Ⅰ
エルフェンリート王国、王居の中にある一室
あまりの大きさに遠くを見渡すことも出来なくなるほど長大な空間であったそこには、目が眩んでしまうほどの数の大人の背丈よりもある本棚が列を成し、夥しいほどの書物が収められていた
豪奢なシャンデリアが輝く天井は吹き抜けになっている
部屋の内部には中2階や3階が設けられ、やはりそちらにも1人の人が一生をかけたとしても到底読み切れないであろう数の本という本が並んでいた
「はぁ……」
しかし、エルフェンリート城図書室ーー別名『知識の泉』などとも呼ばれているそこにあって、朱の髪の少女はもう何度目になるのかもわからないため息をついていた
普段のシリアであればまず間違いなく目を輝かせていたであろう圧巻の光景ではあったが、さすがに連日と通い詰めていることもあり、もう慣れてしまったとばかりに感慨を深くすることもない
いや、数日前に初めてこの場所を訪れた時でさえ彼女は声をあげることも、もしくはその喜びを身体で表すようなこともしなかった
それをするだけの余裕が現在の彼女にはなかったのだ
シリアの記憶力が今ほど優れていなかったとしても、おそらくは一生忘れないであろうあの会合から既に数日が過ぎている
結局断ることなど出来るわけもなく、『知の者』となることを認めざるを得なかったシリアであったのだが、どうやらすぐにその場でなるというものでもなかったらしい
まずはじめにシリアのための紫のローブを作り、袖を通した状態で称号授与の式典を行わなければならないそうだ
式典が催されるまでは『知の者』として正式に認められることはなく、その間は引き続きギルマンが『知の者』としての役目を果たさなければならないのだという
故にその日までは王都で自由にして良いという許しをシリアは陛下から頂くこととなったわけである
当然寝泊まりできるようにと城内に部屋も用意されたのだが、食事に湯浴み用の仕度や髪につける香油どころか、おそらくは身分確かな貴族子女の生まれであろう上級使用人までも与えられる賓客待遇
下手をすれば自分よりよほど高貴な生まれであろう彼女たちに世話をされるなどという状況でシリアの心が休まるはずもない
よって彼女はいつも逃げ込むようにこの場所へと足を運んでいるというわけだ
王城で働くものであれば誰にでも開放されているらしいそこに彼女の他に人影は見えない
単純に自由に本が読めるというのもあったが、王城の中にあって静かに時間が流れていくのを感じられる図書室は現在の彼女にとって唯一心休まる場所と言ってもよかった




