Ⅵ
そんな探るようなやり取りをしながらも、シリアは目線だけであたりを見回す
さすがに通路とはいえど王弟陛下の姿があるからか、所々に騎士や衛兵の姿が見受けられたが、彼らは我関せずといった具合で一様に表情を暗くし何も見ていないとばかりに顔を伏せていた
また少し遠くに見える使用人や役人たちはこちらには巻き込まれないようにと回り道をしているのが見て取れる
どう考えても助けは得られそうにない
とはいえ本来であればこれが正しい対応なのだろう
むしろ自身の身分では決して関わるべきではない面倒事に首を突っ込んでしまったのはシリアの方である以上、そこに一切の文句はなかった
「気は済んだか」
やがて確認を終えたのを見計らったかのように青年は告げる
彼はどこか値踏みするような視線でシリアへと歩み寄ろうとし、それに気付いたシリアも同じだけ後ろに下がった
「……チッ、不愉快だ……山猫!」
そしてそれがついに逆鱗に触れることになったのか、彼は表情を歪め舌打ちをすると小さく叫び、それが名前かあるいは合図であったのか彼の背後にあった柱の陰からひとりの男が姿を現した
「あいよ」
飴色の髪を持つ、どうにも軽薄そうな印象を受ける20代の男だ
きちんと見えているのかと疑いたくなるほどに細められた目のせいで瞳の色は窺えず、一見するとその表情は笑っているようにも見えなくもない
薄汚れて少々くたびれた皮の服をだらしなく着崩し、腰のベルトに分厚い刃を持つナイフをくくっている姿はおよそ役人や衛兵などには見えず、誰がどう見ても日銭をまっとうな手段で稼いでいるものではないのだというのが明らかだった
しかし、そんな人物が出現してもなお衛兵たちに動揺の色はない
もはやそれが見慣れた光景だとでもいうのか、やはり彼らは一切の出来事に関与していないとでも言いたげに顔を背け続けている
「仕事だ。そこの女を部屋まで連れてこい。だが顔と胸、そして腹は傷付けるな。後々興が削がれることになりかねん」
「……これまた面倒な注文で」
見るからに危険な人物が姿を表したことに何も言えなくなるシリアの前で、飴色の髪の男ーー山猫を振り返ることもせずに王弟はそう告げると、山猫はやれやれといったばかりに肩を竦めたが
「逆にそれさえ守れば手足の1本や2本は捥いでも構わん」
「へぇ、それはそれは」
次いでその依頼主に告げられた内容にニィと口の端を歪め、どこか歪んだ笑みを浮かべた




