☆血の色☆
城は周りの警備も手厚く、特に見張り台の監視が強かった。
塀の直ぐ側に二つ入門を見張るように設置されていてさらに森の中にも3つほど置いてあり、それは2人づつで落とせた。
それはつまり俺たちの仕事は終わったということだ。
ただ明るい部屋の窓はのんきで、まるで昔ここに住んでいたかのようなそんな気にさせてくる。
部屋の中の細かな配置まで想像できた────。
空に浮かぶ雲の輪郭が優しく見える。
まるでドレスの刺繍のような繊細さを持ち合わせていた。
そしてラミエルの最後の雷と同時に──いや、その少し前に門が開いて大勢の兵士が現れた。
「アタイに任せな」
「待ってたぜ」
アタイがそう言ったら嬉しそうにニヤリと笑っていた。
「睡眠能力 神の恵み」
スキルの詠唱で飛びかかる兵士の動きが止まる。
やはりまだ眠っているようで、効果時間がかなり短い。
いつかの目覚めをただ待つだけだ。
止まった兵隊は簡単に拘束されて物音も立てずに連行されていく。
歩きながら、
「最初からそうすればよかったんじゃないの?」
ラミエルのもっともな指摘に、
「このスキルは今のアタイだと1回しか使えないんだ」
「今使っちゃったの?」
さらに問うラミエル。
「静止させるのはかなり力を使うんだ。だからまとめて叩ける今使ったってわけ」
パチンと指が鳴り、スキルの影響が解除された。
「入門だ」
大きな扉をイオアンが大槍で無理やり開ける。
それと同時に横の井戸で水を取るメイドを後ろから襲い、拘束する。
見張り塔はガンガン警鐘を鳴らし、城はさらに緊張状態に陥った。
なぜ今更警鐘を鳴らすのかはわからない。しかも城内だけだ。
すぐ正面に大きな階段が見えるがそこはアタイの管轄外だ。
マリと決めたのはマリが右側の部屋を、アタイが左側の部屋を調べるというものだった。
真ん中の太い廊下の真ん中に重鎧の騎士が居た。
「懐かしいな、イオアン」
彼はアタイに向かってそう言っていた。
「済まないな、覚えちゃいない」
彼の声には聞き覚えがあった。
「そうか。ヴェラに一緒に攻め込んだだろう?」
折れた斧を持って帰ったアイツか。
「やろうか」
大きく重い大斧をぐるぐる振り回し、イオアンに迫る。
地面を蹴り、斧を避けそのまま反対側に移動する。
「マリ、アンタは部屋を漁ってろ。5人連れて行け」
10人もいると流石に避けづらいし、攻撃もしづらい。
マリは察したのか走って階段の方へと進んでいった。アタイ含めて4人。十分だ。
「睡眠能力 神の恵み」
みんなの武器にエンチャントしておく。
これで武器破壊はされないだろう。
大斧を避けて刺し込むが当たらなかった。
「能力 命雷!」
雷を纏った青年が重鎧に突っ込んで横腹に刃を叩きつけるが、鎧に阻まれて傷もつけられなかった。
「能力 蝶海!」
水の蝶が辺りを舞い、力の上昇を感じる。バフみたいなものらしい。
「能力 地獣ノ爪!!」
地面を割って爪が現れ重鎧を拘束するが斧の前に全て叩き割られて消えた。
「能力 二雷槍!」
雷が2本、落ちた。一瞬動きが鈍くなったが、鎧のすき間から見える瞳は鋭く『能力 二雷槍』を使った老紳士を睨んだ。
「所詮は烏合の衆。全く面白くないな」
血色──鈍い赤──の炎が地面から現れる。
「三権能力 血・熱炎ノ渦」
アタイに向かってくるかと思い、避けたが、狙いはアタイではなかったようだ。炎に抱かれ、一人燃え尽きる。他の人は何とか免れたようだ。
彼を睨む。断末魔も上げることなく、簡単に死んでしまった。
「我には血が味方した! 血色はとても温かい。冷たい黒よりもよほど、な」
「血に縋るお前はとても醜いがな」
それを聞いてニヤけているのが分かる。兜で隠れているというのに。
「人は裏切るだろう? 裏切りもまた、とても冷たい」
「ならばなぜこの国の兵であり続けるの?」
「裏切られぬ、力を得た故だ」
彼はもう既に壊れているようだ。
血に群がる獣のように、理性も矜持も無く、ただ欲望に忠実な。力に魅了された弱き存在。
「そうか。ならば死ぬが良い。毛づくろいでもしていれば良いものを」
そして槍を突き刺す。
槍は容易く鎧を穿ち、だが、肉に阻まれた。
「餌が満ち足りているようだな。餌の時間はそろそろか?」
