☆カオス☆
今回は今までより直接的な戦争の描写が含まれます。苦手な方は読むのをやめてください。
ダラニに向かう道中に合流したマリたちを交えた。思ったより淡泊な再会は安堵からなのか、拒絶からなのか。
あやふやで不吉で。でも、笑みがこぼれた。それはなぜなのかは分からないけど。
ダラニでは3班に分かれることにした。私と堕霊3人と天使3人は妖器を提出しに、ほかはマニ班と、マリ班だ。
私たち以外は観光をしていて、後で合流すればいいということになったのだ。
「静かだねぇ」
セレイアの言葉にため息混じりに、
「たった今うるさくなったところだよ」
と、返答してやった。他愛のない会話をただし続けているといつの間にか古い工房についていた。
そこが妖器を作った大鍛冶師の弟子工房らしい。確かに、そう思わせるようなただならぬ雰囲気を纏っている。
「こ……こんにちは……?」
古くなって軋む扉が悲鳴を上げる。耳障りなその音に思わず目を細めた。
ハンマーが振り落とされるたびに火の粉は赤い鉄から逃げていく。
ピクリと肩を震わした鍛冶師。防護メガネを外した彼は私が引き連れる仲間の異質さに気付いたようだ。
「んだ」
怒っているかのような声色。まるで私たちを試しているかのようだ。
「妖器を強化して欲しいの」
「置け」
彼は私に机を"それ"を置けと顎でしゃくって伝えてきた。
だから私はいくつかの妖器を机の上においてみた。すると彼はのそのそやってきて乱雑な仕草で取った。
そして口角を上げた。
「おもれぇもん持ってきたな」
筋骨隆々の彼が真っ白な歯を少し開いた唇から見せながらそういった。職人魂故なのか興奮気味なようだ。
「これが月片と報酬よ」
ルトナ公国で給料として貰ったものをそのまま提出する。
「いい態度だ。だが、そんなに早くは終わらない。そこらで2日くらい待っとれ」
袋の中身も確認せずに工房の奥まで行ってしまった。
「行こうか」
私は振り返ってそのまま工房をあとにした。
マニたちは大きな荷物を背負っていた。
「これはね食べ物でしょ、こっちは宿泊用具。こっちは、姉ちゃんいつまでもボロいテント使ってるからあげる」
そう言われて思い出す。そう言えば追放されて以来、同じテントを使い続けているんだっけ。
あの時も吐いた息が白かった気がする。体が震えて、コートを取り出す。
視界を上げると星空が低く見えた。
「あの星のあの星つなげたら姉ちゃんみたいになるよ」
そう言ってはにかむマニの表情に釣られて笑う。空から見下ろす歪な"私"に誓う。
すぐにこの愚かな戦争を終わらせます、と。
でもそんなしんみりした空気を壊すように、
「で、早く天使を出してもらっていい? あのあとからずうっとスキルの使用を阻害するんだ」
口をとがらせてマニがそう言った。
別に勝手に出して名付けしてしまえば良いのに。そうは思うが口には出さない。
彼女が不機嫌になるとどうにも雰囲気が悪くなり、しばらくこき使われる。しかもすべての行動を監視するのだ。
「出してもらっていい? そしたら対処できる」
すると彼女は頷いて素直に天使が現れた。それを空中でキャッチする。
『静空ノ五輪』である彼女は少ししてから私の腕の中で目を覚ました。
「う……」
起きた彼女は朦朧とした意識の中で確かに私を拒絶した。頬にストレートビンタの一撃が走る。その拍子に私の腕から出てしまった。
するとトルンが『静空ノ五輪』を見下ろすように立ちはだかり、ひと言、
「おい」
と圧をかけた。光のない瞳孔を『静空ノ五輪』に向ける。
「……あなたは『深雷ノ五輪』様……?」
そう『静空ノ五輪』が聞くとトルンは苦虫を噛み潰したような顔をして、
「その呼び方はやめて……むず痒いの」
と拒んだ。そんな堂々としたトルンと肩を組んで舌を出してやった。
「トルン、もっと言ってやって」
しかし私がトルンに触れた瞬間トルンは固まってしまった。あれ、そろそろ耐性ついたかと思ってたぞ。
「トルン?」
彼女の目の先で手を振る。いきなり体がこわばって、
「オ……オ……オリヴィア様!!!??」
どうしちゃったんだコイツ。
「まあいいや、私はオリヴィア。そうだ、君には言わないとね
私はそこまで言って息を整える。『静空ノ五輪』を取り囲む空気は依然変わらない。
「聖神を殺したのは私。文句があるなら受け付けようか?」
聖神の"忠誠の部下"とかだったら敵対は避けられないのだろう。
私は静かに彼女の動きに注目していた。
「アイツを……? 人には為せぬ芸当だ。ふざけたことを抜かすな」
「おいおい、オレの主様を貶すか? 怒るぞ??」
ルーヴァも乗ってくれた。やっちゃって!!
