ⅩⅥ
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「すみません……お待たせしました」
青年に与えられた水桶と布で身支度を整え、それらを渡された際に黒髪の青年から後で来てと言われた玄関の正面の部屋へと足を踏み入れたシリアは、その部屋の奥、暖炉の火を使って湯を沸かしていたであろう彼へと声をかけた
「ううん。お茶も煮出せたところだから、丁度よかった」
青年は優しげな表情を浮かべつつ、彼の近くにあった木製の椅子を手で示す
シリアがその通りに席に着けば彼は近くにあった棚から木製のカップを2つ取り出し、火にくべていたポットから甘い匂いのする黄金色の液体を注ぎ、そのうちの片方をシリアへと差し出してきた
「どうぞ。薬草茶だから口に合うかは自信ないけど」
「……ありがとうございます」
「まだ熱いから気をつけて」
そう言うが早いか彼はシリアの前で先に自分の分をひと口飲んでみせた
別に疑ってはいなかったのだが、それが安全なものであるというのを言外に示してくれたらしい
それを受け取り火傷をしないように息を吹きかけてから口に含めば、花の蜜のようなじんわりとした甘さとともに身体の芯まで熱が広がっていくのが感じられた
ほぅ……と口から息が漏れる
と、同時に自分の緊張が解れて行っていることがシリアにはよくわかった
「おいしい、です」
「よかった。セコルの根と刻んだリセの茎を入れてる
鎮静作用と疲労回復に効果があるから、気分が落ち着きやすくなる」
「そうなんですね、ありがとうございます」
シリアがお礼を言えば、彼はまた優しげな笑みを浮かべる
雪のような白い肌と黒髪と黒目はかなり特徴的なものではあるが、彼の纏う雰囲気はどことなく誰か知っている人に似ているような気もする
フワフワとして全体的に柔らかい印象の人と思っていると、黒髪の青年はその黒い目でシリアを見つめた
「僕はクロム」
黒髪の青年ーークロムはそう言うと彼女に微笑みかけ、それを受けてシリアは真っ直ぐに姿勢を正す
やはりその髪色と瞳同様に王国ではあまり聞き慣れない響きを持つ名前だ
「この国の生まれではあるんだけど、とある流浪の一族の血を引いてることもあって苗字なんかは持ってないんだ。だから気軽にクロムって呼んでほしい」
「はい。クロムさん」
「うん」
彼がにこやかに頷いたのを見てから、シリアは手に持っていたカップを1度テーブルの上へと置いた
名乗りを受けてから名乗り返さないのは失礼に当たるし、それも茶を持ったままでなどということは貴族としては許されたものではない
まずはファーストネームからと、彼女が「私はシリアノルです」と口にすればクロムは「もしかして、貴族?」と尋ねてきたので頷いた




