみろ、隕石が地球めがけて100は飛んでくる。」


「……確かにそうですけど!私達だけで事足りるのでは!?そのために集められたようなものでもあるのに。」


「防衛は過剰に思うくらいが丁度いいんだよ。」


 木槿が空を見つめる。


「ヴォェェェェェッ……」


 木陰でアウトフォールがうずくまっている。

 その背中をコリウスがさすっていた。


「……ねぇ木槿ぇ?」


「分かってる。」


 ロベリアが木槿の肩に手を置くと木槿はソレを即座に振り払い、白衣を風になびかせながら両手をそれぞれ内ポケットに突っ込んだ。


「!?」


 木槿とロベリアの正面にある茂みが大きく揺れる。


 直後、赤黒い血にまみれた異常に長い手が尋常ではない速度で木槿に伸びてきた。


「汚れた手で触るな、この白衣は高いんだ。」


 木槿が内ポケットから手を引き抜いた瞬間、彼の白衣を掴もうとしていた手が細切れになる。

 うめき声をあげながら手を引っ込めた影が、茂みからおぼつかない足取りで姿を光に晒した。


 登山服の中から無数の手が生えている化け物、例えるならまるで"手のタンブルウィード"のようだ。


「エダDe切ツちゃっタ???救助Ktoおもうt……お腹空いてま、ママ、そのまま食べるカップ麺もケ結構美味しいゾゾゾぞ。」


「『変霊』か。」


「うわキモォ……この山で遭難してた人が混ざりあったみたいだね……見ての通り死体がそのまま()()になってるからそのまま倒せ……いや?そもそも今切ってたから分かってたのかぁ。」


 何かを呟く怪物に、木槿が落ち着いた様子で銃を撃つ。

 撃たれた痛みか銃声に反応したのか、タンブルウィードの化け物は叫びながら四方八方に手を勢いよく伸ばし始めた。


「おrは熊じYAなe­­­――!!!!」


「一葉、動き止めろ。」


「は、はい!!!!」


 木槿から指示された一葉が指で四角のフレームを作り、彼女の視界の中で化け物を囲んだ直後、化け物の体は置物のように固まった。


「【スクエア・セレクト】!!」


「悪いが経も鎮魂歌も今は歌える時間が無い、せめて一瞬で今度こそ死んでくれ。」


 木槿が構えた2()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 一瞬の内に何発もの銃弾が変霊に撃ちこまれていく。


 リボルバーの弾数はそれぞれ6発、弾が切れたそばから目にも止まらぬ速さで、片手でリロードを終わらせるという人間離れした事を成し遂げながら、撃鉄と引き金を引いて目の前の変霊を撃ち続ける木槿の目には一切の動揺も迷いも焦りも無かった。


 非常に慣れた様子で銃を回し、回した勢いでシリンダーを出し、薬莢を一瞬の内に押し出したかと思えば、瞬きよりも早く弾が込められている。


「うぉ……いつ見ても……ミニガンみたいだねぇ……ほんとにリボルバー使ってるのかなぁ?もしかして腹の辺りに機関銃でも仕込んでたりして。」


 いつの間にか一葉の隣に移動していたロベリアが一葉によりかかる。


「ちょ……やめてくださいセレクトが取れちゃいます!アレ私が固定してるんですけど!?」


 姿勢を崩されそうになった一葉がロベリアを鋭く睨むと、ロベリアは呆れたように笑みを浮かべた。


「いや……もう死んでるでしょアレぇ。」



 ――­­­――­­­――­­­――



 不意に木槿が撃つ事を辞めた時、彼の周りにはいくつもの空薬莢でできた山があった。

 穴だらけのレンコンのようになった変霊の残骸が、壮絶な勢いの銃撃により千切れた腕の上に倒れこむ。


「……持ち弾撃ち尽くしちまった。」


「ナイス、オーバーキルだねぇ。」


「……はぁ……目がチカチカする……。」


 地面にへたりこんだ一葉の頭を荒々しく撫でながら、アウトフォールを車にしまってきたコリウスが笑う。


「いつ見ても凄まじいな木槿の射撃は!!マシンガンかといつも思っとるぞ!!はっはっはっはっは!!!!」


「あはは、ほぼ私と同じ事言ってるぅ。」


「一葉の力もやはり強力だな!!2~3人混ざっていた程度の変霊なら完璧に動きを止められてしまうとは……!!難解だが!!!!」


「あんたの力だって厄介だろ。ここで叫ばれてみろ、車の中にいるアウトフォール以外全員死ぬぞ。」


「ふーむ……それもそうだな!!!!」


 笑いあう4人の背後で、千切れた変霊の手が微かに動き始めるのを()()()()()アウトフォールが車の中から叫ぼうとした。


「……!!気をつけ――」


 山の中で銃声が再び一発だけ響いた。


「ラッキーだな、一発残ってた。」


「お、おぉ……なるほど、手の内の一本が本当のコアだったんだな……ワシぁてっきり突然木槿に撃たれたかと。」


 コリウスが驚いた表情を戻せぬまま、地面に転がる手を指でつつく。


「ビックリしました……!!けど……助かりました……。」


「熊とか言ってた気がするし、変霊になった時には既に手以外は熊さんのお腹の中だったのかもねぇ。」


「……。」


 車から飛び出し、地面につまずいていたアウトフォールが唖然とした様子で4人を見る。


「……どうした?」


「木槿が誰か撃ったのかと思ったんじゃない?」


「いえ、何でもありませんが……月人を迎える準備をしなければと思いましてね!!」


「準備といってもココで落ちてくるのを待つだけだぞ。」


「……そう思っているから見つけられないだけです!仕事ややる事はやってくるのを待つ物ではなく、見つける物なのですよ!!」


 一本取ったな、と言わんばかりの顔でアウトフォールが鼻を鳴らす。


「なるほどねぇ……あ、それじゃあさ。コレどこかに埋めてきてよ。」


 ロベリアが動かなくなった変霊を指差す。


「……変霊なんですから間もなく崩れて消えますよ。」


「じゃあ本体の手だけ埋めてあげてよぉ。」


「貴方が()()()埋めればいいじゃないですか!!!!」


「いや胴体と繋がっててくれてないと無理ぃ。」


「くっ……。」


「……一緒に埋めに行ってあげようか?」


「私はトイレに行けない子供か!!1人で埋めてくる!!!!全く……。」


 不快感と敗北感、そして後悔に顔を歪めながら"手"を拾い上げたアウトフォールが森の奥に消えていく。



「……ふふふ。」



「?ロベリア、何故笑うんですか?」


「いや、やっぱりあの人の事嫌いじゃないなってさぁ。」


「……ほほう、儂からは何も言わんが、応援させてもらおうか!!!!」


「……はははっ……。」


 火薬の匂いを感じながら4人が身なりを整えていると、空が少しづつ紫色に光り始める。

 山に潜んでいた動物達が少しだけ騒ぎ始めていた。


「「「!」」」


「……来たな。」


 死月鉱の流れ星から放たれる光が、空を昼のように照らす。

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