第21話「前倒し」
レイズの部屋で、アスクは止まっている映像を見つめながら首を傾げた。
「ねぇミカさん、ロベリアは今ライボットが人型……神の形?に近ければ近いほど強いって言ってたよね……でも今さっき見たライボット、どれも全部僕達みたいな人の形とは大分違ってた気がするんだけど……。」
「もしかしたら人の形を再現するのは意外と難しいのかもしれないわね……しかし何かしら?突然動かなくなっちゃうなんて……。」
レイズが壁の画面を軽く叩いていると、部屋の奥にあった机の中から電子音が聞こえてきた。
「机が鳴いた!?」
「前に木槿と話す時に使っていた小さい方のタブレットよ、机の中に隠してたのが鳴ってるの。」
机の中からまるで液体のようにタブレットを取り出したレイズが、アスクの前に座り込む。
「そうなんだ……そういえば前はバラバラにして懐に隠してなかった?なんで今は机の中に隠してたの?」
「前に木槿に言われてたのよ、あなたが地球へ行くために動き始めたら、L.E.R.Iの方からもこちらへいつでもコンタクトを取れるようにしておいてくれって。それにしても何の用かしら?」
「……テス……テスト……聞こえるか?」
レイズが真っ暗なタブレットの画面に映っていた白いボタンを押すと、画面全体にノイズがかかった後にそれが徐々に晴れてきた。
アスクと初めて話した時とほぼ変わらない様子で木槿が画面の前に座っている。
「聞こえてるわ。そちらから話しかけてくるなんて珍しいわね、どうかしたの?」
木槿は淡々と画面外にあるマウスを動かしながら、タブレットの画面上に何かを映し出した。
「なんだこれ……『地球治安維持組織ブライツ、突如来月から領空の警備強化を発表』……?ねぇミカさんに木槿、治安維持組織って何?ブライツ……あと来月って何……?」
腕を組み、頭どころか体まで傾け始めているアスクをレイズが支えている。
「治安維持組織、私達が都市を守っているのと同じように、地球を守っている人達の事よ。ブライツはその地球にある様々な治安維持組織の中で最も勢力の大きい組織。えーっと、来月っていうのは……。」
レイズが『日付』の概念をどうアスクに説明すれば良いか考えていると、木槿が画面に映し出されていたニュースを最小化しながら口を開いた。
「それについてはこちらに来てもらった後で俺達が教えよう。とりあえず、今書いてあった文章が俺達に示していることは『近いうちに月と地球で何かを送りあう事はできなくなる』って事だ。ロベリアが作ったライボットについての映像を見ていたようだが……悪い、前倒しで地球に来てくれ。」
――――――――
地球、龍妖彩の列島にて。
「こりャ……『傀儡師』の仕業かもしれんな。」
「『傀儡師』?」
鬼のような角が生えた大柄な男と共に、背の高い桃色の髪をした少女が黄金色の目でテーブルの上に置かれている物体を見つめている。
「十数年前に起きた争いの中で暗躍していたと噂されている『人の死体に加え、虫や獣の死骸を操れる能力を持っていると言われている彩人』の呼び名だ。」
「えっ……そんなやばい能力持った人が戦場なんかに居たら……そんなのやりたい放題じゃん!」
「その能力が戦争の中でどれほど役に立つか、ソイツ自身も自覚していたんだろうなァ。色んな勢力から金を積まれては暴れ回り、正にやりたい放題していたと聞いているが、『ブライツ』によッて争いが終結に導かれた後は影も形も無くなッている……。用済みとして消されたのかと思ッていたが……まさか俺の娘を盗撮しに現れるとはなァ。」
2人の前に置かれている壊れたドローン。
外れた外装の隙間からは、基盤に固定されている虫の死骸が見えていた。
「……そういえば、彩人の奴らン所の長男もお前がコレに出くわしたのとほぼ同じ時間に盗撮されていたらしいぞ。中身もやはりコレと同じだそうだ。」
「えっ!?『月長』君も……!?『円卓主』の家族を狙って撮るなんて……なんか嫌な感じするね……。」
「あァ、コッチの気分を悪くしてきやがるような真似しやがッて……ま、しばらくの間はブライツがお前達の登下校の警備についてくれる事になった。来月からはまたコスモス大陸以外の全体の警備を強化するようだし『傀儡師』も動きづらくなるだろうが――」
「あ、そうなんだ!なら結構安心だね!」
巨大な男が腕を組みため息をつく。
「……なァ八美、ブライツがどうして来月から突然警備を強化する気になッたと思う?」
「え、うーん……そういえば……確かに!どうして?」
