Ⅲ
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太陽が傾き、橙色が溶けて空が泣き出したように滲み始めた頃
ようやく図書室を後にしたシリアは日中より少しばかり人気の減った城内を歩いていた
城とひとことで言っても王城であるエルフェンリートのそれは建物の集合である
王が住まい王居に執務棟、騎士団のいる練兵場とその宿舎、他国からの使者など要人を饗すための宮殿に現在は使われていない後宮やいくつもの離宮
それらすべてを取り囲む城壁とその所々に設けられた詰の門からなる全長はかなりの規模であるのだが、おそらくは緻密な計算の上での設計であるのだろう蜘蛛の巣のように張り巡らされた連絡通路によって主要の場所へと行き来出来るようになっていた
自室にいればどうしても使用人たちと過ごさねばならなくなるため、あまり部屋には戻りたくないシリアであったが、決まった時間には食事が運ばれてきてしまう
誰かの好意を無下にすることができない性分であるが故に、彼女にはどんなに居心地が悪くてもそこに戻らないなどという選択肢はなかった
「も、申し訳ございません……!」
そうして懐中時計に目をやりつつ、足早に通路のひとつを通っているとシリアはどこかから消え入りそうなほど微かな女の声を聞いた
どうやらそこの角を曲がってすぐの所であったらしい、シリアが何事かと足早に辿り着き顔を覗かせればそこには使用人と思われる少女の背と、それに隠れてよく見えないもののその少女の手を掴みあげる男と思わしき姿があった
「どうか……どうかお許しください」
少女は身を捩って何とか逃れようとしてはいるものの、男の手はがっちりとその腕を掴んで離さない
抵抗もままならず、けれどなおも後退ろうとする少女の姿にシリアは思わずその角より飛び出していた
「どうかされましたか?」
咄嗟に声をかければ少女の肩が跳ねる
彼女は恐る恐るといった具合にこちらへと振り返り、今にも泣き出しそうなその表情を向けた
おそらく城へ来てからまだ日が浅いのであろう年頃はシリアとあまり変わらないように見える
彼女は何かを口にしようとしたが、それが言葉になるよりも前に不意に男がその手を引き、彼女は大きく体勢を崩すことになった




