ⅩⅨ
シリアの知る限りでは普通こんな事はありえないはずだ
いや、彼の言葉通り「現行2名以上の承認があれば」というのはまさに王国の「規定通り」であり、それ自体に問題はない
では何がおかしいのかといえば「大した功績もない歳若い田舎貴族の娘を選出すること」である
たしかにシリアは領主として自領の発展に寄与したとも言ってよい
だがそれはあくまで地方の小さな領地での話に過ぎないのだ
知の者は王国の賢人たちの頂点であり、間違ってもそんな軽々しく扱って良いものなどではないはずだ
そんな風に考えていると深い青紫の目にどこか怪しげな輝きを宿した青年が柔和な笑みを浮かべる
「大丈夫ですよ姉上。先程まさに姉上が私に語っていただけたではありませんか
それにその塩梅を見極めることについてもお力添えいただけるのでしょう?」
その言葉にシリアは自分の血が冷えていく思いだった
そうだ。そうなのだ
歴史上の人物であるならともかく、現在の国王陛下や国の方針を評し、それに口を挟むことが唯一許されているのは『知の者』のみ
それをシリアはこれからも行うのだと目の前の青年ーー国王陛下へと約束してしまったのであり、つまりはそのお役目をお受けするのだと宣言してしまったに他ならないわけで
ーーなんで!? どうして!?
わずか数秒足らずでそのことに思い至った彼女は無理ですと叫びたくなる気持ちを必死で押し殺す
構わないと自分で言ってしまった手前、この場で断ることはできそうにない
それでもとシリアが混乱する頭のまま辺りをぐるりと見渡せば聖騎士卿と目が合い、彼がとてもいい笑顔を向けてきたことで理解した
そう言えば先程若き王は「私とファーレインからは彼女を推そうと思う」と言ってはいなかったか
最初から自分の叔父はここで起こることをすべて知っていたのだ
つまり、おそらくもう逃げ場はないと言うことでーー、
「つ、謹んでお受け致します……」
全てを悟った夕焼け色の髪を持つ少女は、ただそう力なく答えることしかできなかった
2.知の者 終
3.第2王子と庭園の主 始




