ⅩⅡ
シリアだって貴族の女だ
それが自分ではなくいわゆる「普通の貴族」であるならば、きっとあの場面ではあの少女を見捨てていただろうし、それがこの貴族社会においては当たり前なのだということだってわかっている
それでも身体は動いてしまった
他の衛兵たちや騎士たちのように知らぬ存ぜぬで通せばよかったのに、幾度となく、自ら進んで少女へと声をかけた
その行動をしたことに後悔はなかったが、結果がこれなのだから自分の見通しの甘さを呪うしかない
しかも自分で首を突っ込んでおきながらその始末をつけられないというのだからなお悪い
貴族としては不徳の致すところだと感じていたし、力の足りないことを悔しいと感じてもいた
ーー悔しいからこそ、無理にひとりでやろうとして事が取り返しの付かなくなる前に、誰かの助けを借りた方が絶対に良い
そこまで思い至ってから、シリアは少しでも深く呼吸をしようと意識をする
さっきから余計なことを考え始めているのは、ずっと走り続けているせいで脳に酸素が足りなくなって来たのか、それとも足音が聞こえなくなったせいで気が緩み始めているのか
叔父やギルマンたちの元へと向かうことを決め、この数日のうちに記憶していた城の地図を頭に思い浮かべていた彼女はそれに気付き、あわてて辺りを見回した
ーー足音が、しない……?
あんなにわざとらしく聞こえていたはずのその音がいつの間にか消えている
逃げ切ったのだとすれば喜ばしいことなのだが、自分よりも体力も速さもあるであろう相手から簡単に逃げ果せたなどと思えるほどシリアは楽観的ではなかった
こちらが走るのを止めないのだと理解した相手がやり方を変えたのだと言う方が現実的に思える
シリアは先程までと同じように廊下を走る素振りを見せると道の端へと身体を寄せ、助走をつけてからそのまま道の向かい側の廊下と中庭を隔てている柵へと飛びついた
この中庭を通り抜けて進んだ方が目的地まで多少は早くなるだろうという目算もあったが、居場所を隠してからおそらくは自分の先回りをしているであろう山猫の虚を突くためにもこちらの方が都合が良かった
「ん、しょ……っと」
両の腕に力を入れ、身体を持ち上げる
あまり力のないシリアではあったが、十分な助走をつけ、あるいはシリアの身体が軽いことも幸いしたのかそこまで苦ではないようだ
「んっ……」
そのまま身を乗り出して柵を越えようとすれば、本来向かっていたであろう道の先で一瞬何かが光ったような気がしてシリアは向こう側へと渡るためにその身体に勢いを付けすぎた結果、肩から中庭へと落ちることになってしまった
ずさっという音がして、ちょうど日陰になっていたのか湿った土と草の匂いが強く感じられた
数瞬の間に、自分の上を銀色の光が風切り音とともに通過していくのを見届けると彼女は再びその身体を起こす