「ああ、そうかもな。そっちは貰えてるのか? 飢えた魔物よ」
痛覚を失った獣は、おなかの穴を気にすること無く斧を振り回す。
槍で防いで後ろに避ける。
弓を撃つが、それは斧に防がれた。
「身体が小さいのは良いな。当たりづらくて」
随分と余裕のある獣は声を漏らしながら斧を叩きつける。なんとか割って入って仲間を守る。
「一人は良いぞ。守る必要がない」
矛盾だらけの獣は血色の炎を斧に纏わせる。
「血を喰らえ、飲め。さすれば貴様も汚い黄金から解き放たれるぞ!!」
血惑った獣は血走った瞳孔を光らせる。
「もう、死ぬが良い。汚い黄金を浴びて──睡眠能力 神の恵み」
多層の刃が次々と落ちていく。
斧は何度か耐えたが、絶え間ない光の空に崩れていく。
血色の炎が一度破裂して見えたが、光が止んだ時には炎など無かった。
イオアンはゆっくり息を吐きマリを追いかけていく。燃え尽きたような三人を引き連れて。
イオアン部隊 1人、死亡
大きな音がまだ響く。
朱色の雷で扉を破壊する。右方面、奥から2番目の扉。階段のすぐ横だ。
閑散としたこの部屋はとても暗いがマリの魔力感知が敵影を捉える。
「獣力 朱・獣雷」
バリッと一閃し、気絶して倒れる。
貧相な防具と身体。きっと身分に恵まれなかったのだろう。
部屋の内装はいくつもの机と椅子がぎゅうぎゅうに置かれているが、キレイに整頓されていた。
手狭な机を見ると野菜が落ちていた。やはりここは食堂のようだ。しかも、下級兵士の。
「こんなところに入ってくるのか。革命派」
声が正面から聞こえる。
姿は目視できないが、魔力感知で何となくわかる。
「貴族か?」
「まあ、そんなところだな。然し、貴様獣人と見える。とても似つかわしくない、良い身体だ。どうだ? 儂と一晩過ごすというのなら匿ってやらんでもない」
マリの神経を逆なでするような言葉にマリは間髪入れずに応答する。
「オリに与えられたこの身体をお前などに触らせるものか。烏滸がましい」
その言葉を鼻で笑って、
「気が強いな、それもまた良い。それに、だ。オリヴィアなどという子供より儂と居たほうが有意義だぞ」
自惚れた年と金をたまたま持っているだけの能無しの吐息を浴びることが許せない。
「その発言に責任を取れ。獣力 朱・獣雷」
皮膚が焼け爛れる。
醜い声がこの部屋に響き渡る。耐え難い屈辱だ。
「黙れ。もう一度落とそうか?」
「あの! オリヴィア殿が困りますので、拘束を任せてください!」
「オリヴィア様ですよ!!!」
その言葉に慌てて後ろから訂正されている。
「あ! 言い間違えました!! すみませんでした!!」
すぐに謝罪された。
「赦そう。この舐めた男を吊るせ」
背筋に電流が流れるような感覚を味わう彼ら。
(紐で手足を結ぶたびに血が滲む。縄は赤く染まり、あまり強くやると手首、足首が取れてしまいそうだ)
そう思い、なるべく血を残さないよう思い切って持ち上げ、担架に乗せる男性が1人。
「担架を使うのか? 勿体ない。もう誰も使えないぞ」
「でも、マリ様の近くに血を残すのも良くない気がしたのでっ!!」
そそくさと部屋の窓を叩き割り、担架を外の人に渡しているようだ。受け取った人が眉をひそめ、吐きそうになっていたが、仕方ないだろう。
そんなやつの愚かな言動をいつまでも聞いていたくないのだから。
そう思いながら部屋をあさる。
そんなとき机の上のメモを見つけた。
『今日、ついに民が動き出したようだ。
我らは勝てないだろう。なんてったって向こうには蒼い水の神がいるみたいだから。
腐った政治も、消えたご子息も、変わらない体裁もようやく終わる。
私は死ぬだろう。いや、死ぬべきだ。
民の蜂起は成功する。そうあるべきなのだから』
それを仕舞い込み、部屋を見渡す。
マリは白い指を唇に当て、考える。
そして思考を止めて次の部屋へと向かっていく。
血色の炎
黒と赤の混ざった鈍色の炎。
赤は肉体を灼き、黑は魂を灼く。そして血色は精神を灼く。
天使や、堕霊には効かないが、それは彼らに明確なる精神を持たないことに起因するのだろう。
血色の顕現は世の混沌を映し出す。
私の炎はかつてこの世に火をつけた。
浴びすぎた血を祓うは血色の炎こそが相応しいのだろう。




