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「あの、それなら、その……本当に私が使ってしまってもいいんですか……?」
───けれども、彼がその想い出を大切にしているのだというのは痛いほど伝わってしまって
おそるおそる尋ねるシリアに、彼は柔らかな笑顔を浮かべると頷き返してくる
「うん、嫌じゃなければ使ってほしい
ずっとこのままにしておくよりも、誰かの役に立つ方がきっと母さんは喜んでくれると思うから」
「そう、そう……ですか
じゃあそうさせて頂きますね」
「うん。お願いします」
よくよく考えればよろしくお願いするのはクロムではなく、しばらくは彼の世話になるシリアの方なのだが、しかし何故かシリアたちはそう言葉を交わすとどちらともなく微笑みあった
そして、そんなふたりのやり取りを背景に、王宮の使用人たちがどんどんと荷物を運び込み、そして部屋を整えていく
その動きにはほとんど無駄がなく、本当にごく僅かの時間ですべての支度が終わってしまった
作業を終え、彼らは立ち並ぶとやはり先程の老紳士が代表して挨拶を行う
「それでは我々は是にて失礼致します」
「うん、助かったよ」
「は、勿体なきお言葉にございます」
まるで身分の高い人物を相手にしているかのように老紳士は深々と腰を折る
それが済んでから彼はシリアの方へと顔を向けた
「メイフェルベリー子爵。どうぞクロム様の事をよろしくお願い致します」
「あっ、はい……! こちらこそよろしくお願いします……!」
咄嗟に話題を振られて、シリアは自分でもよく分からなくなりながらもそう返す
けれどもそれに孫へ向けるような好々爺然とした笑みを浮かべると、老紳士は再び腰を折り、そして使用人たちとともに屋敷から出ていった




