Ⅰ
少し白んだ空の光が採光用の小さな窓から降り注いでいる
昨晩の逃走劇でやはり疲労はしていたのかいつの間にか眠ってしまっていたらしい
暖炉の火は消えていた
そのせいか空気も冷たくなってきており、シリアが吐き出した息はわずかに白い
「ん、んぅ……!」
椅子の上で毛布に包まり小さくなっていたシリアは立ち上がると大きく伸びをした
身体が解れていく心地良さを感じつつも意識を覚醒させると、彼女はそのまま辺りを見回す
部屋の中は昨晩、クロムが出ていった時のままだ
彼が戻ってきた様子はなく、また他の部屋からも人がいる気配は感じられない
とりあえずどうしようかと思いながらも軽く身繕いを済ませ屋敷の中を歩いてみれば、まだ日が登りきらない窓の外でこちらに背を向けて焚き火をしている黒髪の人物の姿を見つけた
ーークロムさん、もしかして私に気を遣って……?
そう言えば昨晩「夜のうちには戻らない」と告げていたのではなかったか
たしかにまだ日は登ってはいないものの完全に辺りが見渡せるほど明るい
おそらくは用事はとうに済んでいるにも関わらず、こちらの目が覚めるまでは屋敷に立ち入らないでくれようとしているようにしかシリアには感じられなかった
黒髪の青年は貴族女性の事情を察した上で本当に細やかな心遣いができる人物なのだろうということがよくわかる
とはいえ日の出前こそが1番冷える時間なのだ
このまま自分の恩人が身体を冷やして風邪を引くことになってはいけないと思ったシリアは足早に屋敷の玄関へと向かうと扉を開いて外へと出た
「っ!」
冷たい空気が頬に触れ、身体が縮こまりそうになるのを堪えながらもシリアは先程の窓から見えた方向へと歩き出す
「クロムさん!」
ようやく見えた後ろ姿に声をかけると彼はゆっくりと振り返り、にこやかな笑顔を浮かべた
「おはよう、シルさん。風邪を引いてしまうといけないからどうぞ火の前に」
「あ、はい。おはようございます……あと、ありがとうございます」
そうして背もたれも肘掛もない木製の椅子が3つ並んだ前に組まれた焚き火の近くへと案内してくれる
やや大きめの石で組まれたその上には湯沸かしが置かれ、やはり薬草由来なのかやや甘い香りが湯気と共に立ち上っている
火に当たりながらもその様子をシリアがどこかぼんやりと眺めていると、やがて黒髪の青年は手元にあった木製の器へと注ぎ、片方をこちらへと手渡してきた




