ⅩⅦ
自領の改革を進めた際、シリアはほぼ全ての村々に馬車や馬、あるいはそれらの手入れや世話に必要なものを買い与えた
とはいえ、それはあくまで村の財産であり、未だ個人として馬車を所有できるまでには至っておらず、民たちが旅をしようと思えば当然それは乗合馬車か徒歩となる
だからこそ、シリアも今回の旅もそうすることに決めていた
共に連れ立って出掛けたり、遊ぶこともなかったが、それでも数少ない父の記憶と彼の教えはしっかりとシリアの中に残っていたのだ
おかげでこのような恰好でお会いすることになってしまい申し訳ありませんが、と付け足す彼女に金色の青年は思わず目を丸くし、朗らかな笑みを浮かべていた老人は頬の皺をより一層深くした
「なるほど、どうして」
「……ええ、例の芝居にあった通り、ですね」
「……はい?」
ようやく聞こえてきた紫の髪の男ーーアイゼルの言葉に思わずシリアの表情が固まる
ーー芝居? 今芝居でって言った?
それってまさか……
いやな予感と共に冷たい汗が背中をだらだらと流れていく
と、同時に身体の内側からふつふつと何かよくない熱が湧き上がってくるのをシリアは感じた
さて、時に詩や芝居などによって人々の間で語られるようになる2つ名なのだが、実を言えばメイフェルベリーやその周辺領の発展に寄与し、領民たちから深く愛されているシリアも当然のごとく持っている
数年前の彼女の誕生祭の日、彼女と仲の良い劇作家を目指す自領の少年によってシリアのそれまでの生涯をなぞるような芝居が行われたのだ
リスクラッド家使用人たちからの情報提供もあり、史実に忠実なそれはシリアにとって彼らからの愛情を感じられるとても嬉しいものでもあったのだが、同時にとても恥ずかしい内容なのでもあった
というのも、後に彼女の呼び名ともなるその題名がシリアからすれば自分には見合わないようなとても畏れ多いーーというかはっきり言ってかなり恥ずかしいものであったからだ
ーーその名も
「『いと気高き清廉なる処女』」
あるいはそれを縮めて『清処女』
領民たちから慕われ、まさに彼女に相応しいと周囲では言われているその呼び名にシリアは身体中の血液が沸騰したように駆け巡るのを感じ、隠すように両手で顔を覆った
指の隙間から窺える顔色はその朱の髪よりもさらに紅く染まっている




