Ⅱ
さて、そんな幼い頃の私はといえば、言葉を覚え始めるとすぐに幼児期特有のあれを始めるようになったそうだ
そう、あれだ
「なぁに?」と「なんで?」攻撃だ
目につくものをひたすら指差しては「あれはなぁに?」と尋ねて名前や仕組みを教わり、何かを言われる度に「それはなんで?」と理由を求めた
屋敷のみんなはいつまでも終わらないその口撃に常にあたまを痛めていたそうだ
それもそうだろう常に誰かに纏わりつき、やかましく尋ねてくる私を面白く思うわけがない
けれども、叔父さまは、
ファルにーさまだけはそんな私を決して見捨てようとはしなかった
嫌な顔をひとつせずに、いつも笑顔で答えてくれた
いつもこの国の、世界のことを教えてくれた
今考えれば忙しい合間を縫って相当調べてくれていたのだろう一介の騎士が知るはずもない治水工事や石畳、身近な薬やそれの原料となる植物についてまで澱みなく答えてくれる彼は私にとって間違いなく勉学の師であるに違いなかった
けれども、そんな彼が今までにただひとつだけきちんと教えてくれなかったことがある
それは彼が幼い私を引き連れて、王都の建国祭へとやってきた時のことだ
今まで見たことないもの、聞いたことがないもので溢れたそこで、私はいつも以上にはしゃいで回り、そんな私を叱りつけるでもなく、ファルにーさまはただ笑顔で手を引いてくれた
そうして王都の祭を大いに楽しみ、そろそろ帰ろうかと彼が言ったその時だ
茜色の空模様の中を一羽の鳥が羽ばたいて行くのが見えた
今でもよく覚えている
薄青色の透き通るような風切羽を持った大人の手のひらばかりの大きさのとても綺麗な鳥だった
「きれー」
私はその鳥がお城の周りを飛び、やがて王居へと向かっていく様子をただただじっと眺めてからいつものように、いや、いつもよりも熱のこもった勢いで尋ねたのだ
「ファルにーさま! あれは!? 今のはなぁに!?」
私と同じようにその光景を見つめ、けれどもどこか寂しそうな顔を浮かべていたファルにーさまは小さな声で「アルトローネの鳥だよ」と答えた
けれど、それ以上は何も教えてはくれなかったし、以降彼がアルトローネの鳥について語ることもなかった