すると少し怯んだのか、声量を下げ、
「ウチらの悲願だ。ただ、信じられぬ。それに主が亡いウチをなぜ助けた」
鬼気迫るとはまさにこのことなのだろう。
落ちついたまま冷静に答える。
「助けられるなら誰だって助ける。利害の関係が生まれないのなら、ね」
私はそう言ってやった。なるべく波を立てないように。
「だから、帰りたいなら帰ればいいし、残りたいなら残ればいい」
「……考えさせて」
「いいよ」
彼女は残るのだろうか?
正直、選択肢を与えたくはなかった。どうにかして彼女を手元に残したい。
「マニューバ様、これは……?」
パウロが困惑した顔でマニに聞いていた。
マニは自信満々に、口を開いた。
「これ、内緒ね」
ぐっと顔をパウロに近づけてコソコソと話し始めた。そんなマニの後ろから近づく。
パウロは気付いたようだが、苦笑して見逃してくれた。
そろそろ会話の内容が聞こえてきた。
「────ントとして、へそくりから出したの。姉ちゃん喜ぶかな……」
そう言った彼女は姿勢をもとに戻した。危うく彼女の頭が私のあごに当たりそうになった。
音を立てないようにその場から離れる。
寒い外に戻って、火照った頬を冷やす。
「オリちゃ〜ん、焚火眺めるのもいいのよ〜」
私は誘われるまま、炎に近づく。
黒に染まった木の枝の上で踊る炎は私を魅了した。小気味いいパチパチという音が性懲りもなく繰り返される。
「いいね、これ」
セレイアの肩に頭を乗せて炎を見守る。
セレイアは優しく笑って、スキルで椅子を用意してくれた。それに腰掛けて促されるまま太ももに頭を預けた。
柔らかいような硬いような彼女の脚はなぜかとても安心感があった。
いつの間にか炎が小さくなっていて、多くの仲間がうたた寝してる中、セレイアの太ももに頭を預ける私に『静空ノ五輪』が話しかけてきた。
「やっぱりウチ、辞退するわ。あんたらの邪魔になるだろうし」
「そう、いいと思うよ」
そのくらいの返答では狼狽えない。
ちゃっかりスキルを発動させ『静空ノ五輪』のスキルに干渉する。これで多分、いいハズ。
振り返って私に背を向けたまま、ポツリとなにかを言った。
「……とめないの」
「とめないよ。あなたが考えた結果なら」
揺さぶってけ! 人手なんて多ければ多いほうが良いんだから。
「────はぁ、気が変わったわ。あんたらを信じる」
お、キタキタ。
私はかったるい身体を起こして彼女に右手を差し出す。
『静空ノ五輪』も私の手を包むように握手をしてくれた。
「最後の妖器は、ステージにあるわ」
『静空ノ五輪』の言葉は私たちの道しるべとなった。
ダラニのキャンプを抜け出して、妖器を受け取った。碌な会話もない。彼らしいと思った。
そして、また数日かけて戻ってきたステージ本土はまるで戦争の気配はなく、賑わっていた。
「おかえりなさい。よく帰ってきましたね」
温かく迎えてくれたのはギルドマスターだった。そして、
「貴方がたが求めるのはこれでしょう?」
そう言って差し出されたのは槌と、見たことのない琥珀色の武器。
「こちらはあの騎士が持っていたものです」
その武器は刀と、そして片手に手裏剣を呼ぶという特殊武器。
そして、槌の方は妖器だった。
「終戦を、祈ってます」
「オリヴィアさん。あなたは『黑位』なのですから、きっとできます」
優しく笑う彼の期待に添えるよう、決意をする。私は今から父を殺すのだと。
音が轟いた。
どこかの国が、爆弾を使ったのだろう。
ロニの大樹の上から爆風と衝撃波が訪れる。街の中心、軍需の中心。真夜中の話。
