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掃除のスキルで世界無双!? ~雑用スキルで最強になっちゃった~  作者: わらうクジラ
第三章二部 夢と塔
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☆紙と神☆

城は厳戒態勢だったはずなのに兵はあっという間に減り、動けるものは多くない。

 屋内植物飼育所で花を眺める。城主としての威厳はまるでない。

 3階のおよそ半分を占めるこの部屋。持っていたワインを瓶のまま口に入れて飲む。

 その勢いでワインが口から漏れ、花弁に落ちる。

 逃げるという発想は全く無く、受け構える姿勢であった。

 多数の兵を死地に追いやった今────いや、違う。

 彼は今動けない。呪縛のように妻の姿が脳裏にこびり付いていた。

 森の中とでも勘違いしているのかアザミが揺れた。赤い炎のように見える花だった。




大きく城が揺れた。大男が倒れたようだ。

 大きな力を感じて部屋を漁る手を止めた。イオアンの勝利を確信し、また箱の中身を漁る。

 色々な祈祷具が現れ、どれも違うと周りにものが溢れていく。

 そして、見つけた。一つの武器。

 『ルトナ兵装 兵士剣』。そしてメモが落ちている。


[『夢想ノ使者(アクムツカイ)』を倒してください。倒した者が神である。私たちは祈ってやるのだから]


歪んだ信仰はいつしか本来の信仰とすり替わり、明確な区別を失ったのだろう。


[矮小で卑劣な民を守るのだ。宗教くらい私たちが決めてもよいだろう?]


毛が逆立つような悪寒が走った。今までの宗教弾圧はそういう意味を孕んでいたのかとマリは気がついたのだ。

 その時頭に声が流れる。


『重装男を倒した。食糧庫に地下への道を発見』

了解(りょ)。私達も行くね』


清らかな声を聞いて心が落ち着く。


「ここに扉あります」


マリについてきた人たちが呼ぶ声に反応する。


「開けてみ」


マリは上げた視線をまた箱に戻す。

 ドアの鍵が開く音が聞こえてゆっくりと光が漏れてくる。

 埃の混じった空気を気にせず箱の隅にある物を手を取る。


「なんだ、隣の部屋とつながってるだけか」


細かい折り目を逆らうように大きな文字が刻まれている。


[時々聞こえる絶叫はなんなのだろう。聞いてみたら『夢想ノ使者(アクムツカイ)』の声と言われた。地下に何かがあるのかもしれない]


それを読んでオリヴィアに独立通話をする。


『オリヴィア!』

『……ん? なんかあった?』

『うん。これを───』


紙面のイメージをオリヴィアに送る。

 

『なるほど。お手柄だね! ありがとう!』


オリヴィアの感謝を反芻する。

 汚いホコリに手を出して良かった。この感謝を独り占めできるのだから。

 そして立ち上がる。

 この部屋には用がなくなった。一つの剣を拾ってまた部屋を出る。




その少し前。

 イオアンは男を倒し、一番正門に近い部屋に入った。

 ここには手狭に黒いドレスが並んでいた。そのどれも薄汚ていて、壁にはカビが生えている場所もあった。

 不潔な場所にまとめて管理されているのということはメイドには人権などなかったのだろう。

 その服の山に分け入って綺麗なものを1枚拾う。

 変な匂いが混じっている。おそらく上から強い香水か何かで隠そうとしていたのだろう。


「ひどい、公爵だな」


ポロッと漏れた言葉は自分の言葉だと言うのにとても冷たく感じた。

 メイドの準備室からでてすぐ隣の部屋へと行く。

 新鮮な食料が並んだ部屋。食料庫だ。

 その隣には地下への扉を見つけた。

 城の中はなぜか魔力感知がうまくいかず、近づかないとわからなかった。

 それをオリヴィアたちと交流し、すぐにこの部屋から出る。

 そしてその正面のドアを開ける。

 全く音が漏れていなかったのだが、大音量の音楽と、綺羅(きら)びやかな光。

 黒い炎に入れ替わった街灯の色とは違った。


「くさ……」


貴族の集まるこの部屋は強い匂いが充満していた。

 扉の開く音にも気が付かずに舞踏会は続いている。

 ついてきた男性をイオアンは見つけ、彼を踊りに誘う。彼もアタイの意図に気がついたのがエスコートするように踊り始めた。

 この国の贅を尽くした部屋は一瞬で血に塗れるのだ。

 アタイら──新たな客──に気がついたようだ。


「おお……? 誰だお前ら。……っくさ!」


お前が言うかと驚きつつも、


「死ぬが良い。睡眠能力(スキル) 神の恵み」


この部屋の素質に任せた強さしか持たない者共などアタイの敵ではない。


「か……」


防音の設備によって彼らの断末魔すらも阻まれる。

 空間の能力によってこの部屋は隔離されているようだ。

 空間の五輪を持った人はいつの間にか消えていたなと思い出す。どこに行ったのか熱心に調べていたが、全く情報は出ず、捜査も打ち切られた。

 ヴェラの戦争の半ば、大銭湯を創り上げた人だったはず。なぜ探そうとしなかったのかという疑問が再燃する。

 その思考を一人の紳士が止める。


「イオアン様、これを」


感謝を伝えて紙片をもらう。

 貴賓の置き手紙だ。


[みんなアホばかり。こんな騒音に気が付かないなんて。私が今こうして手紙を書いていようとも細く高い足場で慢心とともに踊る。

 いつこの部屋に入ってくるのか。私には分からない。

 正門前の井戸。その近くに何かある。罠だと思うなら、調べなければ良い。私を殺したあなたに調べてほしいのだよ] 


面倒事だ。


『オリヴィア』

『ん、なに?』

『これを』


紙の状態を、内容をオリヴィアに教える。


『わかった、調べとく。あ、マリから通話』

『お願いね』


そして部屋をくまなく捜索していく。




ルトナ兵装  兵士剣


ルトナで作られた武器。

 美しい見た目に反して固まった血がデザインのようになっている。

 兵士は神にすがった。

 『夢想ノ使者(アクムツカイ)』を殺してください。殺せぬのならあなたは神ではない。

 早くしてください。でないとこの国は間違っているということになるから。




独立通話


二人だけのスキルによる会話。

 隠し事は二人の間に限る。

 出来るなら、私の力だけで使えたら良いのだが。




ルトナのメイド服


ところどころ傷のついた服の山から見つけた傷の少ない服。

 肌触りは悪く、見た目だけはとても良い。小さな武器を携帯できるようになっていてメイドすらも兵士と捉えているのが分かる。

 それなのに防御力はとても低い。

 洗濯があまりできていないということからルトナの腐敗具合がわかる。

 メイドの服が汚れていれば洗濯した別の服も汚れるというのに。

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