Ⅱ
その日もクロムは早起きだった
ここ何日かを共に過ごした中でシリアが知った事なのだが、どうやら彼はほぼ毎朝日の出よりも前、空が白んだ頃には起きて火を起こすということを習慣にしているらしい
どうやらそれは彼のルーツである流浪の民たちの厳しい自然の中で生き抜くための教えなのだという
客人であるシリアもそんな彼と共に朝のお茶を頂いたりしている中でそのことを教えてもらった
それから質問を挟みながらも薬草の手入れをする彼の見学をし、時に簡単な作業は手伝わせてもらったりもする
医術とはまた異なる薬草学とでも言うような自然の知識をその民たちは持っていたようで、シリアにとっても初めて聞く内容が多くいつも目を輝かせていた
「さて、じゃあ一旦ここまでにして早めに支度を済ませておこうか」
「はい。そうですね」
ひと区切りが着いたあたりで庭園の主たる黒髪の青年がそう声をかけ、シリアもそれに同意する
もちろんそこまでの重労働は任されていないのだけれど、それでも汗をかかないという訳でもない
今日は前もってクロムたちと街に降りると約束をしていた日だった
それがいくら自分の副官であったとしても、淑女としては乱れた格好のままで貴族の殿方の前に出ることは出来ない
もしそんなことをすれば家の者たち、中でも貴族の家の出でシリアの幼い頃には女教師も勤めてもらっていた執務官のムーシャにこっぴどく叱られてしまうだろうことは目に見えている
とはいえ市民街に降りる以上はあまりに貴族らしくし過ぎてもそれはそれで浮いてしまうし、それではいくら治安が良いと噂の王都であったとしても余計なトラブルを招きかねない
故に屋敷にも湯を沸かして貯められる桶はあるものの、今日ばかりは屋敷の横に備え付けられた井戸から汲んだ水で身体を拭く程度で済ませることになった
同様にシリアの服もいつものものよりも少しグレードを落としたのを数日のうちに彼女の副官となった青年が手配してくれている
目立ってしまう長い髪は旅をしてきた際身に着けていた外套のフードで隠した
こちらもこの屋敷へと来る前にシリアがいた客室から彼が届けてくれたものだ
そうやって自身の準備を済ませたシリアが再び屋敷の外へと出ればそこには既に同道してもらうことになるふたりの姿があった
クロムはやはり普段から行き来しているらしく、王都に出てもおかしくないような服は何着も持っているらしい
先日王都を歩いた際によく見かけたようなデザインの古着を身に付けると少し小さめの手押し車に手製の薬を入れた箱や包みを載せており、同じく簡素な服に身を包んだシェイドもその積み込み作業に手を貸しているところだった
とはいえそちらに到っては古くも使い込まれた質の良さそうな剣と剣帯を腰から吊っており、また綺麗にまとめられた紫紺の髪はおおよそ平民のそれであるようには見えず、少し目の肥えた商人などが見ればどこかの貴族の子弟のお忍びだということが露呈してしまうだろうというのが想像に難くなかった
ただ、おそらくは彼がシリアの身の安全を守る役割を担っているのだろうからこその仕方ない部分ではあるのだろうし、シリアとしてもそこに文句をつけるつもりはない




