☆邂逅☆
塔で神に話しかけられた。今は仲間全員が出揃っている。
『未来に柔軟であるのなら、世界に苛烈でありなさい』
その声は無機質でありながらどこか熱意があった。
『12の命を乗り越えた貴女は妖を捧げ、一人待ち続けるイノース・マーサの元を訪れなさい』
私のスキル収納の中から抜き出されるように武器たちが手元からいなくなる。
時計盤のような天井が妖器の力で消えた。役目を終えた妖器たちはそれぞれの手元に飛来した。
私には『黒鬼』。
マニには『青鬼』。
ヴェレーノには『赤鬼』。
マリには『八岐大蛇』。
マルには『河童』。
セレイアには『猫叉』。
サヴダシクには『鳴釜』。
フィヤルナには『妖狐』。
ルーヴァには『海坊主』。
トルンには『木霊』。
ヴィーヴルには『天狗』。
ザキルには『白鐸』。
そして、カオスには『鵺』兵装。
だが、オベイールとヴィエロには武器がなかった。何とも思ってなさそうなオベイールと少し気まずそうに指を絡めるヴィエロに向けて、
「えっと……すこし見劣りするかもだけど」
私はそう前置きしておいて武器を渡す。洋館で戦った機兵がもっていた鞭とそこでもらった直剣をそれぞれオベイールとヴィエロに渡した。
「ありがとな、オリヴィア」
「ありがとうございます。オリヴィア様」
それぞれの感謝を受け取る。
二人に感じていた違和感もだんだん取れてきている。心のざわめきは消えないとしても。
最後の景色にふさわしい。そう思えるほどに明るいこの場所は外界とは完全に隔絶されているようだ。
「来たのか」
瞑想をやめ、立ち上がった義父は一切の油断がなかった。
「随分遅かったな。神を殺してからすぐ来れば良かったものを」
片刃剣を握る手が震える。手汗が止まらずズボンで拭う。
自分の息がうるさい。鼓動が止まらない。
「15……か。神を殺すにはちょうどいいのかもな」
魔力は私よりも義父のほうが余程多い。
「神ノ御力 爆炎剣技」
私の片刃剣が鈍い音を立てた。危なく腕が折れるところだった。
「マニュリカ、貴方をなめていた。素直に認めよう」
次は躱して見せる。
「捨てた名だ。俺は今の名を気に入ってるんだ。と言ーかお前、魅了を目の敵にしてきたというのにお前が使ってるのなら目も当てられねー」
「私が神ではないのを知っていてか?」
イラッとして言い返してしまった。
戦場において怒りを抱いていると刃がブレてしまう。
「良いな、その怒り」
「もう聞き飽きてきたよ。もうないなら殺す」
「お前に俺は殺せない」
「いや、私ならお前を殺せる」
切っ先を義父に突きつけるように持つ。
「お前が雑用じゃなかったら俺の傍に居たかもな」
「灰化能力 黒・料理屋」
最後の戦いは私の手で始まった。
黒き炎が乱立した。
お父様はそれを全て避けてお姉ちゃんに迫る。
私はそれに横から突っ込んでお父様との近距離戦を始めた。
『青鬼』は私の手に寄り添うようにフィットしている。
「呪いが1つ、2つ、3つ……いや、3つ目は脱してたのか」
トルンさんとマリ、そしてパウロ、いや、ザキルの顔を順番に見ながらそう言った。
「神言 白紅華ノ風夜月」
ザキルの手のひらから現れた炎は風に乗って渦を巻いた。それは黒く染まりお父様の手を掴んだ。
だが、振りほどいて彼は私に迫っていた。
「マニちゃん!」
ザキルの言葉でギリギリ躱せた。
まさしく油断していたと言える。
お父様が持つ武器を観察する。そしてすぐに分かった。アレはスキル由来のものだと。
つまり武器破壊による弱体化は不可能。地道に魔力の消耗を誘うか、高火力で片付けるか。
だが、前者も後者もともに現実的とは言えない。
前者はお父様の魔力が無尽蔵であるということ。神は生きた年数が増えるごとに加速度的に総量が増えていく。
だが、それだけでは説明がつかないほど総量が増えている。考えられるのは。
「母様を殺したな」
自分でも驚くほど低い声だった。
「ああ殺したぞ。濃厚な魔力だった」
そこを狙い撃ったトルンの『木霊』の矢は当たらずに消滅した。
「マニ」
