Ⅶ
そんな彼らのやり取りはまるでどこか違う世界のことのようにシリアには感じられた
「……なん、で?」
彼らは何を言っているのだろうか
たとえ自分が王族であり、目の前に気に入らない、あるいはその逆でとても気に入ってしまった相手がいたのだとしても大義名分もなく、相手を不当に拘束することが許されていいわけがない
淑女を相手にし、あろうことかその肌に傷をつけようというのであればなおさらだ
男性の私室にひとりで足を踏み入れたということでさえ醜聞になりかねない貴族社会において相手が王族とはいえその私室に連れ込まれ、さらにはそれがどのような意味合いであれ傷ものにされるなどということがあったならば、その女性は金輪際もう嫁ぎ先を得られなくなってしまうだろう
いくら王族だからって、そんなのが許されていいわけがない
それに、少なくともシリアの知る限り彼の兄ーー『変革王』は権力を持つ立場の者がそんな行いをするのを決して許すような人物ではないはずなのだ
ーーそんな方と血を分けているはずの王弟陛下が、なんで……!
「ってわけでさ、別にあんたには恨みはないんだけど、大人しく捕まってくれるかい?」
自身に向けられたその不気味な笑みに、シリアは思考の海から現実へと引き戻される
無意識のうちに身構えれば、山猫はやはり笑っているようにも見える顔で腰に吊ったナイフの鞘をこちらに見せつけるかのように撫でつけた
「お〜、抵抗する? しちゃう? 痛い目を見ないうちに捕まってくれた方がお互い面倒がなくていいと思うんだけども」
けれども、シリアは彼のその脅しに少しの恐怖を感じてもそれを受け入れるようなことはしなかった
「お断りします……!」
彼女は自分を奮い立たせるように小さく拳を握り、強い意志を込めた目で山猫を見据える
『貴族とはそれ則ち国家とそして民の盾である』
『汝、民を愛せ』
『汝、常に奢ること勿れ』
『汝、正しきを為せ』
それこそが彼女の家で代々受け継がれているリスクラッド家の教え
貴族でありながらもその家柄かあるいは血筋なのか、傲慢さのようなものは持ち合わせてはいないシリアではあったのだが、そんなリスクラッドの家に生まれ、またその血を自分が継いでいるということは紛れもなく自身の誇りであると言えた
いくら自分の身が脅かされようとも、リスクラッドの名を持つ者として、ここで相手に屈するわけにはいかない
それが彼女の矜恃




