第19話「仲間外れ」(非戦闘パート、ただし重要。)
「……少し話しすぎたかな?次に亜じ……獣人と海生人について……現代に生きる『人と人以外の生物の要素が混ざった』地球人達の事だねぇ。月だけじゃなくて地球にも兎や狼とか色んな動物がいるんだけどね?人なのに兎の耳を持っていたりするのが獣人なんだぁ。竜人と違ってその動物に変身したりはできないんだけどね。えーと、海生人は……地球のこの青い場所?に暮らしてる獣人だと思ってくれればいいんだけど、こっちは他の地球人とも全く交流が無くて……最近じゃ全く見かけないから、絶滅しちゃったんじゃないか?って言われてるんだ、ふへへへへっ。」
「(笑えないわ……。)」
地球と月が回り続けている映像を見つめながら、アスクとレイズは地球についての情報を学び続けていた。
「さて……地球人の種類はこんな感じ!一気に色々教えられたから少し疲れてきたかもしれないよねぇ……少し休憩して復習しといてくれると嬉しいなぁ!それじゃ、休憩した後にまた別の事学びたくなったら、ボタン押してまた再生してねぇっ!!」
映像が消え、画面が溶け込むように壁に戻った後もしばらくの間アスクは壁を見つめ続けていた。
「竜人の闇の力……結局もう少し話したりはしてくれなかったね、気になってたのに……。」
「次に話す時は話してくれたらいいわね。そして……またお菓子を取ってきてもらってもいいかしら?」
レイズの含みを持たせたような話し方に、アスクが目を見開いて彼女の方に振り向いた。
「またクリキンディーに呼ばれてるの?」
「正解、こんな早くまた呼んでくるなんて……映像についての話でもあるのかしら?」
「それもあるね。」
アスクとレイズが首を傾げていると、クリキンディーが部屋の奥に置かれていたレイズの机の下から唐突に這い出てきた。
「あら、いつからそこにいたの?」
「ここに来たのは今さっきから……私も映像と声をこっそり聞かせてもらってたんだけど、内容についていくつか補足をさせてほしくなったんだ。」
クリキンディーがアスクへ歩み寄り、彼の手を強く握る。
「とりあえず今は、君だけにね、またあそこに来てもらうよ。」
「えっ。」
その瞬間に2人の姿が消え、部屋にはレイズだけが座りこんでいた。
レイズの部屋の扉を誰かがノックしている。
「……入っていいわよ。(なるほど、人が来てたから私だけ置いていかれたのね。)」
ゆっくりと立ち上がり、月鉱でできたヘッドホンを壁の中に隠しながらレイズは奥の椅子に腰かける。
「失礼いたします。」
扉を開けて入ってきたロイヤーが部屋の隅に転がっている空のポッドを見つめた後、姿勢を正してレイズに尋ねた。
「……アレの中、何か入っていましたか?」
ロイヤーの落ち着いた声を耳にしたレイズは、静かに指を組んで彼から目を逸らした。
「いいえ、空っぽだった。何かを運ぶための物ではなく、あれを飛ばす事自体に何か意味があったのかもしれないわ……そうそう、アスクはポッドを調べ終わった後散歩に出かけていったわ。『友達』と遊ぶ約束をしていたみたい。」
「……そうですか……。」
「……あれがまた飛んだきた時、都市に落下してきたら参事になる可能性もある。しばらくの間は都市の中だけじゃなく、上空の警戒も行ってほしい。」
「都市内に落下してきそうだと判断した場合、撃ち落としてもよろしいのですか?」
「そうね、都市内に落ちてきそうだったら破壊してしまって構わないわ。」
「なるほど……っ――」
ロイヤーが口を開き何かを聞こうとした瞬間に、偶然にもレイズの言葉が重なった。
「ロイヤーとリメイムには都市内と上空の警戒を、チェッカには都市周辺の警戒をお願いしたいのだけれど、良いかしら?」
「……はい、もちろんです。」
――――――――
「【帰還】。」
クリキンディーがそう呟くとほぼ同時に、アスクとクリキンディーはまた湖の『裏』へやってきていた。
「……補足したい事って何?」
アスクはクリキンディーの手からすり抜けるように離れ、真上で静かに波打っている湖面を見上げていた。
「あの女が言っていた竜人の『闇』の力と月人や兎や狼を生み出し続けている『闇』は……同じ所から分かれて生まれた物達だ。」
「そうなの?」
「正確にはまず月人を生み出す『闇』から獣を生み出す『闇』が分かれて生まれて……そこからまた分かれたのが地球の竜人の持った『闇』。」
アスクがクリキンディーの方に視線を移すと、クリキンディーはどこか物憂げな顔をしながら、アスクと一緒に湖面を見つめていた。
「えっ、最初の『闇』って月人を生み出す物だったって事……?」
「そうだね……アスク、あの女が最初に話してた、この世界を今の形にしたっていう『1人の人間』の事、聞きたい?」
「……うん……っていうか、知ってるの……?その人間の事。」
アスクの返事を聞いたクリキンディーは、神妙な面持ちで彼の方を向いた。
「その人間は、もっと多くの『全て』を塗り替えるつもりだった。でも『道具』に不具合が起こって…… 塗り替えきれなかった。」
「……?」