上から降ってきた声はお姉ちゃんのものだった。それで一気に憤りが冷めた。
マリが『八岐大蛇』で攻める。その攻撃に父が反応して振った攻撃をマルが『河童』で防ぐ。
「灰化能力 黒・料理屋!!」
お姉ちゃんの『黒鬼』は黒色の炎を纏って父に迫った。父はそれを弾いてお姉ちゃんの胴に蹴りを入れた。
私はその隙を狙って『青鬼』で攻撃をする。セレイアさんも『猫叉』で協力してくれたのだが、それを避けられて隙のあった背中に、父は、
「神ノ御力 爆炎剣技」
スキルを放った。スキルで守ったから大きな怪我には至らなかったがやはり無茶だったようだ。
「故夢 牲忌末」
黒色の塊が途切れることなく父に向かって飛んでいく。
「獣力 黒・甓黎!」
「故夢 幻夢弓!!」
マルが岩を使って足場を生成してそこにお姉ちゃんが飛び乗る。
その動きを読んでいたセレイアさんが鎖のついた矢を放って拘束を試みているようだ。
だが、一切目で追えない動きで鎖を切り刻んでお姉ちゃんの首を狙っている。
「オリ!」
空中で父の一撃をそらしたのは『赤鬼』を握るヴェレーノだった。
サヴダシクさんもヴェレーノに続くように父に『鳴釜』を振るう。だが、その鎌は淡々と流されている。
「聖遺霊 大地ノ虚虹!」
「聖遺霊 氷ノ残骸」
それを助けるようにヴィーヴルさんとオベイールがスキルを放った。
サヴダシクさんは地面に降り立ち、父を睨んだ。
「魅惑、洗脳、或いは甘言。神ノ摂理 神の恵み」
父はイオアンのスキルを使った。その驚きで私の足が縺れた。
光の塊が地面に当たった途端爆発が生じた。慌ててスキルでその爆風をやり過ごす。
「ふむ……十分に強いではないか。なぜ負けたのか不思議でならない」
土煙が晴れた頃にはお姉ちゃんは父と一騎打ちをしていた。慌てて加勢しようと走るが、足元に糸が張られていた。
その全てが私の歩みを阻害してくる。
「故夢 生命断」
サヴダシクさんは早々に復帰して足元の糸を断ち切ってくれた。慌ててそんなことすら頭に浮かばなかった。
「こちらは? 神ノ摂理 雪の隠家」
かつてともにザキルと挑んだトートのスキルだ。当時よりもよほど凶悪になっている。
「故夢 月魄屏!」
「折角阻んでいたというのに……。まさかもう解析したのか……」
私たちに薄い防御壁が現れた。
そしてルーヴァさんが、『海坊主』を握って父の背中を叩き潰そうとしている。
「獣力 白・焰刃!」
ヴェレーノが『海坊主』にエンチャントを施す。父が翳した腕とぶつかって火花を散らす。
その胴にお姉ちゃんが『黒鬼』で斬り掛かる。それも弾かれている。デタラメすぎる強さだ。
「神ノ御力 蒼・絢爛水舞!!」
私は水の外套を羽織って父に接近する。私の水と馴染む『青鬼』は薄く青の光を帯びていた。
ルーヴァさんは父に弾かれ再び地面に着いた。
「獣力 朱・獣雷!!」
マリが私に迫る炎の玉を雷で弾いてくれた。彼女を信じて防御は気にしないことにする。
「聖遺霊 聖炎ノ溶戮!!」
「聖遺黎 黎冥天空の博愛!」
ルーヴァさんとカオスがスキルで私に防御と回復をしてくれた。
父はお姉ちゃんをいなしながら私に注意を払っている。
「聖遺霊 氷ノ残骸」
「聖遺霊 大地ノ虚虹!」
オベイールとヴィーヴルさんが父に攻撃を与えて注意を引こうとしているが、当たることはない。
お姉ちゃんは表情1つ崩さず父の動きについて行っている。
「星異物 雷ノ摂理!!」
「故夢 牲忌末」
「灰化能力 黒・料理屋!」
トルンさんは『木霊』に雷をエンチャントして放つ。ヴィエロさんは黒い光を破裂させて父の動きを一瞬妨害した。そこにお姉ちゃんが黒き炎で腕を引く。
体勢を一瞬崩した隙に私は『青鬼』で斬る。私の胴に纏わりついた糸のせいで後ろに引かれたが浅い攻撃を入れられた。
「神言 白紅華ノ風夜月!!」
「故夢 幻夢弓!」
「獣力 朱・獣雷」
白い風の刃が父に向けて飛んでいく。それを容易く避けて、セレイアさんの弓矢を無詠唱スキルで対消滅させる。さらにマリのスキルを魔力で逸らす。