「ブライツが壊滅させた様々な犯罪組織が持ッていた多くの拠点の中から多くのライボットと、ライボットに装着して使う用の狙撃兵装やミサイルを発見したからだ……ッて、ブライツ空軍にいる俺の知り合いは話していた。」
話を続ける度に、背の高い桃色髪の少女の顔は一喜一憂している。
「狙撃兵装に、ミサイル……。」
「何が起こるかなんて俺にも『オーダー』にも、誰にも確実に分かりはしねェからな……気をつけろよ。お前は俺の自慢の娘で……世間にとってもトップクラスに大切な妖人なんだからよ。」
「……わかった!」
八美が不安を振り払うように強く頷くと、巨大な男は歯を見せて笑っていた。
「……そうだ。今言ッていた十数年前の戦争についてなんだが……1つお前にも話せる面白ェ話があったな。」
「面白い話……?戦争で……?」
「いや、まァな……。『傀儡師』とは別にあの戦争の中で暗躍していたとされている連中の1つに『死神部隊』っていうのがいてな、その隊長だって言われてる彩人の噂が面白ぇのさ。」
「いかにも伝説か噂って感じの部隊名だね……それで、そこの隊長にどんな噂がたってるの?」
鬼のような角が生えている大柄な男は静かに笑う。
「実はな……ソイツは能力を持っていない『アズノーン』な上、黒目黒髪の男でありながら、戦争の最中で一度も攻撃をくらうこと無く、自分でカスタムした銃を2丁だけ持ッて多くの敵を屠り続けたって言われているのさ。『不死身の死神隊長』なんて呼ばれながら、最後にはソイツだけ戦争を生き延びて消えたんだと……オーダーと殺りあった後に生き残ッて共闘した事もあるらしい。」
「……はぁ!?そんな人いるわけないじゃん!誰そんな奴の事パパに教えた奴!オーダーさんの事も遠回しに馬鹿にしてるよ!これは……私がじきじきに探して殴り飛ばさなきゃ!!きっとソイツが死神隊長なんて噂の根源だね!パパと話せるならソイツも結構影響力持ってるような人だろうし……」
「前の『円卓主会議』で会ッた時にオーダー本人から聞いた。」
八美が目を丸くして男の方に振り向く。
「オーダーさん本人から!?じゃあもしかしたら本当に……。」
「いるかもな……地球最強の秩序と渡り合ッたアズノーンは。気をつけろよ、回転式拳銃のグリップにナイフの刃を取り付けた武器を持っている奴がいたら……ソイツはほぼ確実に不死身の死神隊長だ。」
「そんな変な武器使ってるの!?」
――――――――
レイズの部屋の中、アスクは首を傾げている。
「そのブライツっていう組織が僕を運ぶ事とか、アレを送るのを邪魔してくるってこと?」
アスクが、レイズが解体し忘れたまま部屋の隅に置いていたポッドを指さす。
「邪魔をしてくるというよりは、確実に止めてくる。」
「そうなの?」
「今さっきレイズが話していた通り、ブライツは地球最大の治安維持組織だ。『最強の地球人』『秩序の戦神』と呼ばれ、ブライツに入ってから今日までの間に単独で3666個の犯罪組織を壊滅させてきた『B.Ⅰ 戦神 オーダー』を始めとしたトップクラスの地球人達が集まっているブライツの本腰をいれた警備を突破できる手段は今の俺達には無い。」
「最強の地球人……オーダー……その人、僕達の敵なの?」
「……現段階では分からない。だが、少なくとも俺達より先にブライツがお前と合流すれば非常に面倒な事になる。」
再び木槿がマウスで何かのデータを開き、タブレットの画面に映し出す。
地球の表面にいくつかの赤い線で囲われた箇所があり、その赤い線が囲い作っている形は、そのすぐ隣にある列島の輪郭とほとんど一致している。
「この緑色の大地……龍妖彩の列島がこの位置にやってきた時、俺達はここでお前がやってくるのを待つ。」
赤い線でできた図形の中に、木槿がマウスを使い1つの点を追加する。
「地球を見続けるんだ。あと1つ分この大地が移動した時、絶対に地球へ来てくれ。」
「……わかった、絶対行くよ。」
「頼んだぞ。」
タブレットの画面が暗転した後、レイズとアスクは互いの顔を見た後、窓から見える地球を見つめた。
「本当はもっとゆっくり時間をかけて……ロイヤー達にも説明していくつもりだったけれど、仕方ないわ。あの大地……龍妖彩列島が所定の位置まで動いたら呼ぶから……彼女と話してあげて。」
レイズがアスクの肩に手を置き、ゆっくりとアスクの体を反対方向に向ける。
「突然、もう地球に行く事になるとはね……最後に君に伝えておきたい事がある。今すぐ底に来てもらうよ、アスク。」
扉の前でクリキンディーが佇んでいた。




