ⅩⅤ
やはりここは青年のためにも出ていくべきじゃないのか、などと考えていると青年が玄関口の扉を開いたであろう音がした
「何の用かな?」
「女はどこだ」
シリアが扉に耳を寄せてみれば聞こえてきたのは青年と山猫の会話
朗らかなままの青年の声に対し、山猫の声はどこか棘のある突き刺すようなものだ
「女……?」
「ここにいるだろう。目立つ髪色をした女のことだ」
「特に見てないけど」
「テメェ……」
悠々とした返しに山猫の眉間に皺が寄る
だが、彼はすぐに表情を取り繕うと嘲るように口の端を歪めた
「ま、調べればわかることだ」
そんな彼の言葉にシリアの心臓はさらにうるささを増していったが、結局シリアに山猫の近付いてくるような足音が聞こえることはなかった
「……誰の許しがあって?」
淡々とした、けれどもかなり圧のある言葉が黒髪の青年から投げかけられたからだ
彼は人の良さそうな表情を浮かべたままであるにも関わらず、まるで場の空気が変わってしまったかのように山猫には感じられた
「……ッ!」
一瞬気圧されてしまい息を飲むが、彼はしばらくしてから絞り出すように目の前の黒髪の青年へとその目的を告げる
「……俺は王弟の命であの女を探してる」
「なら、これもその命?」
「そうだ」
シリアと対峙していた時とは違い、淡々と告げる山猫
どうやら彼にとってその王弟陛下の遣いという立場はよっぽど信頼できるものであるのだろうその声音は徐々に元の調子を取り戻していく
「君の主は、正式にこの第3庭園と対立するって、そう言ったんだね?」
「だあああ……クソ!」
しかし、再び青年から圧をかけるかのような言葉が投げかけられたことで、山猫は大きく表情を歪めると、苛立ったように屋敷の壁をその拳で打ち付けた
「……俺の、俺の一存だ。これは命じゃねえ」
「そう、それなら僕は見てないから庭園の外を探しなよ」
血を吐くように苦々しげに吐き出される声にも青年はあっけらかんとそう返す
山猫は親の仇でも見るような憎悪の込められた目で黒髪の青年のことを睨み付けていたが、そちらもさして気にする様子はない
「チッ……このバケモンが……!」
やがてそんな捨て台詞とともに乱暴に扉が開く音が聞こえ、山猫が立ち去っていくのがシリアには感じられた
ーー助か……った?
息を吐こうにも気が置けず、全く状況が掴めないままに目を白黒させていればやがてこちらへと青年の足音が近付いてくる
小さなノックの音がして返事をすれば、扉を開けた青年が優しげな笑みを浮かべていた
「大丈夫?」
「あ、はい。その……ありがとうございました。その……私は……」
姿勢を正してからお礼を言えば、彼はどう致しましてと返して来る
そうして色々と話し始めようとしたシリアを手で遮ってから青年は
「まずは身体を清められるように桶に水を用意するし、お茶を淹れるよ。詳しい話はまたその後で」
とだけを言い残し、そのまま部屋を出ていった