その隙に父から距離を取る。ふうっと息を吐いて呼吸を整える。次の瞬間空気が震えるほどの力を父から感じた。
「神ノ摂理 神の恵み」
また来る、そう思ったのだが全く違う攻撃だった。螺旋の光の刃が8本一気に展開される。
私は距離のおかげで当たらずに避けれたが、至近距離だったお姉ちゃんは血を吐いて蹌踉めいた。
「故夢 生命断」
「聖遺霊 大地ノ虚虹」
サヴダシクさんがお姉ちゃんへの追撃を跳ね返して、ヴィーヴさんはお姉ちゃんへスキルを使って駆け寄る。
辺りを見渡すがほかは大きな怪我はしていないようだ。
「オリヴィア様を。星異物 雷ノ摂理」
トルンさんは迸る雷を掴んで投擲する。父に数本当たった。
「私は大丈夫」
血溜まりの上で『黒鬼』を握るお姉ちゃん。ヴィーヴルさんが心配そうにお姉ちゃんの動きを見守っている。
トルンさんは止めてお姉ちゃんに雷の障壁を張った。簡単には壊れない硬い障壁だ。
「聖遺霊 氷ノ残骸」
「聖遺霊 聖炎ノ溶戮!」
「獣力 黒・甓黎」
オベイールとルーヴァさんが同時に父に攻撃をする。詠唱を妨害され不機嫌そうな父にマルが追撃をする。
父はスキルを切り替えたようだ。次は炎。
私は一気に距離を詰めて足を払う攻撃を飛んで避ける。そして背中に『青鬼』を突き刺す。
だがスキルで逸らされてしまい横腹を斬るに留まった。
「面白いな、貴様らは。神ノ御力 爆炎剣技」
「故夢 牲忌末」
「聖遺霊 大地ノ虚虹!」
「聖遺霊 氷ノ残骸!!」
「神ノ御力 蒼水ノ大槍!!」
「故夢 月魄屏!」
父の炎に被せるようヴィエロさんが暗い光で炎を閉じ込めて、ヴィーヴルさんはお姉ちゃんを中心に岩のバリアを張った。オベイールは氷柱を父の顔狙って発射し、私は父の肩を狙って水の大槍を放った。フィヤルナさんは明るい幕を下ろして衝撃に備えていた。
皆のスキルで誰も被弾せずにそれをやりこなすことができた。
誰も死なずに父を倒せることを私はただ祈った。
義父強すぎるだろ。正直舐めてた。
ずっと昔に戦った老婆を思い出す。あれよりもよほどこちらの人数も戦力も高いのになぜここまで苦戦するのか。
薄い傷が私の体を覆っている。一箇所シャレにならんところもあるし。
マニがかなり頑張って戦ってくれているし、他の人達は皆サポートに回って攻撃しやすくしてくれている。
みんなの変化を喜ぶヒマがないくらいに連撃が多い。連撃はさすがに全部弾けないし、そうなると少しの被弾が時間とともにかさんでしまう。
刃先がブレないよう柄を握る手に力が入る。最後の戦いかもしれない。そう思うと高揚してきた。
「神ノ御力 蒼・絢爛水舞!!」
だがそんな浮ついた気持ちはマニのスキルで吹き飛ぶ。
気合を入れなおす。感覚に任せて振るっていた武器は再び私の手のひらに結びついた気がする。
私のそばに居てくれていたヴィーヴルに感謝を伝えて私から離れてもらう。
「故夢 月魄屏」「獣力 白・焰刃!」
フィヤルナは切れかけていた障壁を張り直し、『妖狐』で風を起こした。
ヴェレーノはヴェレーノで切れかけていたエンチャントをかけ直したようだ。だが、『赤鬼』に慣れないのか洋館で上げた大剣を握っている。
まあそれもそれでいいだろう。武器の配布はあまり得意とかは考えなさそうだったし。
そう考えながら義父の無詠唱スキルを走って避けていると、父からスキル発動の気配を感じた。
『神ノ摂理 神の恵み』が来る。次も螺旋か? 絶対避けるという決意のもと私は着々と対策をねっていく。
「神ノ摂理 神の恵み」
彼が放ったのは数百の弓矢だった。
「星異物 雷ノ摂理!」
「故夢 幻夢弓!」
「神ノ御力 蒼水ノ大槍!」
トルンとセレイアとマニがそれぞれを完全に打ち消す。それで確信できた。これは勝てる。
「故夢 生命断」
サヴダシクの赤い刃が義父の髪を裂く。パラパラと舞う髪は義父のプライドに揺れているような気がした。
その証拠に義父の額は血管が浮いているのが分かる。
「聖遺霊 聖炎ノ溶戮!」
「聖遺黎 黎冥天空の博愛」
ルーヴァとカオスがスキルを放つ。ルーヴァの炎が義父の右耳を掠め、カオスのワープで近づいたザキルが『白鐸』で左耳を切り落とした。