「人間は失った力や肉体を取り戻すために、その存在や、残っていた力の殆どを世界全体にばらまいた。今度こそ、世界を完璧に塗り替える……塗り潰す事を決意しながらね……そして、今から少し前に恐らく人間は世界を塗り潰す前に支配下に置こうと行動に出た……いや、出させた。でも、また失敗した。」
「……えっと、つまりどういう事!?今の世界を作ったその人が、また世界をどうにかしようとしてるってこと?」
確認をとろうとするアスクの背後に回りながら、クリキンディーは自身の踏みしめている湖の底を見下ろした。
「……アスクは、塗り替えられる前の世界に暮らしていた人々は、世界が塗り替えられる時、どうなったと思う?」
「……存在ごと塗り替えられた?」
「惜しい……塗り潰されたんだよ。彼らの存在が完全に塗り潰され、消された世界の上に、私達は暮らしてる。私達は塗り潰された後の世界に、新たに描き直された人類。」
「1人の人間が……昔の皆を完全に消して、今の皆を作ったの?そんな事、人間にできるの……?それと、なんでクリキンディーは、その人間とか、前の世界についてそんなに詳しいの……?」
アスクが困惑した様子でクリキンディーを見つめる。
スリエルの本能は、彼女が一度もアスクに嘘をついていない事を示していたから。
「さっき言ったでしょ?私はレイズよりも、どの月人よりも長く生きてるんだよ。最後に……アスクがそう考えた通り、人間と呼べる存在は1人で世界を滅ぼしたり生命を生み出したり、そんな滅茶苦茶やれるものじゃない。世界を塗り替えた奴は……正確には『普段人間の形をしているだけ』の化け物だったんだよ。」
聞き入る事しかできないアスクのまわりを歩き、最終的にクリキンディーは彼の正面に立った。
「必ず覚えておいて、私や堕天使以外に『世界を塗り潰した人間』の……『夢の支配者』の話を知っている人物がいたら……絶対に近づかないで。もちろんロベリアにもね。アイツらは確実に、貴方へ牙を剥くよ。」
クリキンディーによってフードの隙間にお菓子を差し込まれながら、アスクは彼女に質問しようとした。
「……ん?ねぇ、つまりそれって――」
「【送還】。」
「……あら?アスク、おかえりなさい。」
唐突に部屋の中央に現れたアスクを持ち上げたレイズが、フードの隙間からお菓子の入った銀色の包みを抜き取った。
数度瞬きをしながら状況を確認した後、アスクは不機嫌そうな顔でうつむいた。
「……今の時期は皆の顔がよく曇るのね。」
――――――――
湖の裏、クリキンディーは波打つ湖面を見上げながら、以前に交わしていた堕天使との会話と『アスクの服の背中についていた模様』について考えていた。
――堕天使と紫雷が月の都市へ襲来する少し前……。
「湖の底……いや、裏にこんな空間があったのか……ねぇ、ここで私達も――」
長髪の堕天使が辺りを見回していると、クリキンディーが冷静さを失った様子で堕天使に叫んだ。
「何が起こってるの!?突然あなた達どころかアイツらまでやってくるなんて!!それぞれ目的は何なの!!!!」
クリキンディーの怒りに気圧された堕天使が、少しだけ俯いて呟く。
「200年前。」
「200年前……?」
「そう、200年前だよ。地球で何が起こったか見てた?」
「地球にある『四角の大陸』が突然光って4つに割れた……これは推測だけど、あなた達が――」
「いいや?私達は確かにあそこで戦ってたけれど、アレをやらかしたのは『1人の彩人』だ。」
堕天使は湖の底をうろつきながら、湖面からそのまわりにいる月人が見える事に気がついた。
「その彩人はね、ルールから抜け出したような滅茶苦茶な奴でさ……1発のパンチで、『支配者の計画』を大陸と共に砕いてしまった……そして彼の力は未来に生きる者達にも大きな影響を与えた。」
湖面から月人達を観察している堕天使の背中を見ながら、クリキンディーは何かに勘づいた。
「200年……そうだ……月でも……!」
「私はね、今の今まで疑問に思ってたんだよ。アイツが残した物にしては少なすぎるって……。今まで発見できなかった最後かつ最大のピースを、私達はやっと見つけた。情けないけど、連中とほとんど同時にね。」
堕天使がクリキンディーの方へ振り向き、剣に埋め込まれている翠の宝石を静かに輝かせた。
「3勢力が入り乱れる中、どさくさに紛れての形になるけれど……私達が連れて行かせてもらうよ――……――、アスク・スーリエルをね。」
閑話? [ 出禁 ]
湖の『裏』、堕天使とクリキンディーが交わした会話の一部。
「……フフッ。」
「……?何を見て笑ってるの?」
「いやぁ……やっぱり下、裏からはよく……"見える"なーって思ってさ。」
「……。」
「あ、もしかして覗きの趣味があったからここを根城にして――」
「あなたをここに置いていこうかな。」
「ごめん……私にもやりたい事がまだまだたくさんあるし、そんな趣味ないから……困るなぁ……あ、でももしかしたら?たまにミカもこの上に来――」
「安心して、二度とここには呼ばないから。【送還】」




