ⅩⅨ
クロムは数分と経たないうちに戻って来た
手には薬箱と外套か何かだと思われる折り畳まれた丈の長い布を持っている
「お待たせ」
彼は長机の上にそれらを置き、薬箱を開くととても几帳面に整理された中から石細工の器に収められた塗り薬を取り出した
「頬の手当をしたいんだけど、いいかな……?」
おそらくは自分に触れても構わないかという質問であろうそれにシリアが頷いてみせれば、彼はその薬を自分の手に取って指で薄く伸ばす
「少しだけ滲みるかも」
そうしてクロムはシリアに顔を近付け、その傷の様子を確認しながら彼女の頬へと指で薬を塗りつけていく
「……んんっ」
オニキスの瞳はシリアのそれとぶつかる事はなかったものの、シリアは気恥しさもあってこそばゆい気持ちになる
薬は彼の体温で人肌程度には温められていたが、少し蒸気していたシリアの頬には若干ひんやりとしているように感じられた
「うん、終わり」
何事もなく処置を終えたクロムは薬箱に元あった通りにしまうと再び椅子から立ち上がり、やはり外套であったそれを羽織る
その様子をどこかへ外出するのだろうかなどとシリアがぼんやり眺めていれば、彼は彼女の方を振り返った
「シルさんのことを心配してるだろうし、城の方まで連絡してくるね」
「あ、そうですね……すみません」
そういえばといった具合にシリアは思い出す
本来であれば彼女は夕食の時間に合わせて部屋に戻っているはずだった
それが何の連絡もしないままこんな時間まで出歩いてしまっているのだ
賓客が突然いなくなったともなれば、今頃あちらで多少の騒ぎになってしまっていてもおかしくはない
そこまで思い当たってしゅんとしたシリアに彼はなだめるように小さく首を横に振ってみせる
「大丈夫。ちょうど兄さんに伝えたいことがあって、そのついでだから」
どうやら城の方に兄がいるらしい
だから大丈夫だよと彼は重ねると、部屋の奥に鎮座していた簡素なクローゼットと棚の中から毛布といくつかの果物を取り出してシリアへと手渡してくる