「聖遺霊 氷ノ残────」
オベイールのスキルに重ねるように。
「どいつもこいつも、目障りだ」
対処が遅れたオベイールが吹き飛んだ。
さらに、がら空きのオベイールの胸を光が貫いた。
他の人が怯んだらそのまま負けてしまう。
急いで戦況を立て直さないと。
「慌てないで!」
そう叫んだのはマニだったら、それにハッとして気を取り直す。
「スキル 幻夢弓」
セレイアが赤黒い弓を放つ。いつもよりも大きい力を感じる。
すると何故かいきなりセレイアから炎のようなものを感じた。彼女の胴体の中央に見えるそれは高尚なものだった。
辺りを見渡すと他の人にも大小様々な炎が揺らいでいる。スキルを使う時、それは肥大化している。
義父のソレが膨らんだ。前よりも精密に範囲を、威力を計算できる。
「神ノ摂理 神の恵み」
最小の動きでソレを避けて義父に近づく。だが、炎の色が変わって再び大きくなる。
「神ノ摂理 雪の隠家」
理解した。炎はスキルを表し、サイズは威力を表す。そしてその炎は、魂なのだろう。
炎の脈動を見逃すまいと集中を深める。
セレイアも、サヴダシクも、フィヤルナも。ルーヴァ、トルン、ヴィーヴル、カオスにオベイールも。
皆の魂が大きく変化を繰り返す。
「灰化能力 黒・料理屋」
いつも通りスキルを放つと魔力が無駄に動いているのを知る。霧散していく魔力をどうにか最小限にしたい。
「神ノ摂理 雪の隠家」
鋭い眼光が私を補足し、飛び交う雪の光線を完璧に避けきる。
「神ノ御力 爆炎剣技」
延焼を避けて一気に間合いを詰める。魂の揺らぎを見て一瞬の隙を見極める。
私の呼吸と同時にトルンの『木霊』が飛んで、ヴィーヴルが『天狗』を持って横に飛んできてくれた。
「無駄だ」
ヴィーヴルの『天狗』を弾いて私の集中を削ぐ。足に何かが突き刺さって痛みだした。
身体を無理やり前に突き出して首に刃を当てる。『青鬼』が『黒鬼』の峰に体当たりして刃が横に滑り出した。
「獣力 黒・甓黎!!」
空中に浮く私の体を上に飛ばしてくれた。何とか義父の攻撃範囲外だ。
「不快極まりない」
義父の声が鳴る。その時、黒い刃状の攻撃が飛んできた。空中で身を捻って何とか避ける。
「死夢 幻夢弓!」
義父の首は切り落ちたはずだ。魂は小さくなるどころかどんどん太っていく。
『黒鬼』じゃ決定的な勝利には至らないようだ。
セレイアの弓矢が父の胴をくり抜く。
私は空中の体を着地させ、『黒鬼』に黒き炎を着せた。
「スキル 月魄屏」
真っ白な帳が周りの雑音を取り除く。視界が義父にのみ注がれる。
『八岐大蛇』を持ったマリが義父に急接近する。
「蛇が出るか邪が出るか」
三日月型の刃が飛び交う。『黒鬼』で弾いて最小限に留める努力をする。
マニは『青鬼』で迫りくる攻撃を対処しているが浅い呼吸をしていて体力の限界を隠しきれていない。
マリは至近距離の威力で耐えきれずに吹き飛ばされる。それをカバーするためにその間に入り込むが追撃はこなかった。
(オリヴィア様、オベイールの魂を掃除してやってください)
ヴィーヴルが私に向けて念話でそう言ってきた。でも、それはオベイールを殺すことを指す。
(それは……出来ないよ)
ヴィーヴルが私に視線を刺す。その圧に負けて前線を下がった。
(お姉ちゃん)
マニの言葉の真意を受け取る。許可は出さない。彼女の優しさに溢れた言葉に突き動かされるように全力でオベイールのもとに向かう。
そこではルーヴァが戦闘スキルを打ちながら付き添っていた。
私への攻撃をヴェレーノが『赤鬼』で防いでくれる。
「オリ……ヴィア……」
私があげた鞭は手から名残惜しそうに離れている。
「喋らなくて良い」
簡単に彼の体を見るが、魂が消えかかっているのがわかった。
「オリヴィア様」
分かっている。スキル、掃除屋で彼を吸収することで彼のスキルを使えるようになるらしい。
つまり彼の魂は私の中に不完全ながら残留する。
「良いんだね」
オベイールは小さく瞬きをした。それを頷きと見て彼を"掃除"する。
