Ⅱ
あの肝の冷えるような会合の後、別室へと連れていかれたシリアはその先達たるギルマンによって今回の事の次第を聞かされている
彼によれば、近年身体に限界を感じ始めた彼はその役割を辞し、田舎で隠遁生活を送ろうと考えたそうだ
しかし、そうしようにも後継となる人物がおらず、頼りになるような弟子もいなかった
故に彼は陛下とその後見役たる聖騎士卿に推薦をしてもらうようにと願い出たらしい
とまあここまでは普通の話であったのだが、こともあろうにその聖騎士卿は持病の姪煩悩を遺憾無く発揮してシリアを候補へと推し上げた
普段からその話を聞かされていたであろう陛下も、例の芝居や領の改革によって情報に触れていた知の者たちもその見立てを信じてしまった上で「どうせなら1度城に招いてみればいい」と話が纏まってしまったのだという
そして何も知らないシリアが王城へと足を踏み入れ、結果彼らのお眼鏡に適ってしまったというのが話の全てだった
なお、これは余談としてギルマンが語ったことなのだが、国王陛下たるジーウェインは臣下の者とその身分を伏せてーーとは言っても容姿で一目瞭然なために全く隠せていないのだがあくまでお互い対等だという体でーー話し合い、相手と忌憚なく語らうということを生きがいにしているらしく、あの執務室もどうやらその為だけに設えられたものであるのだそうだ
しかし城内ではもはや公然の秘密となってしまっているらしく、シリアはそれを笑い話として聞くべきなのか少々迷ってしまった
「はぁ……」
もう一度彼女は深くため息をつきながら手にしていた本を眺める
『救国の騎士』
彼女の叔父であるファーレインの通り名にもなっているそれは、その題の通り救国の騎士たるファーレイン・ミシアス・リスクラッドや、ドロミスの悲劇を含めた彼の戦いを描いたものだ
だいぶ脚色をされており、歴史的文献としての価値は低いものの、まるで英雄譚のようなそれは王国の民たちに深く愛されていた
シリアは表紙に描かれた白銀の鎧を身に纏う騎士を指でなぞる
私が選ばれたのは彼の姪だからなのだろう
それはきっと誰の目にも明らかなこと
現在の状況はそんな風にしか朱の髪の少女には思えなかった
私が選ばれたのは私が飛び抜けて優秀だからなのではなく
私が飛び抜けて優秀なファルにーさまの、それなりの功績をあげた姪だから
そこまで考えてから彼女は手に持っていたそれを本棚へと戻すと、両の手で自分の頬を叩く
それはあまり強いものではなかったが、その音が静まり返った図書室内に響き渡るには十分だった
「よし……がんばろう」
ぴりりと痛みが走り、わずかに赤くなった頬をそのまま押さえながらシリアはまっすぐに前を向く
今自分が飛び抜けて優秀でないなら、これからそうなればいい
他でもない自分の力で、ファルにーさまや陛下、ギルマンさまとアイゼルさま
ーー自分を信じてくれた人々の目は間違っていなかったのだと証明してみせよう
シリアはただ自分の心にそう固く誓った
青い鳥は未だはるか遠くーー、




