Ⅶ
「たぶん、君は私を他の誰かと勘違いしているようだね」
決してそんなはずはございません、と心の中だけで返しながらシリアは彼がそのまま楽しそうに話す声を聞く
「ただの執務室なんかにそんなことをしなければならないほど身分の高い人が来るはずもないよ。それにもしそんなことがあったとすれば、騎士団の者たちも、役人や従者、使用人たちもみんな困ってしまうだろうね」
だから、そんな人物ーー国王陛下などというお方はこの場にはおられない
いや、いないことにしなければならない
だからこそ、ここは完全に非公式な場であるのだ、ということを金色の青年は言外に告げていた
それを理解したシリアが恐る恐ると言った具合に顔を上げてみれば彼の瞳は優しげに細められ、またその唇も緩やかに弧を描く
あまり人の見目について何かを思ったことはないシリアなのだが、こういう人物を綺麗や格好いいというのだろうなというのがあたまを過ぎり、
自分はこの場から逃げ出してしまいたくなっているあまりに現実逃避してしまっているのかもしれないとこころの中でわずかに苦笑した
「私は、そうだね。ファーレインの友人であり優秀だという噂の彼の姪が王都に来ると知って会ってみたいと思っただけの男だよ」
「私は、そんな……」
「ファーレインから君の話をよく聞いているし、今まで君がしてきたことも知っているつもりだよ
その全てを通して見ても君はまず間違いなく優秀な人物だと言える」
ーー何てことしてるのファルにーさま!!
そんなシリアの心の叫びにも気付くことなく、青年はにこやかに微笑み「心根の美しい女性だということもね」と言ってから彼女の手を引いて立たせ、そのまま近くのソファーまでエスコートしていく
あまりにも畏れ多いそれにシリアの心臓は跳ね、思わず口から飛び出そうになるほどだった
触れられた指先がどくんどくんと脈打ち、背中あたりは噴き出した汗でじっとりと濡れているのを感じる
今にも倒れそうになりながら席に着いたシリアの正面に座り直し、先程まで壁際に控えていた専属の従者がお茶を煎れたのを見計らってから青年はさて、と再び口を開いた