「私の灰化能力の中で……静かに眠っていて」
光がほつれるように揺れて、オベイールが私に溶けた。
力を入れて一気に立ち上がる。絶対に勝つから。
そう誓ってまた戦場に戻る。
「神ノ摂理 神の恵み」
その光の球を全て消し去って力いっぱいに叫ぶ。
「絶対に、負けない!!」
義父のスキルがだんだん強くなってくる。人数の利点を最大限に使っていこう。
ヴィエロは後ろからスキルを放ち、マリが『八岐大蛇』で義父の攻撃を引いている。そして、それをマルが『河童』で防いでマリの攻撃を持続させているようだ。
マニが『青鬼』で義父の隙を作り出し始め、ヴェレーノが『赤鬼』で強化されてスキルのターゲットの分散を誘っている。
トルンが『木霊』で執拗に攻撃をして小さなダメージを稼いでいて、ヴィーヴルが『天狗』で変則的な攻撃を始めた。
その直後サヴダシクが『鳴釜』で腕を刈り取り、それに触発されたようにフィヤルナが『妖狐』の風で肩を切り裂いて、セレイアが少し遅れて『猫叉』で背中を深く傷つける。
その傷が癒える前にザキルが『白鐸』で颯爽と現れ引いた視線の中で『鵺』兵装で静かなカオスが奇襲を仕掛け冷静さを奪った。
そして、ルーヴァが『海坊主』で決定的な隙を作ってくれた。
スキルで多方面からの攻撃をやりこなそうとしている義父を私が『穢血を灼く者』としての役割を全うするために『黒鬼』から業炎を吹かせた。『神ノ恵技 掃除屋』で一気に加速した。
義父のスキルを全て切り裂いて首を切り落とした。
「おとうさま……」
突飛な発言は私の心を何故か揺らす。本当に私の口から出たのかと不思議に思う。
どうして今、こんな言葉が零れるのか。今までずっと言うべき瞬間があったのに。
私の手で殺した義父は表情を見せずに消えた。
溢れた涙を袖で拭う。そして、喜べないみんなに向けて。
「嬉し泣きだよ」
無理のある私の言葉にセレイアが抱きついてきた。
勢いに負けて私は倒されてしまう。
業火の途絶えた武器がカランと音を立てて地面で寝転がった。
セレイアの優しい胸元は私の顔を覆った。ずっと立ってオドオドしていたトルンも私の頭を迷いながら撫でてくれた。
「鼻水ついちゃうよ」
そうセレイアに言うと無視した上にさらに強く抱きしめてきた。
いつの間にか魂は見えなくなっていた。でも、それでよかった気もする。
そう思っていたら、いつの間にか寝てしまっていた────。
目を覚ますと柔らかいソファの上だった。体を起こすと覗き込んでいたマニにぶつかってしまった。
「ごめん」
乾ききった私の声にマニが大笑する。それにつられて部屋の中が笑いに包まれた。
ガラガラと音を立てる車輪に気がつく。
「凱旋ですよ」
フィヤルナが私にそう言ってきた。微笑んだ彼女の頬に何となくキスをした。
「特別ね」
私はそう言って窓から外を覗く。空に浮かぶ太陽が私を祝福しているようだった。
神言 白紅華ノ風夜月
神性と邪悪を持つ唯一のスキル。神でも、堕霊でも、同名のスキル持ちは居ない。
旅する中で無邪気な愛が芽生えていく。初恋とも呼べる淡い感情は仄かな夜風に震えている。
満月の日も、雨の日も、冷たい宝石を指で溶かす日も。
彼女の呪いはとっくに綻んでいた。
だから彼女の心に雷雨の日はやってこない。優しい傘がそれを阻むから。
オリヴィアの手記
私が今まで見てきて、触れてきたものを沈んだ国々の中でまとめた手記。
武器の一つ一つに名前を与え、説明を加えた。
今まで何度も読み返してきて気がついた。この手記には栞がないことに。
だから、手元の栞を挟んでおく。
後世の人たちがこの手記を読んで、私の言葉に触れて、記憶できるように。
できるなら、私の生きた形跡を辿ってほしいな、なんて。
注釈:栞をなくしたら。その時は大英雄の名において私があなたを亡くすから、覚悟すること。
追記、続編『シンコウ』を投稿し始めました。
今作テキストでのみ出てきた国 (機構国など)がメインで出す予定です。もし、興味を持っていただけたのならぜひ、読んでみてください!