皆が家にいた。それをすべて吹き飛ばして、人を殺していく。
拉げた建物から腕が飛び出している。血も出さずに死んでいる人すらいた。
多くの魔力がこもった爆風が人の魂を傷つけた。それは致命傷で、あっという間に命を奪った。
魔力が広い空を覆い、目的を果たしきれなかった魔力は術者の属性を成し降った。
炎が、水が、風が、土が、雷が。阿鼻叫喚の渦巻きはすぐに途絶えた。
この事実はほとんど広がらなかった。なぜなら、その場にいたすべての人が死に絶えてしまったから──
──あとになってそれは『協律能力』によるもので、10人程がかりで行われたものだったと公表された。
バル、バナー、ブナ、ビル、ベリタ、ビア、ブク、ベタ、ボン、ボリツ──。
彼らは淡々と、人を殺した英雄として歴史から忘れ去られていった。
大海原ノ鉄槌
青色のおおきな槌武器。丁寧に彫られた文字は『海坊主』。
無垢な筋肉と、万象の智慧を必要とする武器。
大海原を守る智慧は杜撰で汚い。ならば、純粋な海洋の加護を筋肉に託すべきだろう。
大きな船すらも砕くこの槌は広大な宇宙すら凌駕する好奇を求めた。
とめどない好奇を失った時、人は信仰を失う。光なき世で縋る『シンコウ』ほど醜いものはないのだから。
私が探求を捨てた時、それは髪すらも黒く染まった時だろう。
燦陽の母刀
太陽を塗ったような色の沿った刀。
ある日戦った老婆が戦闘に用いた物。念じることで手裏剣を生み出し投擲ができる。
月魄の力と、機構の技術で作られたこれはいつからか消えた太陽への祈りの象徴になっていた。
消えたものを飾れる道理もないというのにただ浅慮に縋る。
人を惑わす光の球は──だが、私の心を頑なに拒絶し続けている。
八重喰ノ龍
双鞭のこの武器にはヘビのような紋章が掘られている。鍔には4匹づつの龍が象られ、それぞれが宝石を喰らっている。丁寧に彫られた文字は『八岐大蛇』。
これらはどの属性とも相性が良くどのエンチャントも高性能を発揮する。
ヘビの血を持たなければこの武器は握れない。ヘビと言う呪いを背負うならばこの武器が助けてくれるだろう。
だって、いつの世もヘビは義理堅いのだから。
使えば使うほどこの武器に魅了されていく。だから私は手を出せなかった。
鳴奏ノ慈鎌
欠けた月のような刃を持った武器。昏い月の欠片の一振り。黒き炎を宿す。
すべての斬撃のあとに音の衝撃を呼び体内から破壊する。槍のときには見えなかった刃は穢れを取ることで見えるようになった。
丁寧に彫られた文字は『鳴釜』。
コレを握るなら、覚悟をすることだろう。鳴釜の加護のもとで。
明るい月夜の果てで、私はこの武器に命を預けられるのだろうか。
大樹ノ幻弓
滑らかな白の弓束はとても握りやすく作られている。丁寧に彫られた文字は『木霊』。
幻の矢を3本同時に放ち敵を追尾する。その様は木の洞をすり抜ける風のようだという。
止まることはなく、ただ単純に射手の意思に沿う。
過去の神が私に与えた、私の祈りに応えぬ武器だ。
死骸ノ聖剣
白い牛の意志を宿した直剣の武器。丁寧に彫られた文字は『白鐸』。
ブレードには3つの瞳があるとされ、それぞれが『人格』『領域』『時間』を理解する。その情報はすべて持ち主とリンクし、他の仲間に伝達される。
聖なる王であった者はいずれ朽ちていく。それは罪人であろうと同じである。
ならば、人間は生まれながらに悪なのかもしれない。
私はいつか、この醜い世界を去ってしまいたい。




